Ⅱ.
12.あらすじは判断基準になるか、否か。
後日。
俺は先日の約束通り、喫茶二見で、
ちなみに、今日
従って、いつも俺が案内され、二見をはじめとして、人が集まりやすい、一階奥の四人席は今、俺一人が独占していることになる。一人で使ってしまって良いのかなと思わないことも無いのだが、今は比較的店内にも余裕があるので、良いことにしている。
と、いうか、店員さんが真っ先にここに通したしね。なんだったら、二見が出払ってるのも教えてもらったし。もしかしなくても、俺が二見を目当てに来ていると思われているのかもしれない。いや、まあそれ自体も間違いではないんだけどね。ニュアンス的には「恋愛」というより「暇つぶし」なだけであって。
そんなことを考えていると、カランコロンという音がして、店の扉が開かれる。入って来たのは一人の女子高校生──星咲だった。星咲が辺りを見渡していると、店員が寄って行って話を聞く。やがて、その意思を確認した店員が俺のところまで案内する。
俺と向かい合うようにして座った星咲は開口一番、
「アンタ、学校来なさいよ」
「最初にする話、それ?」
星咲は先ほどの店員にアイスコーヒーのオーダーを伝えると、更に話を掘り進める。
「だってアンタ、殆ど来ないじゃない」
「え、なに。俺と会いたかったって?」
「は?誰がそんなこと言ったのよ。耳悪いの?」
うーん、可愛げが無いなぁ。
まあ、これに対して小粋に返してくれる二見が例外なのかもしれないけど。
気を取り直して、
「ま、必要ないしな。勉強ならわざわざ学校まで行かなくたって出来るだろ?」
「それはそうかもしれないけど……」
認めちゃうんだ。今この瞬間、全世界の学び舎が完全否定されたぞ。
「でも、それにしたってこなさすぎじゃないの?出席とか大丈夫なの?」
「ああ、それは大丈夫。計算してるから」
「計算って……あんた、最低限の日数しか出ないつもりなの?」
「ま、そういうことだな」
より正確には最低限“未満”である。
純粋に出席日数を数え上げていけば、実のところ足りなくなる計算だが、その辺りを上手いこと誤魔化してくれる「知り合い」がいるって話。こんなことを星咲に言ったら確実に切れられるし、なんだったら大問題に仕立て上げられるだろうから、言わないけどな。そもそも未満って言っても、日数で行ったらほんの数日の話だし。
「はぁ……まあなんでもいいけど。それより、ちゃんと作ってきたんでしょうね?」
「一応な」
「一応って何よ。ちゃんと考えたの?」
「考えたよ。ただ、そんなに細かいところまでは考えてないけどな。あくまで、ざっくりとしたあらすじだけだ」
「ならいいわ。あらすじでも判断するには十分でしょうし」
ほう。
星咲の言い分をそのまま信じるのであれば、どうやら俺と同じタイプらしい。
物語の良し悪しをどれくらいの情報量で判断するかは正直、人による。ただ、大体はその「作品を読む能力の高さ」と反比例する。
俺や二見、更には
その「面白いと感じるかどうか」の結論に多少の差異はあるが、少なくとも俺から見た三人の評価タイミングが間違っていたことはなく、ずっと読んでいた作品を「切る」タイミングもまた、大体似通っていた。要は「力量次第で大体のポイントが一致してくる」ものなのだ。
ところが、こと「あらすじ」となると、これがはっきりと分かれる。
俺ら四人の中では俺と安楽城があらすじだけでもある程度「面白そうか」が判断出来るというタイプで、二見と安楽城の編集があらすじだけでは全く分からない、というタイプだ。
もちろん、分からなくはない。作品そのものとは違って、作家自身の息が吹き込まれているかも分からないあらすじでは、力量が体感的に分からない、というのはもっともと言えばもっともだ。
ただ、俺からすれば「設定の時点で面白くなる気配のない作品を足切りする」くらいは出来ると思っているのだが、そういう発想は無いらしい。昔、その辺のことを二見と話し合ったことがあるのだが、その時のあいつときたら、終始頭の上に「?」が浮かんでいるような表情をしていた。分からない人には分からないのだろう。
そういう意味で言えば、星咲は俺と同じ立ち位置にいることになる。ま、それもこいつの言い分を信じればの話だけど。こいつ、盛り癖ありそうだしなぁ……
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