第25話 ジャイアントマボーン
白い巨人、いやバーンは【ジャイアントマボーン】と呼ぶ魔物はスチームアーマーの黎明期にて多く存在した魔物であった。
今よりも雄大な自然が世界を支配し、人の生活圏が小さかった時代。
自然の中で生き、果てたものたちに紛れて人の怨念が元に生まれた魔物達は荒れた荒野や毒沼を中心として世界に跋扈していた。
原初たるスチームアーマー達の存在によってそれらは順調に駆逐されていき、以降は時折現れる魔物となった。
ジャイアントマボーンには特殊な能力がないため、その巨体とパワーで敵を殴り殺す戦い方であった。
しかし、今になって現れたジャイアントマボーンはその手に盾を持ち、その細身をしっかり守るように構えられていた。
「素晴らしい!俺の、吾輩のジャイアントマボーンは!ええい、嘘こけ!」
バーンは褒めているのか貶しているのか、意味の分からない事をしているが立ち向かってくる帝国軍、王国軍。
そして目の前に殺意の高さを示すかのように、カメラアイが強く光るレクトパイル。
明確な敵が来たとなればバーンの行動も定まる。
「ほう、来るのか!来ちゃうのか!やっちまうよぉぉ!」
そう言うのと同時にジャイアントマボーンは盾をレクトパイルに向けて構え、魔法陣を展開する。
その数は細かく数えるのが馬鹿らしくなるほどくらいには多い。
遥かな昔、それを行えるものは転生者かイレギュラーとでも言うような才能の塊だけだった。
しかし、今はジャイアントマボーンのその巨体を構築・維持する大量の魔力がある。
後は詠唱者がイメージを固定し、魔力を放って発動すれば大量の魔法陣は展開できる。
そう考えれば、バーンの行ったことはまさに異世界無双とも言えるものだろう。
が、惜しむらくはそんな才能のある彼には魔力量というものに愛されなかった事が、今のバーン・ヴェングリンを形作ってしまったという事だろう。
「【サン・スパインインフェルノ!】」
スチームアーマー一機に対して、過剰なまでの広範囲炎魔法を発動し、弾幕による圧殺を行おうとするもレクトパイルは自然の盾を利用して直撃弾を避けていく。
しかし、それだけでは密集した弾幕の中を動き回り回避するには足りない。
だからこそ、脚部に装備されているレッグパイルを地面に打ち込んで急激に右折したり左折して避けていく。
勿論、そんな激しい動きをすれば中のパイロットの負荷も半端ではない。
「ぐううっ……!!」
体への負荷に耐え忍ぶ故に口から漏れ出た唸るよう声と操縦桿を握り締め、引いたり押し倒したりと手元を忙しく動かす様がコクピットで行われていた。
「おや?避けれてしまえるようですねぇ?見ているこっちがむせそうな土煙を上げて随分と楽し……馬鹿馬鹿!アタシはとんだ間抜けよ!」
今度は水の魔法陣を展開し、レーザーのように水鉄砲が地面を抉り木々を斬り倒す。
「【ヴォルティゴ・リヴァイアサン】!!」
その水魔法を回避。
レクトパイルの装甲、ギリギリを掠めながら着実に近付いていく。
しかしそれは同時にインファイトという、致死攻撃を受ける範囲に入り込もうとしているという事でもある。
バランスを取る為にパイルランチャーの再装填をしていなかったバサクは、ようやく右腕を後腰部に回してパイルランチャーの空洞に弾である杭を差し込み、吸い取るように杭がパイルランチャーに装填される。
「あと2発……どう攻略すりゃ良いのやら…!」
知能が魔獣レベルなら多少はパターン化できるが、対人戦となると話は変わる。
人は獣と違い思考し、複雑な判断を可能とする。
故に誰が見ても狂っているバーンであろうと、考える力さえあれば奇想天外な動きでバサクを叩き潰すことは可能なのだ。
勿論、そこには才能や努力といったものも多く含まれる要素であるが。
ではバサクはどうか。
彼は才能を努力……いや、その過去故に努力というよりも経験値が今の彼を生かしている。
経験とかつては秀才と持て囃された狂人。
魔法の嵐がバサクを襲う―――
一方、帝国も王国もどちらも見捨てられないネイトはフレイムを龍の頭の上に立たせ、ファイアボルトによる零距離射撃をするも幾世紀もの厚みは容易に龍の命に手をかけれるものではなかった。
「どうする……どう止める…!考えろ!」
魔砲で駄目なら今度は物理だと、バイブレイドをサイドアーマーのウェポンラックに懸架された鞘から鈍い銀に輝く剣を、龍の頭に突き刺す。
結果は切っ先を折られ、擦り傷もできていなかったが。
「なら……なら!」
ならばと今度は生物の弱点の一つである目にフレイムを飛ばす。
スチームアーマーでも抱えて持たなければならないだろう大きさの目に、ファイアボルトを叩き込む。
流石にこれにはたまらんと龍は悲鳴をあげ、嫌がる素振りをする。
だがそれだけで大したダメージは入らない。
そしてそれを見ていた帝国はヒム・トゥオンフによる砲撃が龍の頭を狙って放たれ、ほとんどが頭部に命中する。
がしかし、今度は怯まずむしろ龍の怒りの炎に油を注いでしまったようだ。
龍が上空に魔法陣を展開し、青白い光で描かれた魔法陣から同色のビームが降り注ぐ。
「ビームが!?」
「よ、避けれない……ッ!?」
「あああぁっ――――」
王国、帝国その所属問わずビームはスチームアーマーを容易く貫き、パイロットを焼却していく。
それを見るしかできないネイトは「クソッ」と怒りを抑えきれず汚い言葉が出る。
「こんな……こんな滅茶苦茶な奴にどうやって勝てば良いんだ!?」
ダンッ、とモニターを叩いて己の無力故の怒りを抑えるが龍は自分の背に乗るフレイムやジャイアントマボーンを気にしていないようだ。
「リンクブースト……いや駄目だ!盾にしかならない……!」
こういうとき、チート能力があればどれだけ良かっただろう。
そうネイトは思った。
前世よりは娯楽が少なく、閉鎖空間の中でしか自由にできなかったが不自由と思ったり、それ自体を不満に思うことはほとんどなかった。
夢見たチート無双なんていう事はなかったが、幸せだと感じれた日々。
しかし今回ばかりはネイトは自分を転生させただろう神を恨む。
何故、皆を守る力がないのかと。
今のフレイムの力では勝てない、守れないというのに!
「これじゃあのバサクの判断が正しかったと言うもんじゃないか……!嫌だ…それは嫌だ!」
あんな醜い嫉妬をしてくる男の判断が正しかったと、それを認める事がネイトは嫌だった。
それでもと切り捨てる事を否とする事を間違いだと認めたくなかったのだ。
でなければ、自分が英雄なんていう中二病じみたものを目指す気持ちに嘘をつく事になる。
結局必要となれば無辜の民でも切り捨てる英雄、そんなのが僕の目指す英雄であるものか――その思いが彼の中を行き来していた。
そんな彼の視界の片隅に、何か光る物を見てネイトはそちらを注視する。
「な、なんだ……!?」
フレイムの映す映像だけではそれをしっかり見ることはできず、ネイトは望遠機能でその正体を掴もうとする。
そして、光の正体を知ったネイトは目を見開く。
「アンナ……!?」
ネイトに一方的に主従関係を結ばさせたあの元気娘っぽいが良くも悪くも強かなあの少女が、まるで天から遣わされた天使のように魔法を発動させようとしていた。
実は光で遮られて見えなかったが、ルナもいるのだが見えた場所が悪かったとしか言えない。
とにかく、一人でそれをやってのけているように見えるそれにネイトは様々な意味で驚いた。
巫女らしくなかったあのエルフが、今まさに巫女らしく何かをしようとしている。
ネイトは何をしようというのか、問いたい気持ちを胸に立ち上がり始めた龍を止めるために龍の目の辺りを攻撃する。
少しでも、彼女の魔法の発動への時間を稼ぐために。
さて、そんなネイトの期待を知らぬ間に背負わされていたアンナは何をしているのかというと。
「ラー・クルディマゴ・レデェツ・ディアマギア……」
普段、使われている魔法とは一風変わったものを詠唱しようとしていた。
それはかつては人間も使っていた魔法、いや【呪文】と呼ばれていた物である。
呪文の正式名称は【言霊魔法】と言われ、エルフや獣人などの亜人種の間では【精霊魔法】とも呼ばれていた代物。
呪文は魔力をほとんど使わない代わりに、3〜5の短めのワードから10個以上もある長文のワードを詠唱することで発動するという魔法である。
短ければ短いほど威力やその他の面では長文の呪文に劣るが速射性が高く、逆に長ければ長いほど威力や何かに長けるがそれ以外が劣るというものである。
しかし、呪文を多彩に操るには呪文の詠唱文を全て暗記せねばならないし、威力が高いほどワードが長くなるという難点から衰退していった魔法の一つなのだ。
では何故それを使うのか。
何故、光と闇の巫女が揃って詠唱文を読み上げているのか。
その疑問は彼女達が今から発動しようとしている呪文に答えがあった。
「エルロ・ラティーオ・パカオ……!」
二人の巫女が協力して発動できる強力な呪文の一つとして、巫女と定められたその日からその身に刻まれた呪文の記憶。
彼女達が放ったのは選択肢の中にある〈強力無比な攻撃〉ではなく、〈全ての者を守る魔法壁を張る魔法〉でもない。
光と闇の巫女が共にその詠唱を行わなければ発動することもできない、その呪文の名は――
「「【リミットブレイカー】!!」」
限界を破壊する、勇者だけの特権。
【後書き】
近況ノートでイメージ絵とか諸々投稿しました。
お目汚しな絵でしょうが、少しは想像の補完になれば幸いです。
そして、感想や作品をフォローして頂けると励みになります。良かったらお願いします。
【補足】
・魔法名に関して
個人個人のイメージしやすいものなので、安直・適当なものから凝ったものまで多種多様である。
だがイメージする魔法が強力であればあるほど求められる魔力は多くなり、魔力解放の制御も難しくなる。
どれだけ短い名にし、早くイメージできても魔力の扱いが下手糞なら発動もできないということである。
つまるところは魔法・魔砲に厳密な正式名称はないのである。
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