36.若葉マークの委員長。
……と、言いたいところだが、実のところそこまででもない。学校の成績も中の上、運動神経だってまずまずだ。部活動はバスケットボール部に所属しているらしいが、別に一年生からいきなりレギュラーというわけでもない。情報を詳しく精査すればするほど天才といいうよりは凡人に近い彼女だが、一つだけ特別なことがある。
クラス委員長である。
基本的に、高校生にもなるとなり手がおらず、大体中学校からずっとやってきた「クラス委員になるべくして生まれてきた」みたいなやつがやるのがお決まりになるのだが、彼女はどういうわけか、高校生になってから初めてクラス委員長に立候補したのだ、という。
ところが、
「上手くいかないものね……」
そう。
クラスを取りまとめるというのは実に面倒なものだ。
そもそもこの手の委員長はなぜなり手がいないのかというと、基本的に損な役回りだからだ。
クラスを取りまとめ、文化祭などの出し物を決めるとなれば必ず駆り出され、司会進行を務めることになる。それだけではない。教師によってはプリント類などを、職員室に取りに来させるような場合もあり、その運び役も、やはり委員長様がつとめることが多い。
それだけの任務がありながら、特に報酬があるわけでもなく、せいぜいが「教師からの印象が良くなる」程度。推薦での大学受験でも狙っていれば使える特典かもしれないが、そうでもなければ入学試験に「内申点」などという科目は無いから使いものにならない。
結果として、そう言った印象アップを狙う計算高いやつか、善意が服を着て歩いているようなやつでなければまずなりたがらないのだ。
そして、きっと小此木も中学生まではそんなマイノリティではなく、立候補となっても一切手を上げない、推薦にすら手を上げない。最終的な投票だけ手を上げるような、その他大勢、マジョリティだったはずなのだ。
なのに、
「なんでまた委員長なんかなろうと思ったんだ?」
そう。
問題を紐解いていくと、最終的にはそこに行きつく。
時間帯は放課後。
場所は喫茶
今俺たちはいつものテーブルに、いつもはいない来客を交えて三人で座っている。ならびとしては俺と二見が手前で、小此木が奥だ。
ちなみに、小此木をここに呼んできたのはもちろん、二見だ。学校で相談を受けた二見は、断るに断り切れずに、俺のところに「断りたいけど断れない」という状態のままスライドしてきたらしい。なるほど。だからずっと不可解な言動をしてたわけだ。納得納得。いや、納得したから良いって話じゃないんだけどね。
今何よりもの問題は、小此木が持ち込んだ「星咲詩音、なんとなくクラスから孤立している問題」であり、それを解決したいけど解決出来ずに困り切り、挙句の果てにはそのお悩みが、最もその解決とは縁遠いであろう俺に持ち込まれてしまっていることであり、更に更に潜っていけば、そもそもそんなことをするまで追いつめられてしまうレベルなのに、何故クラス委員長などという百害あって一利なしに見える役回りをわざわざ被りに行ったかという点に帰結するわけで、
「ぶっちゃけ、話を聞いている限りだと、委員長に向いてるようには見えないけどな」
「ちょっと、言い方」
二見が俺をたしなめる。が、当の小此木は殆ど気にせずに、
「いいの、二見さん。分かってるから。クラスのとりまとめなんて向いてないって」
「んじゃ、なんでクラス委員長なんてやった。しかも副委員長、ボス猿だろ?余計面倒くさいんじゃないのか?」
それを聞いた二見が実に驚いた表情で、
「え、零くん、副委員長が誰とか、ちゃんと把握してるんだ」
「え、むしろ把握してないと思ってた?」
「うん」
「即答かよ」
まあ、でも無理もない。
確かに俺がそう言ったものに対して興味を持つように見えないという、幼馴染の弁も分からなくはない。ただ、
「ま、興味はないけどな。ただ、ほら、初回で決めただろ?だから何となく記憶に残ってるだけだ」
「ああ、あの時
「いたよ。初日くらいは出るさ。流石にな。今回は
「ああ、そういう……」
二見が察する。小此木は頭上にはてなマークが浮かんでいる。このあたりが付き合いの長さってところだろうか。
俺は話を元に戻すべく、
「んで、なんでクラス委員長なんて損な役回りに立候補したんだ。ここまでの感じだと、そもそも委員長なんて名前の付くものに縁なんてなかったように見えるけどな」
「それは……」
そこから小此木は語り出した。
自分はこれまでずっと傍観者だった。何をやっても平均そこそこ、クラスの輪に溶け込めないわけではないけど、中心的人物になったことは無かった。
ただ、小学生の時、転校生としてクラスに、学年に、新しいコミュニティに加わった自分に対して積極的に声をかけてくれた友人のことをずっと覚えている。自分はあの時、声をかけてもらったことで、クラスの中で孤立せずに新しい学校での学生生活を謳歌することが出来た。今でもそれをずっと覚えている。
それが高校生となって、以前の関係性もある程度リセットされたこのクラスで、委員長となって、かつて自分を引き上げてくれたあの子みたいになりたい。そう思って立候補した。
だからこそ、クラスの中で孤立している人がいるなら力になりたいし、クラスの輪に加えたい。だけど、自分は力不足で、どうしたらいいか分からない。
困った私は、あの時騒動の渦中にいた神木くんに相談しようと思った。だけど、学校にはいなかった。だから、
「お願い。星咲さんを助けたいの。力を貸してちょうだい」
「やだ」
「即答!?」
ちなみに、今の驚きは二見のものだ。いや、なんで君が驚くんだよ。
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