上限到達

 俺とライザがラウリッツの街にやってきて、三か月。

 今日も俺達は、街外れにある“黒死の森”へとやってきた。


 というか、この森が世界で最も多く魔物が生息する危険な場所なのだと聞かされた時は、俺もライザもそれはもうおののいたとも。


 けれど。


「ゲルト! そっちに追い込んだよ!」

「任せろ!」


 ライザの【ファイアバレット】によって追い立てられた三体のミノタウロスが、立ち塞がる俺目掛けて巨大な斧を振り下ろす。

 それを、俺は使い込み過ぎてボロボロになった剣でいなし、瞬く間にその首を刈った。


 まあ、よほど森の奥地へ行かない限り、成長した俺達に敵う魔物はほぼいない。

 つまり、ここは俺達にとって、強くなるための絶好の狩場と化していた。


「わあい! 今日もマナクリスタルがたくさん手に入ったね!」

「ああ。それじゃ、早速使うとしよう」

「うん!」


 ということで、【ドロップ(100%)】によって大量に入手したマナクリスタルを使用する。


「ええと……俺は残るは『運』だけだから……」

「私は『力』と『耐久』だね」


 俺は黄色のマナクリスタルを、ライザは赤とオレンジのマナクリスタルを選び、その場で一気に砕いた。

 マナクリスタルの亀裂からあふれ出たマナが俺達の身体を包み、吸収されていく。


「じゃあ、確認するぞ。【ステータスオープン】」


 俺は自身の能力を記した文字盤……ステータスを出現させた。


 ―――――――――――――――――――――

 名前 :ゲルト(男)

 年齢 :18

 職業 :英雄(偽)

 LV :20

 力  :SS

 魔力 :SS

 耐久 :SS

 敏捷 :SS

 知力 :SS

 運  :SS

 スキル:【剣術(神)】【一刀両断】【状態異常無効】【物理耐性】【魔法耐性(全属性)】【ステータス表示】【ドロップ(100%)】【経験値獲得(10倍)】

 残りスキルポイント:23867

 ―――――――――――――――――――――


「よし! とうとう全ての能力値が“SS”になったぞ!」

「次は私! 私のステータスも見せてよ!」

「ああ! 【ステータスオープン】!」


 今度はライザのステータスを出現させると。


 ―――――――――――――――――――――

 名前 :ライザ(女)

 年齢 :18

 職業 :魔砲使い

 LV :68

 力  :SS

 魔力 :SS

 耐久 :SS

 敏捷 :SS

 知力 :SS

 運  :SS

 スキル:【砲術(極)】【炎属性魔法(極)】【雷属性魔法(上)】【土属性魔法(上)】【状態異常耐性】【魔法耐性(炎属性)】

 残りスキルポイント:62011

 ―――――――――――――――――――――


「やったやった! 私もオール“SS”だ!」

「ああ……ああ……!」


 俺とライザは、嬉しさのあまり思いきり抱きしめ合う。

 あの平凡だった頃の俺達は、もういない。


 あんな未来は……伝説の黒竜に敗れ、アナスタシアに見殺しにされたライザと、アデルの風属性魔法で無残に死んだ俺の最低最悪の未来は、もうあり得ないんだ。


「ねえ、早くメルエラさんにこのことを報告しよう!」

「ああ!」


 俺とライザは手を取り合い、森を駆け抜けてラウリッツの街へと戻ると、冒険者ギルドへ飛び込んだ。


「? そんなに慌ててどうした?」


 カウンターの向こうでセシルさんと談笑していたメルエラさんが、不思議そうに尋ねる。

 セシルさんは俺達の様子から察したみたいで、満面の笑みでサムズアップしてくれた。


「俺達、とうとう全ての能力が『SS』になりました!」

「そうか! 二人共、よく頑張ったな!」


 報告を聞いたメルエラさんが、顔をほころばせる。


「はい! 俺達がこんなに強くなれたのは、全部メルエラさん達のおかげです! 本当に、ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


 俺とライザは、深々と頭を下げた。

 絶望の中で死に戻り、諦めるしかなかった未来を変えてくれたのは、このメルエラさんに他ならない。


 俺はこの女性ひとに、感謝してもしきれない。


「フフ……礼を言うのは早計じゃないか? 訓練はまだ第二段階でしかないし、以前も言ったように、ステータスで表示される能力値の上限が『SS』なだけで、実際にはもっと能力値を上積みできるのだぞ?」

「もちろんです! 俺達は、もっともっと強くなってみせます! なあ、ライザ!」

「うん!」


 そうだ。俺達はどこまでも強くなれる。

 アデルやアナスタシアが……それこそどんな奴が現れても、俺達は返り討ちにするだけの強さを手に入れてみせるとも。


「よし。では、次の段階に入る前に、君達の実力を見せてもらうとしよう」

「俺達の実力、ですか……?」

「ああ。それで、練習台となる魔物だが……」


 メルエラさんが、あごに手を当てながら思案する。

 練習台となる魔物、か……。


「あ、あの」

「どうした?」

「練習台の魔物なんですが、その……俺が選ぶこともできますか……?」

「君が? それはもちろん構わないが……」


 よし、メルエラさんの許可をいただいた。

 なら……俺の選ぶ魔物は、ただ一つ。


「それで、どの魔物なんだ?」


 メルエラさんに答えるため、俺はすう、と息を大きく吸うと。


「ドラッツェルス山の主、黒竜“ミルブレア”」

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