第12話 化物退治の後始末


ゴーレムによる被害は甚大であった。

王都全体に対して四分の一の市街地の破壊、学園にも一部崩壊し、王都を守る城壁も壊され避難に間に合わずに死亡した民衆や負傷者は多く、王都は軽く混乱状態であった。

暴動が起きる可能性もあるため、学園は臨時休学となり貴族も平民も関係なく、親元に戻ることとなった。

特定のグループに入っている、という訳でもないネイトはローゼとコータに挨拶するだけで故郷に帰ることとなった。

いや、ローゼはせっかくだからとネイトに付いていくようだが。


「せっかく行けるんですし、復興もほとんど終わったと聞きました。元気な顔を見せないと!」


と、ローゼは言うが先の戦いで精神的に疲れていると彼女の御付きに聞かされていたネイトは彼女の提案を否定することはできなかった。


「わかった、わかったよ、ローゼ。少しの間だけだろうけど、突然のことだし僕が父上に交渉してくるよ」


第三者からは甘々な雰囲気が丸出しであり、それをよく身近で見るようになったコータは顎の裏をかきながら苦笑する。


「……黒のコーヒーを飲みたいであります」













一方で、バサクはルナともう一人を乗せて、帝国にへと向かう道をスチームアーマーを運ぶ輸送車で走っていた。

依頼主である学園が一時休学となり、どのみち臨時講師は続けられない都合上、バサクは少し前に契約していた依頼主の元に戻ることに決めたのだ。

ちなみに彼らの使っている、世界各地にあると言われる輸送車のレンタル会社の物であり、悪路以外は大抵走破できる輸送車のお値段は傭兵達が利用することもよくあるため、ギリギリの低価格のレンタル料となっている。


「隣国の国境までは輸送車で行くとして、迎えは確かに来るんだろうな?」


「ええ、既にスパイの連絡網で伝えてあるわ。ゴーレムに関しては予想外だったけど、本国なら何か分かるはずだろうし」


「そうか」


バサクの問いに答えたフードで顔を隠した女性。

彼らにとって、あの魔改造されたゴーレムは予想外であった。

帝国の計画では、あのゴーレムの存在は計画外だが倒せた今であればちょっとしたハプニングである。

計画の修正は必要なく、バサクも雇い主の無茶振りをされないで内申では安堵していた。


「イシュルナ・ドバーバ・ル・ラシュクル……竜人族の奴隷を連れ歩くなんて初めてよ?」


特にすることもなく、暇な女性はルナを見て彼女の本名をわざわざ言いながらバサクに話題を振る。


「どこでルナの本名を知りやがった、って聞くのは野暮か。後半の問いには帰る家なんてないから連れてるだけとしか言えねぇなぁ。あと、今のコイツの付けてる枷は自分で付けてんだよ」


話題の当人であるルナは暢気に欠伸をしながらバサクの膝で昼寝をしようとしていた。

小さな体の腕につけられた枷が、奴隷であることを示すようにそこに存在していた。


「ふーん……」


バサクの返答に女性は特に何か感じることはなかった。

しかし、国境まで長い道のりを行くこととなるので暇を持て余す女性はさらなる質問をしていく。

好奇心もあるが、バサク個人へのある興味もあるためだ。

スパイの情報収集、というのは建前でシンプルに彼女が好奇心を持って問い掛けるとはスパイとしてどうなのかと思うだろうが、彼女の少ない趣味なので仕方がない。


「【神狼フェンリル】の娘と【蟲人】との関係はどうなのかしら?」


その問いにバサクは鋭い目を正面から後ろにいる女性を見て威嚇した。


「今、関係あるのかそれは?」


「ッ……ごめんなさい。余計なことだったわね」


これは別の話題にするかと女性は懲りずに次の話題を考えるが、自分の店が吹き飛んだくらいしか思いつかなかった。

一方でバサクは先程の二人の名に帝国の情報網に少し冷や汗をかいていた。


「こりゃ本格的にどっちに付くか、考えねぇとな……」


近い未来、戦争は再び始まる。

その時までに甘い蜜を吸わせてもらうためにどちらに付くか、早めに決めなければならないとバサクは焦るのだった。













ゴーレム襲撃から一ヶ月が過ぎた。

復興も一先ず落ち着きを見せた故郷で、ネイトは傭兵として魔獣退治をしていた。


「そこぉ!」


「グギャッ!?」


フレイムのバイブレイドによる斬撃が、10m近くあるハイオークを切り裂く。

ハイオークを取り巻くようにいるオーク達は遠距離、中距離で弓やボウガンを使う傭兵達によって掃討されていく。

それでも取り残したオークは、近接職の傭兵が各々の得物で斬り殺していく。


「ふう……」


即席のチームを組んだ傭兵達と魔獣狩りをするようになって、ネイトもそれなりに傭兵として必要なスキルが身に付いてきたと感じていた。

傭兵はかつて【冒険者】と呼ばれていた職業だったが、スチームアーマーの普及や未知領域の開拓により冒険というには未知が少々、いやかなり世界が狭まってしまった。


それはかつてこの世界に生まれ落ちた転生者達のせいか、いや、いつかはそうなるのだから結果は変わりはしないだろう。

どのみち、人がより豊かになれば人同士の醜い争いの時代がやって来る。

更に豊かな暮らしを、己の欲望を満たすためにと人を人と思わないような戦争が幸せを求めた故にこの異世界にやって来るのだから。


「お疲れ様、ネイト君」


「水、ありがとうローゼ」


とはいえ、今の彼らには関係あるまい。

青春はすぐに過ぎ去ってしまうものだからこそ、今を楽しむのだ。

そんな彼に呼応するように、ローゼは見ているだけでは嫌だと、こうしてネイトやチームを組んだ傭兵達に水や飯を届ける役を汚れるのを構わずやっている。

無論、その後ろには常にお付きの人がいたが。

しかし、この日はいつもの日常と異なる。


「貴方がネイト・ヴェングリン?」


そう問いかけてきたのは輝く金髪をポニーテールにしたエルフ。

エルフといえば、を体現するような美しい容姿にネイトは思わず唾を飲み込む。


「えっと、はい。そうです。僕がネイト・ヴェングリンですが、何かようで?」


エルフの問いにネイトは応えるとエルフは突然ネイトに抱き着いた。


「ヴェッ!?」


こんな密接距離で女性に触れられたことのないネイトは、驚愕のあまり奇声を上げてしまう。

しかし、そんな彼に「可愛い」と言ってみせたエルフは彼をハグから解放した後、自己紹介を始めた。


「アタシの名前はアンナ・エルレニウム!今日から光の勇者様こと、ネイト・ヴェングリンの巫女になるエルフよ!」


自信満々に自己紹介するその姿は凛々しいという言葉がよく似合う。

それは良いのだが、ネイトとローゼは互いに理由は違うとしても突然の事に驚きの声をあげるのであった。




































薄暗い格納庫に、一人の男が整備を終えたフレイムを見ていた。

その人物はネイトの父、アグラ。

彼はこれから来る波乱の時代に、父が息子にできることを考えに考えてきた。

ヴェングリン家の因縁も、恐らく息子であるネイトにも振りかかる。

それを打ち砕くための力を、少しでも与えればと考えていた。


「私にはできなくとも、息子ならば、ネイトならば兄上の因縁も決着をつけてくれよう……不甲斐ない父親だがな」


耄碌したものだ、とアグラは独りごちるのだった。
















【後書き】

すごく無関係けど、二次創作の方でも頑張ってるんで良かったら作者名で検索してみてください。

応援や感想、質問を下さった方々ありがとうございます!(今更)

これからも応援と感想を頂けると、執筆の励みになります!

勿論、全然質問なんかでも良いんでよろしくお願いします!







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