44.目を逸らしたい現実を見せつけて。

「それは知ってるけど……それがどうしたんだよ」


「そんなもの決まっている。今から小路こみちに、友情の素晴らしさを証明してもらおうと思ってね。なに、やることは簡単だ。この嘘発見器を使いながら、さっき言った言葉を言ってもらうだけでいい」


「な、なんでそんなことやらなきゃいけないんだよ。お、お前にそんなこと決める権限、ないだろ?」


「そうだな。そんな権限は俺にもないし、小此木おこのぎにもない。隠善いんぜん先生にだってないだろう。だが、今重要なのはそんなことじゃない。小路。君は一体何故、この嘘発見器を使いたくないんだい?」


「そ、そんなの、信用ならないからだよ!そんな信用ならない機械で、私の考えてることを決めつけられるなんて、い、嫌だろう!」


「なるほど、それはもっともだ。嘘発見器なんてものはあくまで表面上の名前で、実際は生理的反応を用いた疑似的観測装置にしか過ぎない。それで気持ちを量れると考えるのはおろかだ。実に理にかなっていると言える」


 俺は一旦出した嘘発見器を再び椅子の後ろへと戻し、


「ただ、もし、心にやましいことが無いのならば、嘘発見器を使ったうえで、それを堂々と宣言すればいい。なにも、俺にそんな権限がないことを主張する必要性はない。最初に意味がないことを笑い。実際に使用し、嘘と判定されても、ほらやっぱり意味がないと、徹頭徹尾馬鹿にすればよかった。なあ、小路。何故それをしなかった?」


「そ、それは……」


「分からないというのならば答えを教えてやろう。小路。君の心の中にはどこか「三人の友情」について疑問があるんだ。本当に、心の底から誇れる友情で無いのではないかという気気持ちがどこかにある。だからこそ、それが嘘発見器などというアイテムによって白日の下にさらされるの恐れた。故に最初は「噓発見器を使えと命令する権限が、神木かみきれいにはない」というポイントから崩そうと考えたんだ」


「……違う」


「違わないし、仮に違うと思っていたとしても、それは顕在意識の問題だ。俺が言っているのは潜在意識の問題だ。お前が今、頭で考えている理屈の話じゃない」


 俺は立ち上がり、小路の横へと歩み寄り、


「なに、別に恥ずかしいことじゃない。俺からすればむしろ高評価だ」


「……アンタに好かれても嬉しくない」


 俺は小路の反論を一切無視し、


「三人の関係性は極めて歪だ。目には見えないかもしれないが、力関係はボスの……」


 小此木がぽつりと、


最上もがみさん」


「そう、最上が上で、他二人が下だ。そして、もう一人の」


堺田さかいださん」


「……は、基本的にコバンザメだ。基本的には最上というボスに寄生しているだけ。ようは強い人間に寄り添って、自分の立ち位置を確保するというタイプの人間だ。そして、小路。小路はあの二人と一緒にいることで、ぼっちでいることを回避したかった。違うか?」


「…………違う」


 俺はその反論をまたしても無視し、


「人間というのは不思議なものだ。別に誰かと一緒でなければ飯を食べてはいけないなんて法律はどこにもない。にも拘わらず。一人で食べるのはまるで犯罪を犯すくらい恥ずかしいことだと勘違いし、ぼっちでいることを嫌い、取り合えずでも良いから友達を作る。中にはそこから本当の友達になれる場合もあるだろう。それは美しいことだ。しかし、小路。君の場合は、あの二人にくっついているだけで精一杯だ。友達として、親しくなれてはいないのではないか?」


「……黙れ……」


 俺はなおも続ける。


「俺は小路のことをよく知らない。だから、その趣味も知らん。けれど、きっと、小路にも小路だけの趣味がある。そして、その楽しさを共有したいと思っているだろう。しかし、しかしだ、もし仮に、小路とあの二人が本当の友達になれていないのであれば、趣味について話すことは出来ないはずだ。内容によっては嫌われるかもしれない。引かれるかもしれない。そんな、話したいことも話せない相手を果たして本当の友達と、」


 俺が言えたのはそこまでだった。


 次の瞬間、思い切り立ち上がった小路が俺の胸倉をつかみ、思い切りにらみをきかせ、


「テメエ……それ以上アホなことほざくならぶん殴るぞ」


「失礼。アホなことはもう言わない。ただ、ひとつ、魅力的な提案はしよう」

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