伝説級の老人二人

「フフ……二人共、疲れは癒えたか?」

「は、はは……」

「ソウデスネー」


 次の日、ギルドを訪れると笑顔でセシルさんと一緒に出迎えてくれたメルエラさんに対し、俺達は乾いた笑みを浮かべるのが精一杯だった。


「なるほどー……早速カルラの洗礼・・を受けたんですね」

「「っ!?」」


 セシルさんに図星を突かれ、俺とライザは思わず身体をビクッとさせた。

 そう……まさに文字どおり、俺達は洗礼・・を受けたんだ。


 それも、昨日の夜と今日の朝、二回も・・・だ。


「そ、そういうことか……すまない、最初に言ってやるべきだったな。『決してカルラの料理は食べるな』と」

「「…………………………」」


 メルエラさん……もう遅いですよ。

 昨日の夜は何かの間違いなんじゃないかと、朝も挑んではみたものの、やっぱり朝食も食べられたものじゃなかったんですから。


「……ゲルト、大丈夫。今晩から私が料理するから」

「助かる……」


 本当に、持つべきものは料理上手な幼馴染だな。


「で、ですが二人共、昨日おっしゃっていた二人のお店、食堂にすれば大繁盛間違いなしですよ! だって、唯一の食堂はアレ・・なんですから!」


 セシルさんが、訳の分からない慰めをしてくれた。

 こう言ってはなんだが、カルラさんとライザの料理を比べることすらおこがましいと思うんだけど。


「よ、よし。気を取り直して、早速ゲルト君とライザ君の訓練に向かうとしよう」

「「は、はい!」」


 ということで、メルエラさんと三人で向かった先は、ラウリッツの街から少し外れたところにある大きな森だった。


 すると。


「待っておったぞい」

「うむ、ようやく来おったわい」


 昨日、ラウリッツの大通りでオセロットに興じていた二人の老人が待ち構えていた。


 一人は背の低いライザと同じくらいの身長の髪の薄い老人で、東方の国で見られる『はかま』と呼ばれる服装を着ており、腰には東方の刀を差している。


 もう一人は百八十センチくらい上背のある白髪を後ろで結った、どこか紳士然とした老人だった。こちらは武器を所持している様子はない。


「君達に紹介しよう。背の低いハゲは“バルザール”、もう一人の澄ましたジジイは“ガスパー”という」

「待ってくれい!? メルエラ殿、その紹介はないじゃろ!」

「そうじゃ! 大体、ワシ達よりもメルエラ婆さんのほうが圧倒的に年上……あいたっ!?」


 メルエラさんの紹介に猛抗議する二人の老人だったが、どうやら逆鱗に触れてしまったらしく、思いきり頭を殴られていた。

 ま、まあ、メルエラさんはあの英雄レンヤと一緒のパーティーだった伝説の人なんだし、あの二人よりも年上なのは間違いないんだが……。


「……なにか?」

「いいえ! なにも!」


 メルエラさんにギロリ、と睨まれ、俺は慌てて目を逸らした。

 こっちまでとばっちりを受けたらたまったものじゃない。


「まあいい。君達の訓練は、この二人にも手伝ってもらう」

「は、はあ……」


 この老人二人が、ねえ……。


「フフ、心配するな。こう見えてバルザールの職業ジョブは[剣神]、ガスパーは[大魔導師]だ。その実力は、私やかつての仲間であるリンデ、シルバーに引けをとらない。それどころか、ガスパーに至ってはリンデの子孫だからな」

「[大魔導師]リンデの子孫!?」


 驚いた……。

 あの・・メルエラさんと英雄レンヤの子孫であるカルラさんにも驚かされたけど、まさかガスパーさんまで伝説の人物の子孫だなんて。


「はっは! ちなみに、英雄レンヤの子孫でもあるぞ! 何せご先祖様のレンヤとリンデは夫婦だったんじゃからのう!」


 背の高い老人……ガスパーさんが、豪快に笑う。


「そ、それって、カルラさんのご家族ということですか?」

「うむ。カルラはワシの孫じゃ」

「そうなんですね……じゃ、じゃあバルザールさんも、[剣神]シルバーの子孫だったりするんですか?」

「フォフォ、残念ながらそんな立派なご先祖様はおらんぞい」


 逆に伝説と関わりのない人がいて、少し安心した。

 メルエラさんやカルラさんだけでもお腹いっぱいなのに、これ以上伝説級の人が現れたら、それはそれで……って、よくよく考えたら、メルエラさんが[剣神]シルバーと同格だと認めるくらいだから、とんでもない人じゃないか。


 いや、本当にこのラウリッツの街はどうなっているんだ!?


「だ、だけど、こんなすごい人達がこの街に集結していたら、それこそ王国……ううん、世界中から注目されていてもおかしくないと思うんですけど……」


 俺の気持ちを代弁するかのように、ライザが問いかける。

 そうだよなあ……なのに閑散とした大通りといい、むしろ世界中から忘れ去られたかのような街に成り下がっているんだが……。


「それも当然じゃ。メルエラば……メルエラさんが認めたお主達じゃからこそ、ワシも英雄レンヤの子孫であることを名乗っただけで、ほんの一握りの者しかそのことを知らぬよ」

「うむ。もちろんこの私があの・・メルエラであることを知っているのも、限られた者だけだ」


 ま、まあ、そんなことが知れたら、それこそ世界中が大騒ぎになるだろうからな。

 それに、そのことを知った連中がメルエラさん達を利用しようと、悪意を持って近づいてくる輩も現れるだろうし、賢明な判断なのかもしれない。


 だけど……だったらどうして、あんな街の入口に観光客向けの看板を掲げているんだろうか。謎だらけだなあ……。


「少し話が逸れてしまったな。では早速、訓練を開始することにしよう」

「はい! ……それで、その訓練というのは……?」


 意気込んで返事をするものの、俺は英雄レンヤもしたという訓練の内容を知らない。

 少し不安を覚え、メルエラさんにおずおずと尋ねると。


「なあに、最初は簡単。まずはスキルポイントを二百貯めるまで、この森に生息するバジリスクを狩るだけだ」


 微笑みながら告げるメルエラさんの言葉に、俺は戦慄した。

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