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次の日、私とお嬢さま、義山さまは回廊の階段部分に集まっていた。私とお嬢さまが段に腰掛け、義山さまがそばに立っている。美しい日だった。季節は春から夏に向かおうとしていて、庭の緑が濃く鮮やかだった。
けれども気分は美しいとは言いがたい。
「君のとこにいるやつと、僕のとこにいるやつは本当に似てるね」お嬢さまから白い生き物の話を聞いて、ため息まじりに義山さまは言った。「僕のとこのも、線が何の役に立つのかと言ってる。そして、いつか相手が攻めてくるって言ってる」
「彼らはお互い、とても怖がっているのよ」お嬢さまは遠くに視線を向けつつ、つぶやくように言った。「どちらもとても恐れているの。相手にやられてしまうと思っているの。どうしたら、不安をぬぐうことができるの?」
「似たもの同士でいがみあってるんだよ。よくあることだけど。ちなみに彼らによれば、僕らは、みんなそっくりなんだって」
「まあ、同じ人間である、という点では」
「でも全く同じではないよ。彼らには一体、何が見えているのだろう」
そして私たちにも一体何が見えているのだろう。全部同じ、白くて小さくてかわいいしっぽを持つ生き物なのに。本当はそうではないのだろうか。
「僕のとこにいる生き物をさ、東原にあげてしまおうかと思って」
義山さまが言った。東原さまの名前が出てきたので、私は少しどきりとしてしまう。
「どうして東原さまなの?」
お嬢さまが尋ねる。
「やつは妖怪に好かれるじゃないか」
そういえば枇杷が懐いてた。枇杷、元気にしてるのかな……。本当に月に帰ってしまったのだろうか。
義山さまは肩をすくめた。
「でも嫌なんだって。ここから離れたくないんだってさ。ここは彼らにとってすごく環境がいいらしい」
「妖怪屋敷だから?」
「まあ……そうかもね」
「そういえば最近、東原さまの姿を見てないわ」
お嬢さまが言い、私はお嬢さまの顔をちらりと見る。東原さまが来なくてがっかりしてるのかな、気に留めてるのかなと思ったのだ。でもお嬢さまの表情はいつもと変わらず、東原さまの不在を嘆いていないように見える。それとも私がそう見たいだけかな。
「体調を崩してるんだよ」
「まあ、大丈夫なの?」
義山さまの言葉に、お嬢さまが尋ねる。義山さまはあっさりと言った。
「平気平気。ちょっと身体の具合が悪いかな、ってだけで。遊びまわるほどの体力気力がないんだ」
東原さまが遊びまわる……どうせろくでもない遊びなんだろうなと思ってしまう。だったら、多少弱っているほうがいいのかも……。ううん、そんなことを考えてはいけない。
「というか、最近、あんまり遊び人じゃないんだよ、彼は」
義山さまがお嬢さまを見ながら言った。「彼はどうやら真面目になったようだ。秋芳、君への気持ちに気づいたからじゃないかな。君への真実の愛に目覚めて、彼は新たな人格となった……」
義山さまが真面目な顔で言う。お嬢さまへの真実の愛に目覚めて、女好きの性格が直った? そんなことってあるのだろうか。お嬢さまはどう思ってるのだろう?
お嬢さまはただ、笑っただけだった。
――――
午後、私がお嬢さまの部屋に行くと、お嬢さまはいなかった。けれどもそこには、ぎょっとするものがあった。あの白い生き物だ。小さくて白い……でもあまり小さくない。大きくなっているのだ。
ものすごく大きいというわけではない。両手で抱えられるくらい。でも手のひらに乗る大きさではなくなっている。姿形は変わっていなくて、しっぽもある。それが卓の上に乗って、きらきらした黒い瞳でこちらを見つめていた。
「ねえ、私たちは考えたんです」
明るい口調でその生き物は言った。部屋にいる生き物は一匹だけ。他のはどこに行ったのだろう。
「私たち――大きく強くなるべきだと思ったんです。大きく強くあれば、いじめられることはないでしょう?」
「……そうね」
なんだか嫌な気持ちがした。どこからか不安がしのびより、私にからみついていく。私は尋ねた。
「どうして一匹だけなの?」
「私たちは素晴らしいことに気づいたんです!」はしゃいだ声で、生き物は言った。「私たち――合体できるんですよ」
「合体」
思わず復唱してしまった。生き物は相変わらず陽気に言う。
「こんなこと知らなかった。きっとここの素晴らしい空気と光のおかげでしょうね。私たちは合体して一つになって――もうこれで彼らに負けることはありません」
「よかったわね」
よかったのだろうか。よくわからないけど、私はそう言っていた。
「一つになるって、みんなで一致団結して物事をなすって、いいことですよね」
「いいことね」
私は素っ気なく答えた。どうも、あまりここにいたくないように思った。生き物の目は無邪気に輝いていて――でもそのくもりなさが恐ろしかった。
私は部屋を出た。回廊の手すりに、白い生き物が一匹ぽつねんといることに気づいた。小さな、今まで通りの大きさの生き物だった。私はその生き物へと近づいた。
どうしてこの子だけ一匹でいるのだろう。まだ全部が合体したわけじゃないのかな。それとも義山さまのところの子だろうか……でも線が引いてあるから、こちらには来ないはず。たぶん。
「どうしてこんなところにいるの?」
私は声をかけた。たった一匹で。「部屋には――」
そこで言葉が詰まってしまう。義山さまのところの生き物だったら、今、お嬢さまの部屋でどんなことが起きているか、言わないほうがよいのではないかと思ったからだ。でもこの子が、一体どちらの子であるのか、私には見分けがつかない。
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