真の英雄の道と不穏 ※アデル視点
■アデル視点
「国王陛下のご入場です!」
王宮からの教会への要請に応じ、アナとともに謁見の間で
「
玉座に腰掛けた国王陛下の言葉に従って、僕達はゆっくりと顔を上げる。
「その
「はい。こちらの[聖女]アナに見出され、四か月前に自分の本当の
「ふむ……確か、ヴァルクの街にいた[英雄]の
ここでもまた、僕は忌々しい名前を聞く羽目になってしまい、思わず唇を噛む。
だけど、ゲルトの名前は今後二度と表の舞台に現れることはないだろう。
だって、今日この場をもって、僕……アデルこそが真の[英雄]なのだと知れ渡ることになるのだから。
「国王陛下、よろしいでしょうか」
「うむ……[聖女]アナスタシア、発言を許す」
「ありがとうございます。ただ今陛下が申されましたゲルトという者は、英雄は英雄でも、[英雄(偽)]という紛い物の
「ほう……?」
「そして、真の[英雄]の
アナの言葉に、謁見の間にどよめきが起こる。
そうだ。僕こそが[英雄]なんだ。だからその認識を、ちゃんと改めるんだよ。
「聖女の言葉を疑うわけではないが、念のため確認させてもらおう。これ」
「はっ!」
謁見の間の壁際に控えていた一人の男が、僕の前に立って右手をかざすと。
「【ステータスオープン】」
―――――――――――――――――――――
名前 :アデル(男)
年齢 :18
職業 :英雄
LV :32
力 :A+
魔力 :A
耐久 :A
敏捷 :A
知力 :A+
運 :A-
スキル:【剣術(極)】【風属性魔法(上)】【効果付与(極)】【状態異常耐性】【物理耐性】【魔法耐性(全属性)】
残りスキルポイント:121
―――――――――――――――――――――
僕のステータスが現れ、それを見た男が息を呑んだ。
あはは、そりゃ驚くよね。こんなすさまじいステータスは、英雄レンヤにだってひけを取らない……いや、ひょっとしたらそれ以上かもしれないから。
でも、こんなものじゃないよ。
僕には分かるんだ。僕はもっともっと強くなる。それこそ、誰にも手がつけられないほどに。
「どうであったか?」
「[英雄]の
どこか興奮した様子で、男は国王陛下に説明した。
あの教皇
「うむ、これはめでたい。英雄レンヤ=ミズキの末裔たる余の目の前に、英雄レンヤの系譜を受け継ぐべき英雄が現れたのだからな」
僕を見つめながら、国王陛下が満足げに頷く。
あはは……この光景、ゲルトの奴に見せてやりたいよ。
オマエが無能だとして追い出した僕は、オマエなんか足元にも及ばない人間なのだと、とうとう英雄の末裔である国王陛下までお認めくださったのだから。
だけど。
「お待ちください。確かにステータスは素晴らしいと思いますが、真の実力は戦いの中で発揮するもの。まずは、アデル殿の実力をお確かめになるのが先決かと」
水を差すように、国王陛下の側近の一人が進言した。
なんだアイツ、僕を疑っているのか?
「ふむ……お主の言うことももっともだ。なら、アデルに実力を示してもらうとしよう」
「……かしこまりました。ですが、どのようにすればよろしいでしょうか?」
気に入らないものの、それならさっさと僕の実力を分からせて、失礼なことを言ったあの男に
「うむ。では、アデルの実力を測るにはどうすればよいと思うか」
「それでしたら、王国の北にあるドラッツェルス山に棲まうとされる伝説の黒竜の討伐はいかがでしょうか」
「おお、それはよい」
全く……軽く言ってくれるね。
僕も黒竜ミルグレアの話は聞いたことがあるけど、S級冒険者でも仕留められないほどの魔物だよ? その討伐を、この僕にやらせるなんてね……って。
僕は、男が口の端を持ち上げる瞬間を目にした。
なるほど、英雄である僕の存在が気に入らないんだね。
「お、お待ちください陛下! いくらなんでもアデルさん一人に伝説の黒竜の討伐は酷過ぎます! ならば、せめて私も一緒に討伐に加わることをお許しください!」
見かねたアナが勢いよく立ち上がり、胸に手を当てて必死に訴える。
ああ……やっぱりアナだけは、僕の味方だ。
ゲルトの奴に尻尾を振る
まあ、そもそも美しさも実力も、
「よかろう。聖女アナスタシアも、アデルとともに黒竜ミルブレアの討伐に加わることを認めよう」
「ありがとうございます」
安堵の表情を浮かべたアナは、胸を撫で下ろしながら深くお辞儀をした。
「うむ。ではアデル達よ、吉報を待っておるぞ。そして、黒竜ミルブレアを見事討ち果たした時は、王国を挙げて英雄アデルの誕生を祝福しよう」
「「はっ!」」
国王陛下は立ち上がり、従者を連れて謁見の間を後にした。
「そ、その……」
「あはは、大丈夫だよ。僕は[英雄]なんだ。必ず黒竜ミルブレアを討伐して、それを証明してみせる。もちろん、君は僕が絶対に守ってみせるから、心配しないで」
心配そうに見つめるアナに、僕はニコリ、と微笑んだ。
[英雄]と[聖女]がいれば、負ける要素なんて無いに等しい。
それが、この僕にはよく分かるんだ。
「アデルさん……」
僕に寄り添いながら、アナはうっとりした表情を見せる。
あはは、[英雄]の僕に釣り合う女性は、[聖女]である君か、この国の王女くらいだからね。ちゃんと大切にしないと。
「さあ、ドラッツェルス山に向かって早く黒竜を倒そう」
「はい。教会も、全力でサポートいたします。もちろん、この私も」
「うん、期待しているよ」
「お任せください」
そっと胸に頬を寄せるアナを、僕は抱きしめた。
そして、その三週間後。
「これは……」
ドラッツェルス山の山頂。
そこにたどり着いた僕達の目の前に現れたのは、首を切断され、地面に横たわる黒竜ミルブレアの無残な姿だった。
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