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そう! 実はこの劉家、不思議なことが起こりやすい家なのだ! 私も5年も仕えているから何度か奇妙な目に合ったことがある。庭の池にのっぺりしたものが潜んでいてこちらと目が合うとか、屋根の上で誰かが踊っているような音が聞こえるのだけど、外に出て見てみても誰もいないとか。
劉家のお屋敷は妖怪付きだって、そういう噂がある。で、ひどい人になると、お嬢さまが原因だって言ったりする。あそこの上の娘はとても美しいから、妖怪を魅了するんだ、って。ひどい話ではあるけれど、でも、妖怪や魔物でさえも参ってしまいそうなお嬢さまの美貌だな、とは思う。
「家を建てた場所がたまたまよくなかったのかもしれない。妖怪たちの通り道になってるとかさ。秋芳、君も綺麗なばかりにいろいろ苦労があるね」
「別に構わないわ。綺麗であることはそんなに嫌なことではないから」
お嬢さまはさらりと言ってのけた。
「ねえ、ねえ、何してるの?」
そこへもう一人登場人物が現れた。
秋華さまもお嬢さまとそんなに似ていない。けれども目がくりくりしてかわいらしい顔をしている。小動物のように軽やかに、部屋の中に入ってくる。
「手紙をもらったのよ」
お嬢さまはそう言って、秋華さまにも説明をした。聞いている秋華さまの顔がどんどん険しくなる。
「お姉さま! お嫁にいってしまうの!?」
「それはまだ決めてないわ」
「東原さまのところへ!」
「まだ決めてないの」
「駄目よ! 東原さまは、女癖が悪いのよ!!」
「そうなの?」
「そういう話よ! だって、うちでも美しい使用人ばかりにしつこく声をかけるじゃない!」
うん。私には挨拶くらいしかしないのに。
「お姉さまは、もっとお姉さまを大事にしてくれる人のところにお嫁に行かなくては駄目よ! お姉さまだけを大切にしてくれる人のところ!」
力いっぱい主張する秋華さまに義山さまがさとした。
「でもね、世の中側室を持っている男性はたくさんいるんだよ」
「そうだけど、でも本妻と妾が仲悪い話もよく聞くじゃない!」
そう言って秋華さまはつんと頭をそらした。「私は東原さまのところへお嫁にいかないわ」
「秋華、君が求婚されたわけじゃないんだから……」
義山さまはなだめるように言った。「東原はそんなに悪いやつじゃないよ。むしろいい奴だ。正直で、裏表がない。さっぱりとしていて付き合ってて気持ちがいいんだ。そんなに毛嫌いすることもないだろう?」
義山さまは東原さまと小さいころから友だちなのだ。親友といってもいい。だから、擁護したくなるのだろう。
――――
結局、手紙が本気かどうかはわからなかった。自分の部屋に戻って、お嬢さまはしばらく悩んでいた。
「どう返事をしようかしら……」
「お嬢さまはどうされたいんです。その……東原さまと結婚されたいかどうか」
「そうねえ……」
そう言ってお嬢さまは目を閉じ自分の胸の上に両手を置いた。
「何をなさってるんです?」
「自分の胸に聞いてるの。結婚したいかどうか……」
「なるほど」
ほどなく、お嬢さまが目を開けた。そしても口も開いた。
「東原さまと結婚……ものすごく嫌というわけでもないけど、けれどもさりとて、ものすごくそれをしたいというわけでもない……」
「お嬢さま、結婚は人生の一大事ですよ。軽々しく決めてはいけませんよ」
「そうね」そう言って、お嬢さまはちょっと黙った。けれどもまたすぐに言った。「お断りの手紙を出すことにするわ」
正直私はほっとした。東原さまの結婚にひどく反対ってわけではないけど、急に事が運んでしまっては心が追いつかない。
お嬢さまが机に向かい、私は用事があって部屋を出た。回廊を歩いていると、庭から声がする。見ると、驚くことに今ちょうど話題になっている東原さまだ。
東原さまはやはり、美男子だった。きらきらしている。背が高くてがっしりしていて、顔立ちはすっきりと整って欠点がなくて、でも目は愛嬌があって、世の女性をたちまちとりこにしそうなほほえみを浮かべている。東原さまは私に声をかけた。
「小玉、手紙を秋芳に渡してくれたかい?」
「はい」
「どうだ? 私と結婚してくれると言ってくれたかい?」
「いえ、それは……」
お断りの手紙を書いてる最中です、って言っていいものかどうか。迷う私に東原さまはたたみかけた。
「私の手紙を見て、喜んでくれただろう? それとも恥ずかしくてなかなか決心がつかないのかな?」
「えーっと……」
なんて言っていいものやら。
「小玉」
そう言って、東原さまはさらに私に近づいた。その綺麗な目でまっすぐに見つめられると、不覚にもちょっとどきりとしてしまう。
「小玉は私の味方だろう?」
「ええ、まあ」
「私たちの縁結びのために働いてくれるだろう?」
「……」
東原さまが笑顔になった。ますますきらきらしている。まぶしい。
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