偽物の英雄は、最強の人々が住む街で幼馴染と幸せに暮らします〜かつて追放した仲間にざまぁされた職業[英雄(偽)]の俺ですが、死に戻ったら実は伝説の英雄も俺と同じ職業だと知りました〜
サンボン
仲間を追放した日
「“アデル”……悪いが、お前とはここまでだ」
「え……?」
ギルドで請け負ったB級クエストであるハイオークとオークの群れの討伐を終え、俺は無情に告げると、パーティーメンバーのアデルは呆けた声を漏らした。
「あ、あはは……“ゲルト”、そんな冗談はやめてよ」
「冗談で言っているんじゃない。アデルは、今日この場をもってパーティーを抜けてもらう」
薄ら笑いすら浮かべるアデルに、俺はかぶりを振りながらもう一度告げた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕はこれまで、このパーティーが結成された当時から、ずっと尽くしてきたじゃないか! それを、そんな……!」
「……分からないかな? 君は既に、私達のパーティーのお荷物なんだよ」
「そうだぜ。テメエ、さっきのバジリスクの討伐でも全然役に立ってねえだろうが」
「ニャハハ! ホントホント! 大体、アンタの
ライザに追随するかのように、[狂戦士]のガラハドと[狙撃手]で獣人のニーアも
そう……冒険者とやっていく上で、この世界では生まれ持つ
だが、残念ながらアデルの
実際、ガラハドが言ったように先程の戦闘においても
それに俺の
言ってしまえば、俺に[付与術師]の効果付与は不要なのだ。
「だ、だけど、僕は[付与術師]としてだけでなく、雑用だってこなしているし、荷物だって全部僕が……」
「ハア……そんなの、当たり前だよね? 君はそれくらいしか役に立てないんだから。それだって、ゲルトが温情をかけているから与えられた仕事だってこと、いい加減気づいたら?」
「…………………………」
ライザの正論に、アデルは唇を噛んでうつむく。
アデル自身も、その事実には気づいていたんだろう。ただ、現実を直視することができなかっただけで。
すると。
「……お待ちください、みなさんがおっしゃる雑用も、アデルさんだからこなせていたのですよ? それに、これまでもアデルさんがいなければ危うい場面も多かったですし、効果付与も侮れないものがあったと思いますが?」
「ハッ! んなもん、上級職である俺達には必要ねえだろうが!」
「ニャフフ、そうだよねー。アタシ達、元々強いんだから」
どうやら[聖女]であるアナスタシアの評価は俺達とは違うようだ。
それが何を意味するのか……本当の意味でアデルの実力を評価しているのか、それは分からないがな。
「いずれにせよ、俺達のパーティーにアデルは不要だ、荷物運びなら別に雇えば済む話だ」
「そうそう! 私もゲルトに賛成だよ!」
俺の言葉に、ライザは二つ返事で同意する。
幼い頃からずっと、ライザはいつも俺についてきて、いつだって俺を信じてくれた。
本当に……俺にはもったいないくらいの幼馴染だ。
「まあ、そういうことだから……これは少ないが、退職金みたいなものだ。これを持って、故郷に帰って静かに暮らせ」
幾ばくかの金が入った布袋を手渡し、俺はポン、とアデルの肩を叩く。
だが、退職金とはよく言ったものだ。所詮はただの手切れ金だというのに。
「…………………………クッ!」
「あ! アデルさん! ……あなた方、最低です」
顔を伏せたままこの場から走り去るアデルと、吐き捨てるように言い放ってアデルを追いかけるアナスタシア。
アデルだけを追い出すつもりだったが、アナスタシアまで離脱するとなると、パーティーとしてはかなりの痛手だ。
なにせ[聖女]という
とはいえ。
「……今さら俺の決定は覆らないが、な」
「ゲルト……うん。いつかきっと、アデル達も分かってくれると思うよ」
俺の服の袖をつまみながら、ライザがニコリ、と微笑む。
アデルは確かにアナスタシアの言うように、戦闘以外の面でかなり役に立ってくれていた。それは俺も認めるところだ。
だが、冒険者は危険を冒すことを生業とするもの。
このまま冒険者を続けさせていたら、いずれアデルは命の危険に
その時、俺達のような実力もないアデルはどうなる?
そんなの、ただ無惨な死を遂げることは火を見るよりも明らかだ。
なら……早めに見切りをつけさせたほうが、あいつのためだから。
「冒険者ギルドも、ゲルトの意向を汲んでアデルを突き放すことに協力してくれることを約束してくれたし、大丈夫だよ」
「ああ……ライザも手伝ってくれたおかげだ。ありがとうな」
「えへへ……当然だよ。それに、優しいゲルトがわざわざ憎まれ役になったんだもん。私だって協力するに決まってるよ……あの二人はどうか分からないけど」
ライザは、冷めた視線をガラハドとニーアへ向ける。
「やっと役立たずがいなくなって清々したのはいいが、アナスタシアまで出ていくたあなあ……」
「ニュフフー。ガラハド、アナのこと狙ってたしね」
「まあな……チクショウ、あんな屑なんかより、俺のほうが絶対に強くていい男なのによ」
……本当にこの二人、言いたい放題だな。
だが、それでもこの二人の実力が確かなのも事実。俺達のパーティーがさらに上に……それこそ、あの英雄レンヤをも超える存在になるためには、強い仲間が必要なんだ。
「ゲルト……がんばろ? 私も、絶対に君の力になるから」
「ああ、期待している」
「ん……」
俺はその綺麗な藍色の髪を優しく撫でると、ライザは気持ちよさそうに目を細めた。
◇
そして……アデルとアナスタシアの二人と
「チクショウ……チクショウ……俺は、あの英雄レンヤと同じじゃないのかよ……っ」
目の前で咆哮を上げる巨大な黒竜と、それに対峙するかつて追放した男と[聖女]。
それを俺は、今にも息絶えようとしているライザを抱きかかえながら、ただ唇を噛んで眺めていた。
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