第6話 友人



「スチームアーマーの基礎フレーム、つまり骨格にはパーツパージファンクション、通称【PPF】は機体破損の際にフレームを強制パージして、整備性を良好にする機能です…」


スチームアーマーの整備講座、その担当である男性は丸眼鏡をかけたノーマン・ピザフは眼鏡をかけ直しつつ、スチームアーマーの機能を説明する。

ネイトはその授業の光景に、日本の高校を思い出していた。

科目によるが、座学なら基本的に教室で授業を受ける。

そんなことでさえも、かつての日本を思い出し、懐かしんでしまうのは致し方ないと言えるだろう。

そんな彼の軽いホームシックを断ち切るかのように、授業の終了を告げる鐘の音。

学園で一番高い屋根にある、大鐘は近隣住民からは時計代わりにされている大鐘の音に、ノーマンは授業を終わりにして課題を出す。


「えー、今回の課題は今回の2回分の授業で学んだ機体設計の模写だ。更に、改良案などがあれば模写した設計図に書き込めば追加点を付与しますから、がんばってくださいね」


アスタパイアとヴェラトプの設計図の模写。

それが今回の課題のようだ。

クラスメイト達はうげぇ、と苦虫を噛み潰したような顔をする中、ネイトはやっぱり学校で教えられるのと独学では全く質が違うと感じる。

それを実感しているネイトに、一人の少女が彼に話しかける。


「お久しぶりです、ネイト君」


と言われて顔をあげると、そこには夢を与えてくれた少女がいた。


「あ…!久しぶりだな、ローゼ!」


「はい!ネイト君が元気そうで良かったです!」


そういえば彼女もここに通うんだっけ、と思い出すネイトであるが同時に彼女と顔を合わせるのもかなり久しぶりなのも思い出す。

本当は入学前に一度会う予定だったが、スタンピードのおかげでこの有様である。

それはさておき、ネイトはローゼを改めて見る。

やはり、というか幼少期の頃から可愛い幼女であったのだ。

成長すればそれはそれは可憐な美少女になるだろう。

それを改めて認識したネイトは邪な想像も膨らむが、紳士になれと自分にいい聞かせ彼女を褒める。


「制服、よく似合ってる。可愛いよ」


サムズアップもして褒めるネイトに、ローゼは笑みを浮かべる。


「ありがとうございます、ネイト君。ネイト君も似合ってるからね?」


「え?そうかな……?」


キャッキャウフフと、無自覚に軽くイチャつく二人に周囲は白目になるが女子たちはお似合いだ、や妾を狙おうか、なんて貴族の娘らしく、また年頃の娘らしい感情を抱く。

まあ、勿論それにいい感情を抱かないのは男子たちである。

ネイトはハッキリ言うとイケメンの部類である。

まさに女子が一度は夢見る貴公子のような容姿、そしてヴェングリン家という家柄もあって大っぴらではないがファンクラブや妾を狙う輩もいる。

が、基本的にその高貴な雰囲気の近寄りがたさから彼に話しかける者はローゼを除いていないため、巷では幻の貴公子、なんていう渾名も付けられている。

そんなことを知りもしないネイトは、ローゼとイチャつくだけだが。



























入学から半年間、ネイトは勉学の中で様々なスチームアーマーの知識を吸収していった。

勿論、他の座学・実習も吸収していたがやはりやる気の起きるものと違うものではやはり学習の効率や記憶力は大幅に変わるものである。

普通の勉学に合わせて、3つの科目を高成績で納められるネイトは破格の才能を有していた。

ネイトは転生させてくれた何かにこの才能ある体を授けてくれてありがとうと、いるかも分からない神様に感謝しつつ、ネイトは努力を続けた。

自分の理想と、この学園で新たに見つけた夢、最強のパイロットになる事を目指して。

それを見出したのはやはり、先の試験での敗北もある。

彼を超えるために強くなると、ネイトはこの学園で目標を立てていた。

肝心の目標、サスディウス・サフラハンは特待生ということで学園ではなく国境の防衛隊で実地訓練を受けているらしいので、ネイトの目標はまだまだ遥か上である。






が、そんな彼にも悩み事はある。

その悩み事は、友人がいないことである。そう、学園なら定番のかけがえのない友人の存在が今現在、一切いないのである。

彼の交友関係はローゼとそのお付きのみ。

お付きの女子は、ヴィーナ・アナクロンとローゼに紹介されたが本人はネイトに関わる気は一切なく、純粋を体現したかのようなローゼでさえ苦笑していた。

そのためそのデキる奴、といったような見た目に反して友人募集というギャップは女子をざわめかせたが男子達はその才能と顔にさらに嫉妬していた。

だが、それだけではないようだが……

結局、友人ができることもなくあと少しで一年があっという間に過ぎようとしていた。

その日は次の年を迎える前に、大人が子供達にプレゼントを送る世界レベルの行事であり、またネイトにとって感慨深いものである。


「トゥリスマクかぁ……」


ネイトはトゥリスマクが前世で言うクリスマスで、転生者や転移者の誰かが伝えたんだろうとすぐにわかった。

どうしたらそんな風に名前が変わるのか気になるところだが、ネイトはローゼへのプレゼントを考える。

許嫁だから、とかではなく学園生活で普通に接してくれるローゼに感謝の印としてプレゼントしたいと考えていたのだ。

故郷の復興も順調との手紙も来ていて、ネイトはそれに喜びつつも未だに友人の一人もできないことに嘆いている旨を手紙に書いた。

ぶっちゃけ、それしか書くことがないのもあるが。

虚しい青春になるのか、と途方に暮れるネイトだったが考え事をしていたせいでネイトは前を見ていなかった。

外壁に囲まれた賑やかな街の中で、ローゼへのプレゼントを探すのに心あらずであれば、それはそれはそうなるだろう。


「ファッ!?」


「うおっ!?」


背の小さい少年にぶつかってしまい、少年が抱えていた本とバックが落ちてしまう。


「す、すみません!僕がちゃんと前を見てなかったから…」


「いや、自分も見てなかったのが悪いのであります!」


落ちた本とバックをお互い拾い、ネイトが彼に本を返すとき。

ようやくお互いの顔を見ることとなった。

そして小柄な少年はかけていた丸眼鏡をポケットから布を取り出して突然眼鏡を拭く。

そうしてまたかけ直してこちらを見ると、少年は「ヒェェェ!?」と情けない声を出してビビリ散らかす。


「え?え?……えぇ?」


彼の反応に全く理解ができないネイトだが、彼の服装を見ると共に学園に通う生徒らしい。

なので、初対面である彼に自己紹介する。


「えっと……僕はネイト・ヴェングリン。君は?」


自己紹介したネイトであったが、当の本人は食い気味で答えた。


「ええ、ええ!勿論貴方の名前は知ってますよ!入学前に大猿を叩きのめし、獅子奮迅な活躍をなされたとか!」


「え、何それ……」


マニュアル通りに何とか動かして殴っただけなのに、いつの間にか話に尾ひれがついていて驚くネイト。

そんな彼に気にすることなく、彼は自分もしなければと自己紹介をする。


「あ、自分はコータ・コールと言います!ご丁寧に自己紹介ありがとうございます!」


コータ・コール、後にネイト・ヴェングリンの半生を語る上で外せない整備士になるとは、誰にも予想できないだろう。

ネイトの生涯の友であり、同時にスチームアーマーの虜にされた同志でもあるコータとの出会いは、トゥリスマクにおいてたまたまぶつかったという話は語り草である。











【後書き】

ネイトは天然な反応をしていますが、シンプルに前世の二次元の見すぎで今の自分の容姿がイケメンなのがよく解ってないだけです。

同時に幼少期から貴族として最低限の事しか教えられていないので、友達の作り方とか完全に忘れてます。田舎者であるという自覚と気恥ずかしさで相手からのリアクション待ち状態です。




【補足】

・銃火器類について

スチームアーマーの技術で再現可能だが、魔法を利用して製造しても前世の銃火器より大型化するので取り回しが悪く戦場で使われる事はほとんどない。

それに対して対魔獣に置いては弓矢に次ぐ人気な遠距離武器で、威力が高い上視界が開けた場所でよく使われる。

スチームアーマー由来の武器から、名称は【スチームボウガン】。


・PPF

ノステラス王国が独自に開発したパーツパージファンクションシステムの略称。

戦闘中の整備において手足を丸ごと交換する為に、特殊な関節部を採用しており、損傷しても損傷部の修理を早く終了させられる。

だが、誤作動によるパージ事故もあり後の新規格の構造の登場で廃れる技術である。



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