31.平等な不平等。
生徒は皆平等。喧嘩両成敗。皆が皆のことを理解して、認めよう。恐らく教師としてあるべき対応はそっちの方だろうし、比較的校則が緩く、教師の権限らしい権限も少な目なうちの高校でも、そういう対応をする教師は多いだろう。
ただ、
ちなみに、俺が知っている限りでは(彼自身の語りを信じるのであれば、だが)そんなフリーダムかつ才能至上主義とも言える対応があだとなって、以前の学校をやめているとの話。
そんなことがあって、再び教師として復職出来るものなのかは定かではないし、実際は学校側と揉めて辞めさせられたとかではなく、隠善の方からやめたとか、そんなところだとは思うが、それにしても、年齢を考えれば復帰までのスパンが短すぎるような気もする。もしかすると、三十歳付近という年齢自体も嘘なのかもしれない。
と、まあ、俺がそんなことを考えていると、隠善が持っていた漫画から顔を上げて、
「荒いな。ただ、光るものはある」
「だろ?」
「なんでアンタが自慢げなのよ……」
星咲が俺を見つめて、不満げな視線をぶつける。いや、だって、自分が面白いと思ったものを認められるって嬉しいじゃない。それもきちんと評価出来るって分かってる相手に。
隠善は漫画を星咲に返しつつ、
「ただ、これをあいつらが理解するのは難しいかもな」
「ぐ」
まあ、そうだろうな。
それは正直俺も思った。
ただ、
「だからと言って、まったく面白みのない異世界転生ものを書くのもどうかと思うけどな」
星咲がやや慌てて、俺を制止するような素振りを見せながら、
「ちょっ……あんた、やめろっての」
「あん?異世界転生?」
「そ。こいつ。あの三匹に好かれようと必死で、それはそれは面白くない異世界転生を」
「わー!わー!」
大声を出し、俺の姿を隠善から隠すように立ちはだかる星咲。いや、そんなに隠したい黒歴史級の思い出になるなら、描くなよあんなの……
それを見た隠善はあくまで冷静に、
「……ま、星咲が何を描いてあいつらに見せようとしたのかは分からんが。星咲。お前が認めさせたいのは、あいつら三人だけなのか?」
「それ……は」
「別に俺は進路相談をしてるわけじゃねえ。だから、お前が漫画家を目指そうが、趣味で描いてるだけなんだろうが、どっちでもいい。ただな、星咲。これだけは覚えておけ。誰を喜ばせたいか。何を目指したいのか。それが曖昧なままで書いても面白いものにはならん。お前が今日描いてきたそれは、確かにあの三人を満足させるのには不適格かもしれない。けど、響く相手は必ずいる。少なくとも俺と神木には響いてる。あいつらを満足させて、うわべだけの仲良しこよしをしたいってんならそれでもいい。だけど、その三年間をお前は後で後悔しないか。あの三人に響く作品を描くことがお前にとっての目標でいいのか。そこはもう一度よく考えたほうがいいぞ」
それを聞いた星咲は実にしおらしく、
「あ、はい……考えて、おきます」
「俺の時とはえらい違いだな」
「うるさいわね」
そんな反応に隠善は、
「星咲からすると認めがたいかもしれないが、
「人の思考回路を丁寧に解説するのやめてもらえます?」
と、文句を言うが、隠善はそれをさらりと無視して立ち上がり、
「……ま、概ねは分かった。後のやつらに関してはまあ、放課後にでも呼び出すとして……神木」
「あん?俺?」
「そうだ。お前はどうするんだ?」
「いや……どうするって……今まで通りだが?別にあいつら三匹のことはどうでもいいし、今回のことがあったからって司との関係性が変わるわけでも無い。星咲は……まあ、いいとして」
「いいとするなオイ」
「いいとして!俺がどうするって話でも無くないか?アイツらだって、俺に対して何か仕掛けてくるとかはないだろ。ま、仮にあったとしたら、ちょっと痛い目見てもらうだけだ。大したことじゃない」
「そう、か」
なんだろう。隠善の反応に含みがある気がする。いや、普段から奥底で何を考えているのかが分かりにくいと言えばそれまでなんだけど、それにしたってなんというか、歯切れが悪い感じがする。
そんな隠善は、今度は星咲に、
「ま、何かあったら言ってくれ。俺で力になれるかは分からんがな」
「あ、はい……ありがとうございます」
「それと。もし漫画のことで悩んだんなら、こいつに相談するといい。ま、俺でも良いけどな」
そう言いながら俺を指さす隠善。それを見た星咲は微妙に顔を引く突かせながら、
「……考えておきます」
うん。
絶対そんなこと心にも思ってないな。
ま、いいんだけど。別に俺も頼られたいとは思ってないしな。光るものがあるとは言ってもあくまでそれだけだ。深く肩入れするほどじゃない。もし俺が能動的に動くなら、それこそ安楽城くらいの力量は無いと。
そんな一連の流れを見ていた隠善は、
「ま、頑張んな。お前らは、さっさと教室戻っとけよ。特に神木はな。来てるってことは出席する日なんだろうし」
それだけ言って、談話室を後にした。
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