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「ご、ごめんなさい。あなたたちをおどかすつもりはなかったんだけど……」
でもそっくりな生き物がお嬢さまの部屋にいるのは事実だし……。なんと話を続けていいか迷っていると、横から義山さまが助け舟を出してくれた。
「一体どうしたんだい? 何をそんなに怖がっているんだい?」
そう、怖がってる。彼らは大いに驚き、そして今は恐れていた。彼らの一匹が進み出て、私たちに言った。
「私たちは故郷の星で迫害を受けて、逃れてきたって言ったでしょう? 私たちをいじめていたというのが、そのそっくりなものたちなのです」
「――私の部屋にいるそっくりさんたちも、同じことを言ってたわ。故郷の星で迫害を受け、逃げてきたって」
お嬢さまの言葉に、白い生き物の一匹が強い眼差しでこちらを見つめた。
「嘘です! 彼らは嘘をついてるのです!」
きっぱりと激しく、その生き物は言い切った。嘘? お嬢さまの部屋にいる小さな白い子たちは、嘘をついてるってこと?
私たちをだましてるの? それとも――こっちが嘘を言ってる?
私たちは、私とお嬢さまと義山さまは黙った。少しして、義山さまがお嬢さまのほうを向いて口を開いた。
「どういうこと?」
「わからない」
お嬢さまは短く答えた。私もわからない。
――――
とりあえず、いったん、部屋に戻ってみる。部屋で待っていた白い生き物たちに義山さまの部屋で見たことを話すと、こちらも慌てうろたえ、そしておびえた。
「彼らは嘘を言ってるんですよ」
私たちの部屋の白い生き物は涙ながらに訴えた。「全部嘘なんです。私たちが彼らにどんなにひどい目に合わされてきたか……。彼らは私たちがこの世から全て消えてしまうことを望んでいるのです」
お嬢さまは眉をよせる。
「それは……ひどいことね」
「あなたは私たちの味方でしょう?」
白い生き物は熱心にお嬢さまに言った。「ここにいてもいい、って言ってくれましたよね。私たちには行き場がないんです。ようやく手に入れた安住の地を、こんなことで奪われるようなことがあっては……」
「もちろん、いてもいいわよ」
お嬢さまははげますように言った。そして気持ちを落ち着かせるような優しい声で彼らに告げる。
「私たちが、私と小玉があなたたちを守るわ。あなたたちはここにいる限り、傷つけられることはないわ」
「ありがとうございます!」
生き物たちの表情に喜びが広がり、口々にお礼を言った。かわいい。これだけ見ていると、かわいくて清らかで、悪いことをする生き物に見えないんだけど……。
でも、どちらかが嘘をついてるんだよね。お嬢さまの部屋にいる子たちか、義山さまの部屋にいる子たちか、どちらか。それとも、どちらも嘘をついていて、示し合わして私たちを騙そうとしているとか?
どうもよくわからない。私はこの白い生き物たちにどういう態度をとればいいのだろう。
お嬢さまが私をうながし、二人でそっと部屋を出る。廊下で、お嬢さまは小さな声で私に言った。
「どう思う?」
「あの生き物のことですか?」
「そうよ。どちらが本当のことを言ってるのかしら?」
「それともどちらも本当のことを言ってないとか……」
「どちらも本当だということもあるわ」お嬢さまはため息をついた。「揉め事って、そういう場合があるでしょう。話を聞いてみると、どちらも言い分があって、どちらも悪くてどちらも正しい、みたいな……」
お嬢さまの顔がくもっている。私たちはやっかいな相手に出会ってしまったのかもしれない。
――――
生き物たちが言う通り、次の日には彼らの数は倍になっていた。生き物はお嬢さまに言う。
「まだあの植物を捨てないでくださいね」
「……まだ出てくるの?」
お嬢さまの顔がちょっと困っている。私も心配になってしまう。彼らはどこまで増えるのだろうか。お屋敷が白い生き物でいっぱいになったりしなければいいけど……。
生き物はこちらを安心させるように笑った。
「あともう10匹ほどが残っていますよ。それで終わりです。でもできればその後もあの植物をとっておいてほしいんです。あれは私たちの大事な船ですから」
「わかったわ」
その後、お嬢さまと私は町に買い物に行き、帰ってくると義山さまが困った顔で私たちを捕まえた。
「僕の部屋の白い生き物たちが、君の部屋の白い生き物をなんとかしてほしい、って訴えてるよ。屋敷を移動していたら、たまたま彼ら出くわしちゃったみたいだ」
「まあ」
「すごくおびえてる。一刻も早くどうにかしてほしいって」
「でも、そう言われても……。私は言ってしまったの、彼らに、あなたたちを守るって」
「僕もだよ。僕も似たようなことを言った」2
「私――」お嬢さまは悲しそうな顔になった。「いい恰好をしたいのよ」
「僕もだよ」
私たちはゆっくりと庭を歩く。お嬢さまの部屋に帰れば、こちらの白い生き物たちが訴えてくるのだろう。義山さまのところの生き物をどうにかしてほしい、って。それを考えると憂鬱で、足取りが重くなってしまう。
「線を引いたらどうかな、って言ったんだ」義山さまは言う。「こう、屋敷を半分にわけるんだ。僕のとこのと君のとこの、それぞれの境界の中で別れて暮らす。顔を合わせなければもめることもないと思うんだけど」
「いい考えね」
お嬢さまはそう言って、私たちは部屋に戻った
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