13.見られたくないものも入ってるって話。
俺は鞄からクリアファイルを取り出して、
「ほい、これ」
「なにこれ?」
「このタイミング以外でシナリオのあらすじと設定以外に渡すものがあるか?」
「や、それはそうだけど……」
「わざわざ印刷しなくても良かったんじゃないの?」
「そうか?」
「え、もしかして
「いや?ノートのも持ってるし、タブレットもあるぞ?」
「なら、それをそのまま渡せばいいじゃない」
「えー、なんかやだ」
「なんかって……」
いや、だって、ねえ?分かるでしょ?相手は
「印刷しておけば、持って帰れるだろ?」
ところが星咲からは賛同が得られず、
「えー……それだったらデータで送ってよ」
「どうやって」
「それ……は」
戸惑う。
ま、そりゃそうだろう。何せ星咲は俺の連絡先を知らないからな。今日に関してはたまたま後日学校で直接確認が取れたからよかったものの、そうでもなかったら、いつ現れるかも分からないやつを毎日この席で待ち続ける必要があった。ま、もしそうだとしても、そんなめんどくさいことはしないけどな。
星咲は暫く考えたのち、
「……まあ、これでいいわ」
「連絡先交換する、みたいな発想には至らないんだな」
それを聞いた星咲は明らかに嫌悪感をあらわにし、
「は?なんでアンタに連絡先教えないといけないのよ。馬鹿じゃないの?」
「馬鹿はお前だ。データでやり取りするとなったら、メールなりなんなりの連絡先を知ってた方が良いだろう」
「べ、別に、それはUSBメモリとかでも良いじゃない」
「良いけど、それを渡すのは俺だぞ?ちゃんと返ってくるかも分からないのに、そんなことするくらいなら、俺は印刷して渡すけどな」
「…………(チッ)これね」
わお、舌打ち。別に俺は間違ったことを言った覚えはないんだけどな。強いていうなら「お前に物を渡したら返ってこない」扱いはしたけど。でも、事実だろう。こいつにものを渡して返ってくるかどうか怪しいぞ。そもそも星咲がどんな人間かも分からない状態だからな。クラスメイトなのに。
星咲は、暫く黙って俺が渡した構想とあらすじの中間地点みたいなものに目を通していた。
一応、数だけでいえば五つ、用意した。
正直、星咲がどういうものを欲しているのかは分からない。今回のジャッジは俺が星咲の書いた「オリジナリティのない異世界転生」よりも面白いものを書けるかどうかを決めるためのもののはずだ。はずではあるんだけど、それを星咲がちゃんとしてくれるかは、正直怪しい。
何せ、性格が性格だ。あまり接したことが無くても分かる。傲岸不遜天上天下結賀独尊。概ねそんな感じ。謙遜という二文字からは最も遠いところに位置しているであろう性格の人間が、果たして「自分の負け」を認めるだろうか。恐らくは認めないだろう。
そういうものだ。何かと理由を付け、本来ならば無かったはずの条件を後出しし、なんだったら「人間だから意見が変わるのは当たり前」などとほざき、とにかく「自分は正しい」という事実だけを守る。そのために理論を構築する。
そこまで極端ではないかもしれないが、星咲は正直「そっち側」の人間に見える。と、なると当然、フェアなジャッジなど期待出来るはずもなく、正直なところ「まあ、そこそこじゃない」くらいの評価なら勝ちだと思っている。こちらの負けだと明確に宣言させなかっただけで、勝ったようなものだ。
と、まあ自分の勝利を導くための詭弁大好き人間たちに思いを馳せていると、星咲が手元の紙をテーブルの上に置いて、
「…………アンタ、実はプロでした~とかじゃないわよね」
「いいや」
「そう……」
星咲は言葉に詰まってしまう。どうやら俺が思っていたよりは素直なようだ。
「その聞き方をするってことは、認めたってことでいいんだよな?」
「なにがよ」
「そりゃ、俺の方が優れた話を書くってことだ」
「それは……好みの問題だから」
「お、出た。定番の逃げ口上」
「な、なによ。逃げてないわよ」
「いいや、逃げてるな。そして、何故逃げているかといえば、答えは簡単だ、お前は自分の出した結論を認めるのが嫌で」
瞬間。
星咲がそれはまあ思いっきり立ち上がったうえでテーブルを叩き、
「逃げてない!適当こくな!」
俺は人差し指を口元に当てて、
「静かに。他の客が驚くだろ」
「あ……」
星咲が振り返ると、それとほぼ同時に店内の客が一気にそっぽを向いた。まあ、うん、気になるよね。男女二人、学生くらいの年頃。思いっきり机を叩く音に、逃げてないなんてフレーズ。まあ修羅場にしか見えないよね。ごめんなさいね。この子、ちょっとそう言う所に気が回らない子なの。許してね。
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