伝説の黒竜との決別
「黒竜ミルブレア……ッ!」
俺は
死に戻ってから、一度だって忘れたことはない。
ドラッツェルス山の頂上に我が物顔で
ライザに瀕死を負わせた、憎き魔物だ。
「はは……ようやく、ようやくだ。俺はオマエを、仕留めることができる」
気づけば俺は、口の端を吊り上げていた……って。
「ライザ……?」
「ゲルト、いつもの君らしくないよ」
俺の前に立ち、真剣な表情で見つめるライザ。
その藍色の瞳は、心配しているようで、怒っているようでもあった。
そう、だな……俺も、気がはやり過ぎた。
これは
……いや、復讐であってはいけないんだ。
「わっ!?」
「はは、
いつものように、少し乱暴にライザの藍色の髪を撫でる。
俺がいつも迷いそうになった時、間違えそうになった時は、身体を張って全力で止めてくれるライザ。
そんなライザの気持ちを無視して黒竜ミルブレアに挑んだ、死に戻る前の愚かな俺のままでいたら、それこそライザの死を無駄にしてしまう。
はは……俺も、まだまだ英雄レンヤには程遠いな。
「えへへ……それでこそゲルトだよ」
「ああ。これが、俺だよな」
「うん!」
俺とライザはコツン、と拳を合わせ、黒竜ミルブレアを見据える。
さあ……悪いが、俺達の踏み台になってくれ。
「行くぞ!」
「任せて! 【ファイアバレット】!」
ライザの放った拳大の火球が、とんでもないスピードで黒竜ミルブレアへと襲いかかった。
それも、六発同時に。
『ギャウッ!? ガアッ!?』
「えへへ、全弾命中だね!」
人差し指を向けたライザは、肘を曲げて指先を空へと向ける。
一度その仕草の意味を尋ねたら、『だって、かっこいいでしょ?』と笑顔で返されたけど、確かに格好いいな。
伊達や酔狂じゃなく、あの黒竜の堅牢な鱗で覆われた身体に風穴を開けたのだから。
「ライザ! さすがは
「っ! う、うん……うん……っ!」
俺は黒竜ミルブレアへと突撃しながら後ろを見て右の拳を突き上げると、ライザは藍色の瞳から涙を
ライザがこんなにすごいところを見せてくれたんだから、次は俺の番だ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
剣を肩に担ぎ、俺は雄叫びを上げながら駆ける。
黒竜ミルブレアの首を取るために。
『グオオオオオオアアアアアアアアアアアアッッッ!』
それに応えるかのように、黒竜ミルブレアも
フン……
だが。
「っ!? ゲルト!」
俺は黒竜ミルブレアが吐いたブレスを見て、ライザが悲鳴に近い声を上げる。
ライザ、心配するな。俺は同じ手を
『ッ!?』
はは、驚いているな。
渾身の
俺はただ、オマエのブレスの射線から外れればいいだけだ。
だが……
「悪いな。
『ッ!?』
いつの間にか黒竜ミルブレアの前に立つ俺は、担いでいた剣をゆっくりと下ろし、切っ先をその首元へ向けた。
そして。
――ザンッッッ!
横薙ぎ一閃。
黒竜ミルブレアの首は、【一刀両断】のスキルによって赤い一本の筋が入ったかと思うと、ごろん、と地面に転がった。
これで……
「ゲルト!」
心配そうな表情で、必死にこちらへ駆けてくるライザ。
ライザのことだ。俺が無傷だと頭では理解していても、それでも確認せずにはいられないんだろうな。
あの村にいた時からずっと、ライザはそんな優しい奴だったから。
「大丈夫!? どこも怪我してない!?」
「はは、もちろんだとも。かすり傷一つすらないさ」
「よ、よかったあ……」
俺は微笑みながら肩を
「フフ……二人共、見事だったぞ」
そんな俺達の
「だが、黒竜に挑みたいと言った時のゲルト君は、明らかにこの魔物に執着しているようにも見えたので少々心配していたのだが、それも杞憂に終わったようで何よりだ」
確かにメルエラさんの言うとおり、俺は黒竜ミルグレアに執着していた。
だけど。
「メルエラさん、おっしゃるとおり俺は執着していましたよ。ただし、黒竜ミルグレアにではなく、無傷でこの戦いを終わらせて、大切な幼馴染を安心させることに」
「あ……えへへ……」
俺はニコリ、と微笑みながら藍色の髪を優しく撫でてやると、ライザは気持ちよさそうに目を細めた。
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