【スキル変換】と【スキル付与】

 お祝いとカルラさんから食堂を譲り受けた次の日の朝、冒険者ギルドに集まった俺達は、いよいよ次の段階へと進む。

 既に俺達の能力は、当初の目的どおりステータスで表示できる上限まで高めてある。


 メルエラさん、次は何を教えてくれるんだろうか。

 俺は期待に満ちた目で、彼女を見つめた。


「フフ、次はどちらかといえばゲルト君ではなく、ライザ君だぞ?」

「そ、そうなんですか」


 俺の視線に気づいたメルエラさんが、苦笑する。

 だけど、その言葉に俺はますます期待してしまった。


「これは逆効果だったな。だが、ライザ君もこんなに彼に大切にされて、果報者だな」

「えへへ……はい」


 少し頬を赤く染めながら、ライザが嬉しそうにはにかむ。

 う……そんなことを言われたら、俺のほうが恥ずかしいかも。


「では始めるとしよう。ゲルト君、ステータスを見せてくれ」

「はい。【ステータスオープン】」


 ―――――――――――――――――――――

 名前 :ゲルト(男)

 年齢 :18

 職業 :英雄(偽)

 LV :20

 力  :SS

 魔力 :SS

 耐久 :SS

 敏捷 :SS

 知力 :SS

 運  :SS

 スキル:【剣術(神)】【一刀両断】【状態異常無効】【物理耐性】【魔法耐性(全属性)】【ステータス表示】【ドロップ(100%)】【経験値獲得(10倍)】

 残りスキルポイント:29681

 ―――――――――――――――――――――


「うむ。黒竜ミルブレアを倒して、結構スキルポイントを入手できたな」


 俺のステータスを見て、メルエラさんが満足げに頷いた。


「うわあ……ゲルトさん、すごいですね。まだ四か月しか経っていないのに、自力でここまで強くなるなんて。しかも、【剣術】スキルが神クラスになってるじゃないですか」


 カウンターからこちらをのぞき見ていたセシルさんが、感嘆の声を漏らした。

 ま、まあ、神クラスといっても単純に付け替えているだけなので、威張れるようなものではないんだけど。


「フフ……ゲルト君。君の[英雄(偽)]は、この世界に存在するありとあらゆるスキルを取得することができる、たった一つの職業ジョブだからな。類まれなる才能とたゆまぬ研鑽けんさんを積んで初めて到達できる極地も、君にとっては容易い」

「は、はは……」


 どうしよう。褒められているのは分かるが、これはこれで頑張っている人達の気持ちをないがしろにしているみたいで、非常に気まずいんだけど。


「いいですねー、ゲルトさんは……」


 ほら、早速セシルさんからジト目で見られているし。


「と、ところで、次はライザを強くするんですよね? それって、どんな方法なんですか?」


 いたたまれない俺は、無理やり話題を変えた。


「フフ、簡単だよ。ゲルト君に、【スキル付与】を取得してもらうだけだからな」

「「「【スキル付与】……」」」


 その名前だけで、俺も、ライザも、セシルさんもすぐにピンときた。

 つまり……俺が自由にスキルを付けることができるということ。それも、俺が望む相手に。


「だからこそ、ゲルト君には慎重になってもらう必要がある。むやみに他者にスキルを与えることをすれば、それを悪用する者が現れるだろうし、また、君自身も狙われることになる」

「は、はい……」


 当然だ。どんなスキルでも付けられるこの能力を、誰もが看過するはずがないのだから。

 俺がその気になれば、誰しもが最強の座を手にすることができるのだから。


「まあ、これまで君のことを見てきた私としては、それに関しては一切心配していないがな」

「そ、そうだよ! ゲルトなら、絶対に正しく使ってくれるもん!」

「うふふ、そうですね。そしてぜひ私に、すごいスキルをください」


 ここまで信用されると、それはそれで何ともむずがゆい。

 絶対に、みんなの期待を裏切れないな。


 だけどセシルさん、露骨に要求するのはやめてくださいね。


「じゃあゲルト君、【スキル付与】の取得なんだが……」

「分かりました……って、あれ?」


 表示されるスキルの中に、どこを探しても【スキル付与】が見当たらない。

 これは、どういうことだろうか。


「フフ、話は最後まで聞くんだ。この【スキル付与】というスキルは特殊で、【スキル変換】というスキルによって他のスキルを変換して生み出すんだ」

「スキルを変換して生み出す!?」


 ま、まさか新たなスキルを生み出すなんて、それこそ神の所業じゃないか……。


「言っておくが、本来変換できるスキルは、ゲルト君が取得できるスキルのいずれかだけだ、この【スキル付与】だけが特殊なんだよ」

「は、はあ……」

「まあ、理解できないのも無理はない。私もレンヤからその話を聞かされた時は、驚きしかなかったからな」


 ほ、本当に英雄レンヤというのは、一体何者なんだ……?

[英雄(偽)]が最強の職業ジョブであることを知り、さらには普通なら知りえない【スキル付与】というスキルの存在と取得方法も知っているなんて。


「では、とりあえずスキルの中から不要と思われるスキルを一つと、【スキル変換】を取得するんだ」

「はい」


 俺は今付けているスキルのうち、【物理耐性】と【魔法耐性(全属性)】を【スキル変換】と【水属性魔法(初)】に入れ替えた。


「うむ。では【スキル変換】を使用して、【水属性魔法(初)】を【スキル付与】に変換させるんだ」

「わ、分かりました」


 本当にそんなことができるのか疑問に思いつつも、俺は指示どおりに【スキル変換】によって【水属性魔法(初)】を変換させる。


 すると。


「っ!? 【スキル付与】に変換された!?」


 確かに、【水属性魔法(初)】は【スキル付与】に生まれ変わったぞ……。


「さあゲルト君。あとはスキルポイントを消費して、ライザ君にスキルを付けてあげるといい」

「は、はい!」

「う、うん。ゲルト、その……よろしくお願いします!」


 俺はライザにスキルを付けるため、彼女のステータスを出現させた。

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