第5話 ナイトスクール学園


学園はかなり広い。

その理由は勿論、スチームアーマーの存在だ。

城壁の外に出る専用の門があり、その付近にはスチームアーマーの訓練用の射撃訓練場がある。

まあ、18mもある人型ロボットを学園で運用するのだから当たり前とも言えるだろうが。

さて、そんなナイトスクール学園は国を守る騎士を育成する為の場所だ。

現代日本的に言えば、自衛隊の専門学校……などと何となく想像できるだろう。

学園で学ぶことは主に三つ。

剣術、魔法、そしてパイロット。

剣術に関してはその名の通りであるが、細かく語るならば武道全般である。正式名称は騎士科たが。

とはいえ、剣術が必須科目に指定されている為、いつの間にかそう呼ばれるようになっていた。

魔法は使える魔法を増やす、魔法の効率を上げる等を中心とした科目だ。

あまり広くは知られていないが、イメージと魔力さえできれば発動できるのが魔法科だ。

そのため、才能のある者はここで無詠唱を可能にするし、なくとも最低限の魔法は扱える。

剣術と比べれば人気も低く、魔法を侮る者も多いが次に説明するパイロット科では魔法科で学ぶことの応用であることが多いため、侮った者達は悉く痛い目にあっているのは恒例の事である。

そしてこの世界のパワーバランスの根幹、スチームアーマーを操りしパイロット科。

遥か昔、およそ千年前にとある男が開発したと言われるスチームアーマーの歴史と知識が詰め込まれた科目だ。

とはいえ、今のところは対魔獣戦闘の知識しか役に立っていないが。

尚、パイロット科の名は総称であり、パイロット科とは別に整備科が存在する。

まあ、お察しだろうが前述した科目等で基準以下を叩き出した者達の溜まり場でもあるが。

この学園はそのダサい名前に反してかなり実力主義な学園でもある。

そのため、名のある貴族を除いた一部の貴族達からの批判を受ける事も多々あるが今も続いているのは王族による実力宣言のおかげだろう。

王族のお墨付きで実力主義を実行しているのである。

なので、王族やその近しいものでも才能がなければ騎士から外れ、整備兵として訓練される。

ある意味、この国のいくつか誇れる部分とも言えるだろう。

まあ、裏を返せば貴族の地位を得るための場所であり、その血を誇る傲慢な者が多く、平凡な家庭の生まれとの差別等があるということでもあるが。






















そんな学園にやって来たネイトは確かな自信と、意欲を持ってやって来た。

胸に一杯の夢と自分の正義を詰めて。


「ようし……頑張るぞ!」


自分に喝を入れるネイト。

これからクラスメイトとなる者達との挨拶、印象を悪くしないために気合は入れるべきだとネイトは気を張る。

が、そんな彼を覗く一人の影。


「あ、あの……」


「え、あ……」


廊下の影に隠れるようにいたネイトと同じ身長の少女。

赤毛の少女の存在に、先程までの自分の姿を客観的に思い出して内心赤面するがネイトは至って平静を保って少女に話しかける。


「あ、ぼ、僕はネイト・ヴェングリンと言います!よろしくお願いします!」


若干、テンパりながら自己紹介を成し遂げたネイトに答えるべく少女もしっかり自己紹介をする。


「あ、どうもご丁寧に……私はリリィ・エリーナ。ここの教師を務めさせて貰ってます」


「えっ」


教師を名乗る彼女に、ネイトは一瞬目を疑い、彼女の装いを見て納得した。

彼女の、リリィの服装は学園教師に渡される制服であり、確かに見覚えのあるそれを着ていた。


「こ、これは失礼いたしました!」


「い、いえ!私もシャキッとしてないのも悪いんです!」


と、お互い謝りあう。

尚、ネイトはシャキッとするだけで解決するものなのだろうか?と疑問を抱いたが、口には出さない。


「えと、さっきのことはよくあるから気にしないで?遅刻しなくてもそういう子は何人かいて、見られることが多いから……」


何で私の時だけなんだろう、と最後に呟いた言葉は無視してネイトは気になっていたことを質問する。


「エ、エリーナ教官殿、ここのクラスが貴方の担任でありますか?」


そう問うとエリーナは頷いた。


「うん、ここは私が担当させてもらってるクラスよ。……ということは、貴方が」


「……みたいですね」


エリーナはネイトの担任教師であった。














既に昼時になった今だが、スチームアーマーという巨大な兵器を扱う学園である。

昼休憩は長めに取られており、一時間半の休憩が与えられる。

そんな中の一切れをネイトの挨拶の時間に回すことになった。

諸事情による遅刻者に、色々な憶測や予想が繰り広げられ騒がしい教室の中、エリーナが教室に入ったことで先程とは一転して静かになる。


「皆さん、集まってくれてありがとう。諸事情で遅刻してしまった子を紹介するから、静かにね。ネイト君どうぞ」


促されるままに教室に入ってきた少年。

女子はわあと騒ぎ、男子は無反応。

そんな別々の反応に自分の容姿が良い方であると安堵しつつ、自己紹介を始める。


「僕の名前はネイト・ヴェングリンです。今年から皆さん、よろしくお願いします!」



































「じゃあ、実力試験を開始しますね」


どうしてこうなっているんだろう、とネイトは思う。

さっき自己紹介したばっかりなのに、何故かクラスメイトを相手に実力試験をするのか理解ができないネイト。

状況を置いてけぼりにされている彼を気にすることなく、ネイトとクラスメイトが乗るスチームアーマーの練習用機体【ヴェラトプ・トゥリーン】は対峙していた。

トゥリーンは練習用にヴェラトプを改修した機体だ。

初めて乗る機体とはいえ、大猿の討滅と事前に教科書や辺境騎士団のヴェラトプを見させてもらって王国のコクピットの形式は何とか覚えたネイトと、既に何度か乗っているだろうクラスメイト。

些細な部分とはいえ、実力差はあると言えるだろう。

そういえば彼の名前を聞くのを忘れていたな、と目の前のトゥリーンの腹に座っているだろうクラスメイトの男子の名前が気になり始めるネイト。

場違いにも甚だしいがそう思ってしまったには仕方ないのだ。

だから、そんな時に試合開始のブザー音から一拍遅れて動き始めたネイトはモニターに迫るランスに、紙一重で避ける。


「へぇ……やるじゃない」


「クッ…!」


自信に満ちた声が、至近距離による接触回線によってネイトの耳に届く。

舐められている、と理解したネイトだったが次の攻撃に意識を持っていかれて気にする暇がなかった。

次の攻撃はランスによるさらなる刺突。

今度はコクピットが狙われるが、このままやらせはしなきいとネイトも意地を見せてバイブレーション機能をオフにしたライトソードでランスの軌道を逸らす。

だがそんな些細な抵抗も、円状の小型盾による殴打がトゥリーンのメインカメラを吹き飛ばし、そこで終了のブザーが鳴らされる。


「そこまで!両者、剣を引きなさい!」


この試験ではどちらかの頭部の破壊、もしくは戦闘力を奪われるかコクピットに武器を突き付けられるかのどれか。

時間の都合で試験を簡略化で行われ、銃火器を封じられたこの試験。

実力診断といえど、負けた事実にネイトは相手の実力と才能に憧れと嫉妬を抱く。


「負けた……負けたのか……」


実戦経験がある、といった自信がなかったわけではない。

だが、考えてみればほんの少し動かしただけ。

自分が自惚れていたと自覚し、反省する。


「サスディウス様ー!」


コクピットを開いて涼しい風を当たる中、黄色い声がネイトのコクピット内まで届く。


「サスディウス……って言うのか」


超えるべき壁の男の顔を見るネイト。

その当人は涼しい顔でこちらを見る。

その目は冷たい、だが口は不敵な笑みを浮かべていた。









【機体解説】

〈ヴェラトプ・トゥリーン〉

ヴェラトプを生徒達の練習用として改修されたスチームアーマー。

デザインを変えず、そのまま装甲だけを薄くしたので見た目に反して脆いが運動性は高い。

装甲は練習に耐えれる程度の強度なので、実戦向きではないがコクピットの周囲はパイロット保護のために頑強に作られている。

装備も実戦を想定していないのでペイント弾やバイブレーション加工されていないソード等の非殺傷武器のみである。



【補足】

・バイブレイド

バイブレーション加工された魔法剣。スチームアーマーが使うために、振動を魔力によって起こす。

マニピュレーターにある魔力回路から魔力を供給される形で刀身を震わせ、金属を断ち切る。

起動時、キィーンという音が鳴るのがバイブレイド本体の周囲とはいえ、少し離れていても煩い。

尚、人間サイズの剣にも加工を施せるが騒音問題と刀身の脆さが問題となり、既に廃れている。


・ランス

本来は先端に熱化加工を施されている。

最大五千℃の熱を放つが、ヒート化範囲が広ければ広いほど魔力消費が激しいので基本的に武装の先端か刃に加工される。

槍等の一部の武器にも利用されている。


・現象付与術

上記の加工の総称。

人類が起こせる現象の一部を特定の物に付与できる魔法。

振動、熱化、微風、圧縮の4つがあり、魔法回路を刻み魔力を込めることでその効果を発揮する。

魔力の出力次第で、人為的に地震や台風を起こすことが可能だが、それらは人外の域となる。


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