ドラッツェルス山へ
「ドラッツェルス山の主、黒竜“ミルブレア”」
そう……俺の実力を試すなら、あの伝説の黒竜をおいて他にいない。
功を焦り、無謀に挑んで大切な幼馴染を死なせてしまった、
「ふむ……あの黒竜か。全ての能力値が『SS』となった二人の実力からすれば、少々物足りない気もするが……」
「お願いします! どうか俺達に、黒竜ミルブレアに挑ませてください!」
俺は深々と頭を下げ、懇願する。
そんな俺の様子に、メルエラさんだけでなくライザも驚いているみたいだ。
そうだな……今のライザもまた、
だけど、見ていてくれ。
俺は必ず、
「……分かった」
「っ! じゃ、じゃあ……!」
「君がそこまで言うのだ。第二段階の仕上げは、黒竜ミルブレアにしよう」
「はい! ありがとうございます!」
再び深々と頭を下げながら、俺は拳を強く握りしめた。
「だが、ここからドラッツェルス山へ行くとなると、かなりの距離があるな」
確かにブロイツェン王国の東の辺境であるラウリッツの街と、最北端のドラッツェルス山では相当な距離がある。
馬を利用したとしても、おそらくは一か月半はかかるだろう。
「ふむ……ここはあの男に頼むとするか」
「あの男?」
「そうだ。君達も知っている、[大魔導師]ガスパーだよ」
ということで。
「え、ええと……バルザールさんも一緒に来られるんですか?」
「なんじゃ、冷たいのう。それがしは邪魔じゃと言うのか……」
「は、はは……そういうわけでは……」
いじけるバルザールさんに、俺は苦笑するしかない。
「はっは! お主、ワシと違ってゲルトに嫌われたんじゃないのか?」
「何を言うか! ゲルトはそんな奴じゃないわい! お主こそ、気をつけんとカルラだけでなくライザちゃんにまでそっぽを向かれるぞい」
「そんなわけあるか! カルラもライザちゃんも、ワシを嫌ったりするわけがなかろう! ……そ、そうじゃよな? な!」
「あ、あははー……」
急に不安になったらしいガスパーさんは、ずい、と身を乗り出してライザに同意を求めている。
これじゃライザも俺と同様、苦笑するしかないよな……。
「ほらほらジジイども、遊んでいないで早く私達をドラッツェルス山へ運んでくれ」
「ハア……まったく、メルエラ婆さんも人使いが荒……あいたっ!?」
「……そろそろレンヤとリンデが待つ
「ヒイイ」
思いきり頭を殴られたガスパーさんは、メルエラさんの絶対零度の視線を受けて悲鳴を上げた。
◇
「うう……結構寒いのう」
「年寄りにはこたえるわい……」
ガスパーさんの【転移魔法】で、俺達は一瞬にしてドラッツェルス山の中腹へとやってきた。
だけど、【転移魔法】って便利だな。ひょっとして、世界中のどこでも行けるんだろうか。
「【転移魔法】は便利ではあるが、一度訪れた場所でなければ転移できなくてな。ガスパーがドラッツェルス山に来たことがあってよかったよ」
俺の疑問を読み取ったのか、メルエラさんが説明してくれた。
「もう二度と来ないと決めておったんじゃがなあ……」
「ガスパーさん、何かあったんですか?」
しみじみと呟くガスパーさんを見て、ライザが尋ねる。
「いや、この山には昔、婆さんと一緒に来たことがあってな……あまり思い出したくないんじゃ……」
「……私、余計なことを聞いちゃったかな」
ライザが申し訳なさそうな表情で、俺に耳打ちした。
そういえば、ガスパーさんの家族は孫であるカルラさんしか知らないし、触れてはいけないことだったのかもしれない。
「何を言っているんだ。どうせまた、“メルガ”に説教された思い出なのだろう? それっぽく言っても無駄だ」
「ライザちゃんの前でそれを言わんでくれ!?」
あ、ただの黒歴史だったっぽい。
「フォフォ、ガスパーと女房のメルガは、今は別居中での。今じゃ黒死の森の奥地から月に一度、薬を運ぶ時だけ顔を合わせる状況じゃぞい」
「バルザール! 余計なことを言うでないわ!」
顔を真っ赤にしたガスパーさんが、怒りのあまり巨大な
「「っ!?」」
「全く……二人共、いい歳をしてじゃれるな」
呆れた表情のメルエラさんが放った風属性魔法による竜巻で、雷の槍が掻き消えた。
というか、あれで単にじゃれてただけだなんて、こっちからすれば大迷惑なんだが……。
「そ、そうじゃ! 黒竜ミルブレアを倒すんじゃろ! 早く行こうぞ!」
「は、はは……ライザ、行こうか」
「あはは……うん」
俺とライザは苦笑しつつ、バツが悪くなって誤魔化すように先を急ぐガスパーさんの後を追いかけた。
そして。
「黒竜ミルブレア……ッ!」
俺は
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