第10話 岩人ゴーレム


魔物とは、魔獣と違い無機物類に命が吹き込まれたものを言う。

例えばそう、RPGならよく出てくるゴーレムやレイスといったものたち。

一番分かりやすいのでスライムがいるだろう。

だが、ゲームでは最弱だからといって異世界でスライムが最弱という話ではない。

その逆、最強というのも有り得る話だ。

ではノステラス王国の王都を襲ったゴーレムは最弱か、否か。

この世界のゴーレムは物理最強、魔法に対しても高い防御力を持ち、パワーもサイズによるがスチームアーマーの出す出力と同等以上のパワーを持つこともある。

勿論、弱点として冷却からの熱を浴びせる化学反応や点攻撃、特に岩も貫くような攻撃には弱い。

王国を襲ったゴーレムもまた、それと同じ類であった。

だが、そのゴーレムは魔物としても兵器としても質量保存を超えた能力を有していた。


「…………」


外壁を吹き飛ばしたゴーレムはゴゴゴゴ、という音と共に変形していく。

胸部にデカい大砲のようなものが吸収されるかのように解体され、ゴーレムの内側にへと戻っていく。

だが、ゴーレムのその大きさは25m。

対して大砲は約20mの長さを持っていた。

本来、ゴーレムにはそんな機能はない。

しかし、現にこうして王都の外壁を破壊し、率いるように阿鼻叫喚の王都に入ってくる。


「どういうことだよ、これは!?」


「知らねぇよ!外の奴らは何やってんだ!?」


来襲の合図もなく、突然襲われた事実に理解ができない兵士たち。

新型、旧型関係なくパイロット達も次々スチームアーマーに乗り込み、機体を稼働させる。


「魔導索敵葉絶やさず行え!とにかく大騎士団長が来るまで持ちこたえるんだ!」


王都騎士団長、アバダ・ケルゲレンはそう兵士達を鼓舞しつつ己の機体に乗り込む。

老体ではあるが、それでも後方で指揮を取るより前線で指揮を取る方が慣れているし、性に合うのだ。

だが、ゴーレムのあの挙動にアバダは嫌な予感を拭えない。

戦士の勘という奴である。


「最悪、学園も最前線に出てもらう必要がある……か」


この老人とて子供頼りになるつもりは毛頭ない。

しかし、ここで撃退、撃破できねば王都の民の多くが難民になるか、死ぬか。

倒せなくても現ノステラス王国最強のスチームアーマー乗りである、ガイア・ガラゴニアが来れば何とかなる筈だと確信していた。




















一方、ネイトは避難指示が出されている中、フレイムのコクピットに収まっていた。

非常事態に置いて、戦闘参加等の意思は生徒と教師の個人の判断に置くとマニュアルにはあるが、実際のところは教師が実質生徒達を仕切っている。

作戦のさの字も知らない貴族の子供が大半、そうでなくても平民である。

まだ少しは戦場への理解のある大人が率いるしかない。

実際、人の命がかかっているのにも関わらず多くの学園パイロットは暢気に終わったあとの話をしていた。

学園校長のサウマンは校庭で起きているその光景にこれも時代か、と頭を悩ませつつ王都守備隊である王騎士団のオペレーター達に指示がないか問う。


「アバダ騎士団長からは、合図があるまで待機とのことです」


「了解した」


つまり、戦況が悪化すれば時間稼ぎに生徒達が死ぬということ。

そしてその確率は現在の国の兵士達の質を考えると、そこそこ高い。

無能ではないが、しかし臨機応変さに欠けるのだ、今の王国の兵士達は。

だから祈る。そうならないことを。

しかし今回ばかりは祈っても届かない。

最初からゴーレムは異常な存在であるのだから。

だがその事実は今の彼らが知るはずもない。

サウマンは臨時講師とはいえ、何度かは経験がある筈だろうバサクに連絡を取る。

バサクを臨時講師に雇ったのはサウマンである。

だからこそ使える手は使わなければならない。

学園のプライド、国としてのプライドがかかっている魔物とのこの戦い。

負ければ後世で不注意で魔物に滅ぼされた滑稽な国として伝えられることとなる。

それだけは避けなければならない。


「バサク殿、魔物の討伐を……」


だから傭兵だろうが手を貸してもらうしかない。

出費は嵩むが、ここで打てる手を打たず死ぬよりマシである。


「なに!?むぅ……わかった。それで手を打とう」


よっぽどの高額報酬を吹っ掛けられたのか、驚きつつもそれを承諾したサウマン。

だが、それはそれで頼もしくも思えるのはその異名からか。


「血濡れの杭……頼むぞ」


後は、この校長室で祈るだけである。

どこに逃げようと、あの巨大な魔力砲、いや古来から伝わるビーム砲では人の足で射程距離外に出るなど無理な話であるから。
















その祈りは届かず、新型機アスタパイヤだった物が学園の校庭にめり込みながら吹っ飛んできた。


「……え?」


直下まで飛んできたそれに呆然とする貴族の子供。

次の瞬間、アスタパイヤは爆散した。


「うわぁぁ!?」


貴族の子故に、その機体は頑健にカスタマイズされたヴェラトプ。

スチームアーマー一機の爆発ではその装甲にはほとんど皆無であった。

が、その直後にやって来た白い光線に気付ければの話であるが。


「光が…」


その言葉を最後に上半身を消し飛ばされたヴェラトプ。

それを目撃していた周囲の生徒達は脅威が来ていることを悟る。


「に、逃げろぉぉ!」


「つ、詰めるな!もっと散らばれ!」


阿鼻叫喚の中、ネイトはフレイムの足を動かす。

前へ、前へと駆け出した。


「ネイト君!?やめなさい!」


教師の一人がゴーレムに向かうフレイムを見て止めようとするが、既に学園の敷地から出てしまい、既に止められない。

一方、ネイトに何か考えがあるのかというとノープランである。

ただ駆け出した、それだけの無謀な突撃。

しかし彼の心にある燃えている魂が、彼を突き動かした。

皆を救うヒーロー、正義を体現するような存在になりたいと誓った自分の正義。

家訓にもあった【自分の正義を曲げない】。

勝てる勝てないではない。

何もできない、抗う術を持たない者達の為にこうして立ち向かうと決めたのだ。

それが無謀で、蛮勇と言われるような勇気であっても。

ネイトにとってはそれが最善であるから。


「ファイア……ボルトッ!」


右腕だけ炎を纏い、それを雷光の如きスピードで手のひらから放つ魔砲【ファイアボルト】。

バルトメウという、特化型の性質を持たされた機体だからこそ扱えるギミック。

それがゴーレムの平たい頭部に当たる。

しかし、相手の注意を引くだけで大きなダメージはない。

実家からあえてフレイムの解析を一からスタートさせられたネイトとコータ。

そのためゆっくりだがかなり雑な古代語を読み解いて、本格的に運用されていた当時の情報を得ていたがそんな半端な状態では勿論、ゴーレムを倒せるはずもなく。

しかし、魔砲という特殊な武装はフレイムの戦闘の根本となる事だけは理解しているネイト。

これを自由に扱えれるようになれば、ゴーレムを倒すもしくは撃退を可能とするのではと、刹那的な行動に出たネイトであるが実際、どのように魔力を送ればどこがどうなるのか理解してきている。


「いける……いける!」


脳裏にチラつくアスタパイヤの無惨な最後。

しかしそれを振り切ってファイアボルトを撃ち続ける。

だが炎と岩、炎は岩を溶かすほど高温ではなく、岩は燃えない。

故にその攻撃はほとんど通じていない。


「………!」


腕の横振り。

ゴムのように伸びた腕がフレイムを薙ぎ払おうと振るわれたが、流石にそれは見ていたので避ける。

しかし、相性という時点でネイトが負けているのは明白であった。


「クソ……どうしようもないのか……!」


打開策はないのか、それを模索するもネイトの頭ではないとしか言えない。

撤退か、抗戦か、どちらか迷った。

迷ってしまった。


「!」


「しまっ…!」


ゴーレムの予備動作なしの伸縮パンチがフレイムにへと向けられる。

動けないフレイムは、そのままやられる……かと思えたが。


「下がれ小僧ッ!!」


アバダがその腕を叩き切る。

バイブレイドによって容易に裂かれたゴーレムの腕だが、地面に損傷した腕を突っ込むことで新たな腕を再構築した。


「アバダ騎士団長…!」


「その正義感は買うが、貴様の機体ではアヤツの相手は無理だ!」


特化型故に、魔物、魔獣関係なく相性が悪ければ攻撃は届きにくいのはスチームアーマーに乗ろうが生身で戦おうが変わらない。

かと言って汎用型が強いかと言われると全く違う。

何故なら基本的に汎用型は特化型のデッドコピーであるからだ。

特化型は元々スチームアーマー本来の運用目的、【対魔獣】兵器を載せた機体である。

それを人の戦争で使えるようにしたのが汎用型。

量産機が主に該当するが、特化型も時代の移り変わりと共に変化してきた。

ネイトのフレイムはその移り変わりに置いていかれた機体であるが、しかし真の力を解放すれば現行機に圧勝する性能を持つ。

まあ、そんなことはまだネイトには知る由もないが………

ネイトを庇ったアバダのアスタパイヤは、敵前で敵の動きを観察しつつ、獲物であるランスをしっかり相手に向けていた。

先程のバイブレイドは切り落とした拍子に落としてしまったが、アバダにとっては些細なことである。

しかし、このゴーレムは異常な存在であることを忘れてしまっていた。


「ワシが引き付ける!貴様は逃げ」


ゴーレムの目でもある水晶を引っ付けたような頭部。

そこから真っ白な閃光がアバダのアスタパイヤのコクピットを穿った。


「ビッ……!?」


目が光った瞬間、それがビームであることを看破したがそれを伝えるには人間では遅すぎた。

その直後ネイトにはやけに周囲の時間の流れがゆっくりと感じた。

主を失ったアスタパイヤが、機体の重心が変わった事で倒れる間際。

そして機体が風船のように大きく膨張して膨張して爆散する。

その姿を見た。











【後書き】

最後に補足とか書いていますが、ぶっちゃけ本編内で説明しきれるか分からないから保険をかけてるだけなんですよね……

稚拙で申し訳ないです。

なるべく本編で紹介できるよう、努力します。




【補足】

・魔砲

スチームアーマーの武装を代表とする武装。

異世界ファンタジー特有の魔法を、スチームアーマーサイズで放つ事ができる。

ただし、この技術は一部の国を除くが、多少の技術しか模倣できておらず、現行の量産機では魔法大国【エルデバラン】に配備されている【スマッシュ】を主に模倣されたものが標準装備されている。

魔砲自体はフレームや装甲に刻まれた詠唱文と魔法陣によって作られる。


・型式番号について

この世界には兵器に型式番号を付けるといったことはない。

付けられない、という訳ではないのだが英数字で構成される型式番号を付けても一般兵は学があまりない平民が主のため覚えきれないのと、スチームアーマーが大流行した当時の機体の数のインフレに追い付けず、型式番号を付けることを放棄した事によって型式番号は消失している。

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