強くなった二人

「ゲルト! ワイルドボアのから揚げと、ソーセージの盛り合わせできたよ!」

「ああ!」


 昼を迎え、ライザと俺の食堂は賑わいを見せる。

 百人足らずしか住民がいない街なのに、店内は既に満席だ。


「お待たせしました。ワイルドボアのから揚げです」

「うふふ、待っていましたよ!」


 熱々の料理をテーブルに置くと、常連客・・・であるセシルさんが瞳を輝かせた。


 なお、俺もライザも、特訓はいつも店の営業終了後である二十二時以降に行っている。

 最初は夜だけの営業にしていたんだが、ランチもしてほしいとの要望を多く受けたことが一番の理由だ。


 それに、俺達も特訓方法も覚え、俺達だけで特訓ができることもあり、自由に時間を選ぶことができるようになったことも大きい。

 だから、俺とライザは相談し合って、これまでの特訓中心の生活から、食堂の経営中心の生活にシフトしたというわけだ。


 あ、もちろん特訓を疎かにしたことは一度もないぞ。

 たとえ英雄を目指さなくなったとはいえ、英雄レンヤへの憧れが失われたわけじゃないし、何より、俺が強さを求めるのはライザを守るためなんだから。


 ……今じゃ、ライザのほうが俺より強いくらいだけど。


「はいよ! ソーセージお待ち!」


 カルラさんが別のテーブルにソーセージを運ぶ。

 ランチなどの忙しい時間帯は、カルラさんに助っ人を頼んでいるのだ。


 ただし、あくまでも本業である宿屋が暇な時だけなんだが。

 最近はありがたいことにライザの料理が評判になり、街の住民だけじゃなく、わざわざ外からも訪れるようになった。


 朝食は宿泊客にしか提供していないことを知ると、その客はカルラさんの宿屋に泊まるようになったというわけだ。


 これらを考えたのは全てカルラさんなのだが、意外と商売上手なのかもしれない。

 街の入口の看板は、どうかと思うけど。


 そして。


「ふう……今日も戦争だったねー……」

「ああ。ライザ、お疲れ様」

「えへへ……うん」


 ようやく修羅場のランチタイムを終え、テーブルに突っ伏しているライザ。

 藍色の髪を撫でると、ライザは気持ちよさそうに目を細めた。


「カルラさんもありがとうございました。おかげで今日も助かりました」

「アハハ! こっちこそ! 今日もライザの料理を気に入ったお客さんが、早速今晩泊まるって言ってくれたよ!」

「はは、そうですか」


 カルラさんに背中をバシバシと叩かれ、俺は苦笑する。

 手加減してほしいのはやまやまだけど、言っても治らないのは理解しているので、今では甘んじて受け入れていた。


「んじゃ、アタシはお客さんの宿泊準備をしてくるから。これとこれはもらっていくよ」

「はい。ありがとうございました」

「ありがとうございました!」


 カルラさんはライザの作った自家製パンとソーセージを持って、食堂を後にした。


「さて……俺達もメシにするか」

「うん!」


 俺とライザは向かい合い、談笑しながらまかない・・・・を食べた。


 うん、やっぱりライザの料理は最高だ。


 ◇


「【ファイアバレット】!」


 夜空に煌々と輝く月の下、赤い線が暗闇を駆け抜ける。


「チッ!」


 俺は木々の隙間を縫うように走りながら、赤い弾丸を必死にかいくぐった。

 さすがにこの距離じゃ、剣しか攻撃手段を持たない俺にはどうしようもない。何とかして、ライザに近づかないと。


「甘いよ!」


 まるで待ち構えていたかのように、親指大の小さな火球が俺の目の前に浮遊している。


 だが。


「シッ!」


 小さな火球が間合いに入った瞬間、俺は剣を抜いて一息で叩き切った。

 バルザールさんに教えてもらってから半年。結界・・も、ようやくここまで形になったな。


「っ!?」


 俺は地面を蹴って一気に間合いを詰め、ライザに迫る。


「……ふう」

「ハア……」


 どちらからともなく、俺達は大きく息を吐いた。


「この勝負、引き分けだな」

「うん!」


 俺は剣を鞘に納め、ライザは人差し指を俺の額からゆっくりと離した。

 しかし……ライザも恐ろしく強くなったなあ……。


 バルザールさんの特訓を経て、俺だってはるかに強くなったはずなのに、ライザも同じように強くなっているのだから。

 ライザもまた、本当はとんでもない強さの持ち主なんだろうな。


「じゃあ今日の特訓はこれくらいにして、そろそろ……」

「そ、その! ……実は、今日はお弁当を用意してきたんだ」

「お弁当?」


 ほほう……今日はやけに荷物が多いと感じたが、そういうことか。

 ライザも、夜の営業で大変だったはずなのになあ……。


「それで……どうかな?」


 俺の顔をのぞき込み、ライザがおずおずと尋ねる。


「もちろん、俺もライザの弁当なら是非食べたいぞ。とすると……せっかくだし、この先の池ので食べようか」

「! う、うん!」


 ライザはパアア、と顔を綻ばせ、俺の腕にしがみついた。


「えへへ……お弁当、期待してね」

「もちろんだ。ライザの料理なんだからな」


 俺とライザは足取り軽く、池を目指して黒死の森を歩いた。

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