第4話 王都へ
「そんなまさか!?あり得ない!」
魔獣達のスタンピードが終わり、原因究明に躍起になっていた魔法使い達は調査の結果を報告していたが、聞く側である騎士達にはスタンピードが人為的な物である事など信じたくなかったのである。
スタンピードの発生ケースは複数あるが、基本的に魔獣達の中のパワーバランスが崩れた結果、新たな生息域の拡張のために群れで現れるかスチームアーマーを必要とする巨大魔獣が現れるかというのが基本的なケースである。
たまに調子に乗ったかつては冒険者と呼ばれた傭兵達が、魔獣達の生息域を許容以上に荒らした為に報復に起きたり、【魔物】による物だったりというケースもある。
だが、調査した魔法使い達は全会一致で人為的によるスタンピードだと報告された。
「我々も否定したいです。ですが何者かは解りませんが、深淵の森の近郊にこんなものが……」
そう言って一人の魔法使いが取り出したのは抜け殻のような透明なキューブ。
ガラスでできているように見えて、鉄のように硬い物質でできている。
だがそこから感じる魔力は、魔法に通ずるものでなくとも異様な物を感じさせる物であった。
「恐らくですが、この箱状の中にあったエネルギーが魔獣達のスタンピードを引き起こしたのかと思われます。詳細はまだ調べてみなければ解りませんが……」
「どのみち、他国による攻撃には変わりあるまい」
そう締め括ったのは松葉杖を脇に置きつつ、キューブを睨むアグラ。
アグラは先のスタンピードの戦闘で奮闘し、魔獣による攻撃で右足を負傷したものの、こうして報告会に出れる程度には回復していた。
そんな彼に先程の魔法使いはまだその確証はないと言う。
「もしかしたら魔物……しかも新種の魔物がこれを落としたのかもしれません。今のところは行動を起こすにしてもこのキューブを調べてからになります」
「……わかった」
結局、何もわからないまま抜け殻のキューブから得られる情報待ちという状況に生き残った騎士達はやるせない気持ちであった。
さて、場面は変わりネイトは身支度を整え後は馬車……ではなく、魔導車に乗り込むだけとなっていた。
魔導車は近世にあった頃のデザインをしており、ネイトは初めて見る魔導車に面食らったが今は落ち着いて後は両親と一時の別れを告げるだけである。
それは何故か?
答えはネイトの一言で分かるだろう。
「ナイツスクール……そのまんまだなぁ……」
そう、学校である。
彼は十五歳になったので王都の教育機関に行くことになっていた。
ナイツスクール、と名前を合併時に統一された学校はまだ建ってから歴史が浅く、また生徒間の関係にも元々の学科ごとに派閥化して対立している等と割と危険な所とも言える。
だが世間知らずな部分に不安を抱きつつも、ヒーローになる為の勉強、またスチームアーマーの授業に期待している彼は子供らしい。
「ネイト、準備はできたか?」
「はい!」
松葉杖をつきながら、屋敷の出口までやって来たアグラに心配しつつ彼の問いに答える。
ちなみに母は体調を崩したらしいので、見送りは断念したそうだ。
「ネイト……本当なら、フレイムを持たせて行かせる事など無ければ良かったのだが……いや、もしもなどない。気にするな」
「…………まだ、フレイムについては詳しくは話してはくれないと?」
父の意味深な言動に、流石に好奇心を抑えれずネイトは質問するが案の定というべきか。
すぐにそうだと答えた。
「ああ、そうだ。お前に教えたい気持ちはあるが……いや、どのみち向こうで分かることだろう」
いや、それだと色々と不味くないですか?と、言いたいネイトだが目の前の父がどことなく気弱な雰囲気を見せているが為に言葉を飲み込んだ。
何を考えているか分からない父が弱気になっている、また見たことのない姿にネイトは戸惑いつつも人間味を感じさせてくれてありがたかった。
「私からは話せん。だが、一つ送りたい言葉がある」
弱気な様子から一転していつもの姿になるアグラ。
そんな姿にネイトも自然と背筋を伸ばす。
「何があろうとも、自分を見失うな。お前の正義を貫き通せ」
「…はいッ!」
正義、ネイトにとっては創作物の中で見たあのヒーローの姿がネイトにとっての正義である。
ああでありたい、そうなりたいとネイトは改めて心に誓いながら王都へ向かう魔導車に乗り込んだ。
その後ろには護衛の三機のヴェラトプが、そしてそれらに守られるようにフレイムを格納したスチームアーマー輸送用魔導車がネイトの乗る魔導車に付いていく。
「……我が息子よ、無事に帰ってきてくれ」
それを見送るアグラは一瞬、哀しさを纏った顔になったがすぐに復興の事務仕事に取り掛かるのだった。
さて、魔導車の発明によって馬車よりも早く目的地に付けるようになり貴族社会に馴染みつつある魔導車。
それらを見た今のネイトは、この世界の時代を前世の世界に当て嵌めるなら中世と近代の間くらい、と考えた。
とはいえ、うろ覚えの地球の人類史では貴族が政権を損なってからかなり後に車が開発されたのでやはりスチームアーマーの影響が出ているのだろうとネイトは推察する。
魔法使いの存在や、魔獣らの存在もこの世界に影響を与えているのだろうがそこはファンタジー世界なのだから考える必要はないかとその思考を打ち切る。
次に考えたのは復興中の故郷。
街並みも生きる民衆も初めて見たが、あんな悲惨なものをまた見たいとは思わない。
スタンピードによって本来は前日にはナイトスクールの入学する筈だったが、スタンピードの復興事業などで後回しになり、今に至る。
学校側は把握しているので遅刻は特別に許されたが、まあネイト自身は申し訳ない気持ちで一杯であった。
とはいえ、置いていく父と母の事も心配である。
今度は両親の事で心配になるネイトだったが、それだけで数時間経ってしまったのだろう。
お世辞にも快適とは言えない踏み固められた道に車体を揺さぶられながら数時間。
既に昼時で、ネイトの腹の虫が鳴る。
そんな時間帯に王都に付いた。
運転手に目的地に着くことを伝えられて窓から外を見れば新型のスチームアーマー【アスタパイヤ】が、藍色の装甲を鈍く光らせて王都に入る為の大門を守護していた。
「すげぇ………!!」
巨大なランスを持ち、佇むその姿は静謐さを感じさせる。
まさに国を守る騎士のような姿である。
だが、驚きは止まらない。
田舎者(実際田舎者だが)が都会に来たような反応をネイトは王都を守る壁の向こう側に出れば、そこは活気のある大通り。
馬車も走り回り、今日の昼飯を探す民衆達で賑わっていた。
そんな中を突き抜ければ王城【ポストカリフ城】が見え、その下にナイトスクールが存在するのを悟り、同時に王都の圧倒的な広さに驚く。
「あそこが……俺の学園生活の場か……」
少しずつ見えてくる学園の屋根を見続けるネイトは、待ちきれない気持ちと父の引っかかる言葉に不安になりながら学園生活を夢見るのだった。
【機体解説】
〈ヴェラトプ〉
全長18mの対魔獣を主に想定した王国軍の量産型スチームアーマー。
特化型ではないが、標準装備の大盾と重装甲で魔獣の攻撃を防ぎつつその隙に機体を支える出力に物を言わせた攻撃を加える戦法を得意とする。
しかし重装甲化によって、機動力が各国の量産機よりも低く、大盾以外の携行武装はコストダウンの為にマシンピストルとジャイアントソードに限られている。
地域によっては現地改修によってキャノン装備や完全に作業用として運用されている。
ゴーグル型のセンサーアイを持つ。
〈アスタパイヤ〉
全長18.5m、対魔獣と対人を想定した新型量産機。
ヴェラトプの欠点を改善すること、というよりかはシンプルに重装甲から脱却してフラットな機体を目指したもの。
軽量化によって各国の量産機と同等のスペックになり、武器のジャンルも増やせるようになった。
しかし装甲はヴェラトプと同じ装甲材のため、他国の機体と比べると脆い。
バリエーションとして紫に塗装された王都防衛隊が存在するが、性能に大きな差はない。
センサーアイはヴェラトプと同じくゴーグル型。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます