Ⅵ.
33.人間関係はふとしたきっかけで崩れるものだ。
ところが、
「ね、
それは騒動から、一週間ほどが経過した、そろそろゴールデンウィークのことを意識しはじめる時期のことだった。
話の内容は単純だ。
あの騒動から、星咲の様子がおかしい、というのだ。
もちろん、目に見えて分かる変化はあった。あれだけの騒動があったのだ。当然ながらそれ以降、星咲と三匹がつるんでいるような様子は見られなくなった。三匹は三匹で引き続き、一匹のボスと、二匹の子分という構図は変わらずに、なんとなく偉そうな雰囲気だけは漂わせている。
ただ、それ以外でも変なことがいくつかある、というのだ。
俺が休んでいることなので、あくまで二見司というフィルターを通した認識になるが、今までとは違ってどこか、クラス内で浮いているように見える、というのだ。
そして、それ以外にも、昼休みの後に、移動教室になっていた授業に対して、大分遅れてから、息を切らせて遅刻してきたり、それまではそんな素振りを見せていなかったのに、何故か体育の授業を見学していたりと、不可解なイベントが続いたのだというのだ。
ただ、それを聞いた俺の答えとしては、
「単純に風邪気味だった、とかじゃないのか?」
そう。
事実を繋ぎ合わせていけば、まずその可能性が浮上する。
遅刻だって、体育を見学したことだって、全て風邪気味ながらも健気に学校へと通っていたから起こった出来事として処理が可能なレベルだ。星咲のことだ。きっと、ちょっとやそっとの体調不良で休むようなことはしないだろう。アイツはそういうやつだ。
皆勤賞とか、そういう、大人になってから何の役に立つのかも分からない賞にもきっと、意味を見出しているだろう。見学というだけなら一応、欠席扱いにはならず、皆勤賞を狙う上での障害にはならないはずだ。だからきっと、体調を崩していたのではないか。それはある意味当然の帰結だった。
だが、
「それに、ね。なんか皆ちょっと星咲さんを避けてるっていうか。あんまり話してない感じなの。あ、私は話したけどね。でも、その時にもちょっと視線を感じるというか、それで、星咲さんが遠慮しちゃったりして」
更なる情報を提示する。
正直、最初の時点でも考えられるレベルの結論だった。
あまりにも残酷で、あまりにも冷徹で、そして、あまりにも無意味なムラ社会の悲しき習性。
考えてみれば、星咲は元々、無理をして高校デビューをしている。本人から聞いたわけでは無いし、尋ねたとしてもきっと答えてはくれないだろうが、中学校時代の彼女はどちらかというと友達がいない方だったのではないだろうか。
そうでなければ、あんな波長も合わなければ、頭の悪い連中無理やり繋がろうとするだろうか。きっと彼女は元々友達が少なかったのだ。それでも、環境が変わればなんとかなると信じ、変化し、行動をした。そこまでは良かったのだ。
だが、結局中身は一緒だ。
どれだけ着飾っても、どれだけ行動を変えても、どれだけすり寄っても、根本は変わらない。ましてやあれだけのイベントがあった後で、三匹とも疎遠になっている状態だ。友達がいないか、最悪、
「……要するに、あいつがいじめられてるんじゃねえかって言いたいのか?」
二見は動揺して、
「そ、そこまでは……」
「んじゃ、なんなんだ?単なる体調不良か?それだったら風邪薬あげるか、保険室に連れていけばいい。でも、俺に話を振ってくるってことは、そうじゃないって思ってるんだろ?」
二見は唇を尖らせ、
「……零くんはその理論で詰める癖、何とかした方が良いと思うよ」
「やだなぁキャサリン。俺は理論で詰めてなんかないよ。ただ単純に事実を言っただけさ」
「誰がキャサリンか、誰が。それに、零くんの「事実を言っただけ」は、他の人から見たら「理論で詰めてる」ことになるんだよ」
「いやぁ、照れるなぁ」
「褒めてない、褒めてない」
暫くの沈黙の後、二見がひとつため息をついて、
「なんとか、ならないかな」
「なんで」
「いや、だって。なんか可哀想だし……」
俯く二見。
きっと彼女は、俺ならばなんとか出来る、と思ってるんだろう。
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