英雄の子孫
「フフ……そろそろいいかな?」
「「あ……」」
しばらく抱きしめ合っていた俺とライザを見ながら、メルエラさんが苦笑する。
た、確かに感極まり過ぎて、人前で俺もなかなか恥ずかしいことをしてしまったなあ……。
俺とライザは、どちらからともなく離れた。
だけど、それを名残惜しいと感じてしまったことは、ライザには内緒だ。
「うむ。とにかく、お主達はこの街に着いたばかりで、疲れもあるだろう。強くなるのは明日からにしようか」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
俺がメルエラさんに深々と頭を下げると、ライザも同じように頭を下げた。
はは……本当に、ライザは……。
「よし。では、大通りに宿屋があるから、そこを利用するといい。女将には私から伝えておこう」
「ありがとうございます」
俺はもう一度頭を下げ、ギルドを後にしようとして。
「そういえば、まだゲルト君だけしかステータスを見ていなかったな。ライザ君も確認しないと」
「あ……私は……」
「なあに。お主もゲルト君同様、明日から強くなってもらうのだ。そのためにもステータスの確認は必要だからな」
遠慮するライザだったが、メルエラさんの言葉に目を丸くする。
だけど、藍色の瞳はどこか嬉しそうだった。
「フフ、【ステータスオープン】」
メルエラさんが手をかざすと、文字盤が現れる。
―――――――――――――――――――――
名前 :ライザ(女)
年齢 :18
職業 :魔砲使い
LV :27
力 :D-
魔力 :A
耐久 :E
敏捷 :B+
知力 :A
運 :B
スキル:【砲術(上)】【炎属性魔法(上)】【雷属性魔法(中)】【土属性魔法(中)】
残りスキルポイント:94
―――――――――――――――――――――
あ、あれ? ひょっとして、俺よりも強い……?
それに。
「え!? わ、私、[魔法使い]のはずなのに[魔砲使い]になってるんだけど!?」
「ほう……これはまた、珍しい。私も四百年以上生きているが、このような
驚くライザと、興味深そうに文字盤を眺めるメルエラさん。
俺も複雑な思いで文字盤を見つめた。
「な、なあ……ひょっとしてライザ、今まで俺に遠慮してたりとか……?」
「ま、まさかあ! そんなこと……ないよ?」
おずおずと尋ねる俺を見て、ライザがサッと目を逸らす。
あ、これ、本当に気を使われていたやつだ。ちょっと凹むなあ……。
「フフ、何も気にする必要はない。そもそも[英雄(偽)]は何もしなければ二流以下の
「そ、そうですね……」
とまあ、メルエラさんに慰めてもらうものの、複雑な心境であることには変わりないんだけどな。
◇
「いらっしゃい! セシルから話は聞いてるよ!」
ギルドを出て大通りにある宿屋へ入ると、大柄な女性が出迎えてくれた。
俺の身長が百七十センチそこそこであることを考えても、十センチ以上の差がありそうだ。
とはいえ、ワインレッドの髪をポニーテールにまとめ、同じく真紅の瞳と整った顔立ちは間違いなく美人だ。
それに、ライザやセシルさん、メルエラさんすらも超える圧倒的な胸の大きさは、とにかく目のやり場に困る……って。
「むうううううううううう!」
おっと、ライザが思いきりむくれている。気をつけよう。
「お、お世話になります。俺はゲルトで、こっちは幼馴染のライザです」
「ライザです。よろしくお願いします」
若干複雑な笑顔を見せながらお辞儀をするライザ。
俺が悪かったから、頼むから機嫌を直してほしい。
「アハハ! アタシは“カルラ”、こっちこそよろしく! それより聞いたよ! あの[英雄(偽)]持ちなんだってねえ!」
「は、はあ……」
カルラさんは俺の背中をバシバシと叩きながら、豪快に笑う。
いや、セシルさん、なんで俺の
「そうかー……まさか
ちょ、ちょっと待て!? カルラさん、さらっととんでもないことを言ったぞ!?
「そ、その……カルラさんって、あの英雄レンヤと……」
「レンヤ=ミズキはご先祖様で、アタシでちょうど十五代目さね」
「「英雄レンヤの子孫!?」」
お、驚いた……まさかこの街に、あの英雄レンヤの子孫がいるなんて……。
というか、確かこの国の王族こそが英雄の末裔なんじゃなかったっけ?
「あー……アンタが考えてること、なんとなく分かるよ。まあ、言ってしまえばブロイツェン王国の王族は、自分達の出自に箔をつけるためにご先祖様の末裔だって喧伝しているからねえ」
肩を
い、いやいや、勝手に英雄レンヤの血筋だなんて名乗られて、その……いいのだろうか……。
「アハハ! ま、アタシ達は別にそんなことどうでもいいさね……って、そんなことより、二人共長旅で疲れただろ? 部屋の用意はしてあるから、ゆっくりおし」
「は、はい。ありがとうございます」
「二階の一番奥の部屋と、その向かいの部屋がアンタ達の部屋だからね。
「は、はあ……」
というか、この宿に客が泊まることはあるんだろうか……。
俺は首を傾げつつ、階段を上がって二階の突き当たりに来ると。
「ライザはどっちの部屋がいい?」
「じゃあ、私はこっちで」
「分かった。じゃあ、晩飯までゆっくりするとしようか」
「うん!」
ライザと別れて部屋に入り、俺はベッドに寝転がる。
「はは……まさか
ギルドでメルエラさんが教えてくれた、驚きの事実。
俺はそれを何度も呟き、喜びを噛みしめていた。
すると。
――コン、コン。
「えへへ……ゲルト、いいかな……?」
ノックして入ってきたのは、はにかむライザだった。
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