メルエラさんの依頼
バルザールさんから免許皆伝のお墨付きをもらってから、およそ三か月。
ようやく俺は、結界、観察眼、見切りを一体的に、かつ、瞬時に最適解を選択できるほどまで成長した。
先日もバルザールさんだけでなく、メルエラさんやガスパーさんとも手合わせをさせてもらったけど、みんな一様に驚いていた、
どうやら俺は、
まあ、その
営業時間外の食堂の片隅で、『カネサダ』の手入れをしながらそんなことを考えていると。
「ゲルトー! そろそろ調味料のストックを用意したいから、一緒にギルドに行こ!」
キッチンで棚の整理をしていたライザが、ヒョコッと顔を出して声をかけてきた。
基本的にラウリッツの街では、必要な物資などは全てギルドで調達できる。
というか、完全に
「よし、行こうか」
「うん!」
俺は刀を腰に差し、ライザと一緒に店を出てギルドへと向かう。
「ぐぬぬ……相変わらず卑怯な奴じゃわい」
「はっは! お主は弱いのう!」
今日もまた、バルザールさんとガスパーさんは店の前でオセロットに興じていた。
最初、この店が何なのか分からなかったけど、ガスパーさんの奥さんで[大賢者]のメルガさんが経営している薬屋だった。
といっても、この街の住民はみんな軒並み強くて怪我をする機会がほとんどないので、薬が必要になるケースはごく
「それにしても、のどかだなあ……」
「えへへ、そうだね。でも、私はこんな日にゲルトとお出かけするの、大好きだよ?」
「俺もだ」
初夏の日差しを浴びながら、俺とライザは微笑み合った。
◇
「あー……調味料、ですか……」
冒険者ギルドに着いた俺達は、早速調味料を買い付けようとしたのだが、セシルさんが渋い表情を見せた。
「どうかしたんですか?」
「いえ、実は調味料関係について配達が滞ってまして、ギルドのストックが厳しいんです。特にお二人の食堂では、街の皆さんが使われないような香辛料なども取り扱ってますので、特に在庫が……」
「「配達が滞っている?」」
「そうなんです……」
セシルさんは肩を落とし、詳しく説明してくれた。
元々、ギルドの物資についてはブロイツェン王国の王都にあるギルド本部から、街の住民が黒死の森で狩ってきた魔物の素材と引き換えに、定期的に送ってもらっているらしい。
だが、ここ二、三か月、こちらからギルド本部に魔物の素材を送っても、言い訳の手紙ばかりが来て肝心の物資は送られてこないとのこと。
「……マスターとも相談したんですが、一度王都に行ってギルド本部長と話をしないといけないとおっしゃっていました」
「そうですか……」
王都、ねえ……。
そういえば、俺もラウザも王都には行ったことがないな。
「ライザ、どうする?」
「ウーン……どちらにしても、私達には届くのを待つしか方法がないから、しばらくは今ある分だけで何とかやりくりするしかないね」
ライザは眉根を寄せ、肩を
すると。
「ん? 二人共、来ていたのか」
「あ、メルエラさん」
「お邪魔してます」
メルエラさんが執務室の奥から顔を出したので、俺達は軽くお辞儀をした。
「マスター、実は……」
「うむ……」
セシルさんが話の内容を説明すると、メルエラさんは
そして。
「よし、この際だから君達とセシルで、王都に行ってきてくれないか?」
「「王都にですか!?」」
俺とライザは、思わず声を上げた。
い、いやいや、俺達が王都に行ってどうしろと!?
「フフ、ゲルト君には【空間収納】のスキルで、物資をまとめて運んでほしいのだ。なあに、ギルドとの面倒な話し合いはセシルがするから、二人は王都観光でもしていればいい」
「は、はあ……」
メルエラさんの言葉に、俺は気の抜けた返事をする。
俺に同行を頼んだ理由は分かったけど、そうするとライザも一緒なのはどうしてだろうか。
「ゲルト、王都だって。私達、初めてだよね?」
「あ、ああ……」
「うわあああ……! 私、一度でもいいから王都に行ってみたかったんだ! 街もすごく綺麗で、珍しいものがたくさん売っているらしいよ!」
「お、おう……」
どうやら、ライザは王都へ行くことに乗り気みたいだ。
なら、俺も否やはない。
「分かりました。では、俺達もセシルさんに同行します」
「うむ、よろしく頼むよ」
「うう……私だけ
セシルさんが、メルエラさんをジト目で睨む。
「そう言うな。ちゃんと
「ハア……」
盛大に溜息を吐くセシルさん。
それほど露骨に会いたくない人って、どんな人なんだろうか。
「その……セシルさんがお会いする人って?」
「ああ。ブロイツェン王国内の冒険者ギルド全てを統括するギルド本部の長、“ララノア”だ」
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