第24話 冒涜


ネイトは先に辿り着いていたレクトパイルの元にフレイムを降り立たせ、ネイトは問う。


「なんで脚を撃ってるんです?さっさと頭を撃ち抜きましょうよ!」


下手をすれば大被害が及ぶかもしれない。

そんな想像が容易にできるからこそのネイトの質問だったが、バサクは特に何か言う訳ではなく機体を動かし続ける。

目指す先はもう決まってるとばかりに動く彼に、ネイトは押し黙らされる。

そのまま気まずくなり、ネイトは機体を上昇させて周囲を飛び回ることにした。

何か分かるかもしれない、そんなあまり期待のない予想をしつつネイトは巨大な亀のような背中を見渡す。


「改めて見ると、デカ過ぎるよな……」



















一方、押し寄せる魔獣を駆除した王国軍、帝国軍はスチームアーマー部隊に対大型魔獣隊形を取り、それらを見下ろす形となっている龍を見続けるのみであった。


「ヒム・トゥオンフのキャノンでも効果は薄い……やはり乗り込むしかないか」


ヒム・トゥオンフのキャタピラでは登ることはできないため、シスタリアが肝となるがそれでもあの龍を倒すには圧倒的な火力とそれを通す貫通力が必要となる。

やはり、王国軍のフレイムとレクトパイルが切り札か、とサカタはそこまで思考して背後の気配に気付く。


「ふむ、諜報部の者がここに来て何用かな?」


「ちょっと挨拶にしに来ただけよ。味方に撃たれるのだけは勘弁だからね」


声からして女性であることは分かるが、彼女の着こなす物は踊り子のように扇情的でありながら不気味を通り越して気味の悪い物であった。

髑髏を象った仮面に黒い肌を隠す布地は薄く、装飾品は何かの生物の骨だろうか。

そんなものを引っ提げる彼女の姿はまるで死神のようだ。


「本当は失敗した私を殺しに来た、かな?」


「いえいえ、皇帝もそこまで貴方の失敗に腹は立てていないわ。むしろイレギュラー相手に良くやってるとお褒めになってたわ」


「それが本当なら良いのだがね。それでわざわざ私に会いに来た理由は?」


「あら?もう本番に行っちゃうの?」


「目の前のデカブツがいつ動くのか分からないのだから、本筋を催促するのは察してほしいな」


「フフフ……」


サカタの刈り上げた黒髪の上に埃が引っ付いているのを気付かないあたり、本当なのだろうと彼女は内心で謝罪と同情しつつ彼女は本題を切り出した。


「バーンが裏切った。だから殺しに来た、それだけよ」


「なに?つまりあの龍はあの男が起こしたと?」


シンプルだがその結果がアレなのだから驚きは大きいサカタに、妖艶に笑う彼女は「正解よ」と答える。


「おかげで私の休暇は丸潰れよ!」


と、良い夢から覚めてしまって悔しがる人のように半ば叫ぶくらいの声量で言う彼女にサカタは同情した。

しかし場所が場所なので咳払いをして彼女を正気に戻させる。


「はっ、ごめんなさい。ちょっと冷静じゃなかったわね」


「気持ちは痛いほど分かるが程々にな」


だがお互いに微妙な雰囲気となってしまい、どう話を繋げようか。

そんな茶番な状況が終わったのは龍が背負う山の一部が吹き飛び、100mはあるだろう巨大な白い魔物が姿を現した事で二人はお互いの任務に専念することとなり、先程の雰囲気は消え去った。








さて、龍に背負われた山から現れた白い人型の魔物の姿はスチームアーマーによる山登りを敢行していたバサクにも、空を飛びバサクが探す何かを探していたネイトにもそれは見えていた。

そしてその白いものが何でその形を成しているのか、それを見たのもネイトである。


「骨?」


夥しい数のかつては生物であったものの骨が、その体を成していたのだ。

そして、細い骨で作られた体の中心に銀に輝く元凶の存在が、死者を冒涜する行いと共に久方振りに日元へ姿を現す。


「ふ、ふ、ハハハハッ!驚いてる驚いてる!じゃあ次はこれしかないよねぇ!」


呆気に取られた両軍に、雰囲気で悟ったバーンは愉悦を得つつさらなる行動を取る。

コクピットの計器の間に挟まるように鎮座する黒い宝玉に触り、魔力による操作を行う。


「見よ!これが私が開発した魔法こそが、この魔道具世界を統べる力である象徴であると!」


操作を受け付けた宝玉は、龍に攻撃の指示を与えた。

目下に蒸れるようにいるスチームアーマーや人間から視線を離し、龍の首が上に向いた先はかつて友人で先輩である王が居住まうノステラス王国首都。

バサクは戦闘の中で磨かれてきた直感による指示を反射的に行い、機体をうつ伏せにし耐ショック体勢を取らせ、周囲の音を拾わせる集音機の機能をオフにする。

バサク自身も耳を塞いで口を開いた龍の喉奥から、直視できない光が漏れ出るのをモニター越しに見て、目も閉じる。

一方でネイトは龍の口から放たれる光に視界を塞がれて動きが止まっていた。


「み、見えない!?」


パイロットスーツのバイザー越しにも龍の顔の輪郭が分からないほど高い光量を、龍は向いた方向に吐き出した。

それは真っ直ぐ、真っ直ぐ突き進み地面を抉り、岩を溶かし、運の悪い生物を炭素の塊に変える。

光に飲まれたものは言うもがな、この世から存在の名残を残すこと無く消える。

そして王都に直撃を与え、間接的だが国一つが吹き飛んだ。

だが、放たれる場面を見ていたその場の王国軍にはこの攻撃で王や親しい人達が消し飛んだなど分かるはずもなかった。

勿論、気付く者も少数いたが動揺を隠せず混乱する王国軍は指揮系統にも影響していた。

一方で帝国軍は一時は王国軍と同様、混乱していたがすぐに立て直し龍の頭部への攻撃を開始する。


「全機、全火力を頭部に集中せよ!デカい分動きも緩慢だ!狙えば当たる!アレを帝国に向けてはならん!」


サカタ司令の指揮のもと、立て直していく帝国軍に王国軍も次第に立て直していた。

まあ、帝国軍と比べればかなり遅いが。




そして、龍と巨人の2体の出現にバサクはいち早く立て直し、巨人に向かう。


「おい、白いガキ!」


通信をオープンにしてフレイムに怒鳴るように呼びかけるバサクに、ネイトはまだ目眩がする視界の中なんとか返事をする。


「し、白いガキじゃない!それでなに!?」


「山から出てきた巨人を叩く!」


「龍はどうするんだ!」


「国の頭なんて知るか!」


「なっ……何も知らない人達が死んでいいっていうのか!?」


「顔も知らん人間なんぞが死んでも俺には関係ない」


「人の命だぞ!?」


「人だからだよ!」


お互い、意見が平行線でバサクは一方的に通信を切って白い巨人に単機で突っ込む。

ネイトはそちらを見ること無く龍の頭部に向かうのだった。















【機体解説】

・バルトメウ・レクトパイル

右腕に装備された電磁加速器【パイルランチャー】が特徴的なバルトメウシリーズの一つ。

後腰部に専用の懸架装置があり、二本の巨大な杭をスライドさせてパイルランチャーに装填される仕組みとなっている。

中距離戦における一撃必殺をコンセプトに開発され、近中距離戦に強い。

脚部にはロストテクノロジーであるホバーユニットが装着され、機動力を向上させている。

特化型としては大きな特殊性はないが、パイルランチャー以外は汎用的であるので汎用型と同様の運用を行っても問題はない点は優秀である。

固有武装としては、レッグパイルと胸部に収納されているビームピストル二丁が存在する。

レッグパイルは左右に一本存在し、脚部の電磁式の射出機で撃ち出される。勿論、ランチャーよりは威力は低いがスチームアーマーを撃破するには十分。

射出された杭は回収、再利用ができる。

ビームピストル【アルマゲドン】はかなり特殊で、ビーム、装填数六発の魔弾を撃つことができる。



【補足】

・戦闘中の台詞

密接すると接触回線で聞こえる時は聞こえるが、基本的にOFFなので接触回線でも聞き取りづらく、離れれば聞こえない。

通信障害系の魔法の影響下などの時にしか接触回線は使われることはほとんどない。



【後書き】

特に上手くもないですがレクトパイルのイメージ図的なものを書いたけど、カクヨムじゃ掲載無理なんだとちょっとだけ不便さを感じた今日この頃。

じゃけん、ハーメルンの方で載っけておくか…

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