素質限界を超える能力値上昇の方法

「ではゲルト君。次の段階へと移ろう。スキルの中から、【ドロップ(100%)】と【経験値獲得(10倍)】を選択するんだ」

「【ドロップ(100%)】と【経験値獲得(10倍)】、ですか……?」


 俺は思わず、メルエラさんに聞き返した。


「そうだ。意外と知られていないが、敵を倒すと“マナ”と呼ばれるものを放出し、それを吸収することで人は強くなることができる」

「そ、そうなんですか?」


 俺の問いかけに、メルエラさんが頷く。

 知らなかった……魔物を倒したら強くなるのは、体力や筋力、技術といったものが磨かれるから、強くなるものだと思っていた。


「だが、人には能力の上限というものがある。ゲルト君もステータスを見て理解していると思うが、個人の資質や職業ジョブにより、それらは決まっているのだ」


 その言葉に、俺はギュ、と拳を強く握りしめた。

 そうだ……死に戻る前、俺はどんなに足掻いても強くなることはできず、一方でアデルの奴はみるみる力をつけていくのを目の当たりにしたんだ。


 実際に、俺の職業ジョブは[英雄(偽)]で、アイツの職業ジョブは[英雄]。『(偽)』なんて、余計なものは付いてはいない。

 単純に、素質というものに関しては、俺はアデルよりも圧倒的に下なんだ。


「その証拠に、バジリスクを四体討伐したにもかかわらず、ゲルト君のレベルは20のまま。これは、ゲルト君の能力が限界に達していることを示している」

「…………………………」

「だが……フフ、そんな顔をするな。魔物を倒した時にごくまれに魔石が出現することは知っているな?」

「は、はい」


 苦笑するメルエラさんに、俺は慌てて返事をした。

 そうだった。メルエラさんは、はっきりと言ったじゃないか。『これだけで終わるはずがない』と。


「魔石は、レンヤ曰く“マナクリスタル”というのが本来の名前らしい」

「マナクリスタル……それって」

「気づいたか。そうだ、その名のとおり、魔物などを倒した時に得られるマナを凝縮したものが、マナクリスタルなのだ」


 なるほど……俺達は魔石のことを綺麗な宝石程度に考えていたが、本当は人を成長させるマナそのものだったんだな。


「そしてマナクリスタルは、使用することで本人の資質とは関係なく、その色ごとに対象となる能力の底上げをすることができる。たとえ、成長が頭打ちになっている者であったとしてもだ」

「あ……」


 ここまで説明を聞き、俺はようやく理解した。

 つまり、能力の限界にきている俺でも、そのマナクリスタルさえ使えば、いくらでも強くなれるということか。


「もう分かっただろう。【ドロップ(100%)】によって倒した魔物から確実にマナクリスタルを入手する。それも、【経験値獲得(10倍)】によって通常の十倍ものマナが込められたものをな」


 メルエラさんの言うとおり、これなら素質に関係なく誰でも際限なく強くなることができる。

 この、偽物・・の俺であっても。


「フフ……もちろん、入手したマナクリスタルはゲルト君以外も使用可能だ。実際に私も、レンヤにマナクリスタルを大量に譲ってもらい、これだけの強さを得たのだからな」


 じゃあ、俺一人が強くなるだけじゃなくて、俺がマナクリスタルさえ譲れば、誰でも強くなれる。

 俺の大切な幼馴染である、ライザも。


「ライザ! やったぞ! 俺だけじゃなく、お前も強くなれるんだ!」

「うん! 私も、君の役に立てるんだね!」

「ああ! ……って、そういう言い方するなよ。俺はライザが役に立つかどうかじゃなくて、ライザ・・・だからこそ・・・・・一緒に強くなってほしいだけなんだから」


 はしゃぐライザを見つめながら、俺は苦笑した。

 俺のためにって思ってくれることは嬉しいが、俺だってライザのためにって思っているのだから。


「え、えへへ……ゲルト、ありがとう。私、すごく嬉しいよ……」


 ライザは、とろけるような笑顔を見せる。

 そんな大切な幼馴染がすごく綺麗で、胸が高鳴ってしまったことは内緒だ。


「そ、そういえば、メルエラさんは英雄レンヤからマナクリスタルを譲ってもらって強くなったことは理解しましたけど、バルザールさんやガスパーさんは……?」


 さすがに英雄レンヤは三百年前の人物だから、二人がその恩恵を得ているとは思えないからな。

 となると、一体目のバジリスクと戦った時に見せたあの圧倒的な強さは、本人の素質ということなんだろう。


「フフ……実は生前のレンヤから、使い切れないほどのマナクリスタルを譲り受けているのだ。レンヤや仲間達の子孫が困らないようにと。そして、万が一私達を脅かすような悪しき者が現れた時に、必ず打ち倒せるようにと」

「そ、そういうことですか」


 ウインクしながら説明するメルエラさんに、納得した俺は頷いた。


「フォフォ。ま、それがしはマナクリスタルなど無くても、最初から強かったがの」

「よく言うわい。カミさんにボロボロにされるたびに、メルエラ婆さんに土下座してマナクリスタルを無心しておったくせに……あいたっ!?」

「くうう……なんでそれがしまで!?」

「だから私のことを『婆さん』と呼ぶなと言っているだろう!」

「「あはははは!」」


 失言をしたガスパーさんが、とばっちりを受けたバルザールさんとともに、またメルエラさんに拳骨げんこつを食らう。


 そんな三人の愉快なやり取りを見て、俺とライザは顔を見合わせながら声を出して笑った。

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