第15話 戦火に焼かれて


今、ネイトは宙に浮いていた。

いや飛んでいる、が正しいだろう。

マントのように炎をたなびかせるフレイムは、まさにカッコいいを地で行くような姿である。

空を飛ぶための翼は、フレイムを遥か大空にまで上がらせた。

通常稼働でも機能するこの翼は、ネイトにとって頼もしいと同時に渡された意味を考えさせられた。


「ネイト君、そろそろ降りてこないと皆が心配するよ?」


「了解。ローゼにもこの光景を見せられたら良かったなぁ」


「じゃあ今度、乗せてくださいね?」


「うん、わかった!すっごく綺麗だったからな、絶対に見せる!」


「楽しみにしてるわ」


平和な一時。

真っ直ぐなネイトと、純心だが強かなローゼ。

将来、お互いをしっかり支え合う夫婦になると、誰もが思っていた。

ネイトにとっては雲海に届きそうで届かない、だが美しい空の景色から大地の恵みを感じる地上に戻るまでは。


























赤暦0879年。

ノステラス王国とエルンデル帝国の戦争が始まった。

帝国の用意周到な奇襲によって王国は北部の領土を一気に奪われ、元々の戦力差もあって敗北は濃厚であった。

だが王国軍は奮戦し、侵攻を押し止める事に成功した。

しかし戦力差は覆し難く、休校中であった生徒達が戦場に出ることとなる。

ネイトもその中の一人の兵士として、フレイムと共に残酷で救いのない戦場に降り立つ事となった。

……が、学徒兵達が集まる本陣に緊張感がないのは戦場がすぐそばにあることを理解できていないからだろう。

夢を語る貴族や平民の兵士達、家族を養うから恋人のために等と語り合う姿はまさに子供であった。


「諸君!静粛にッ!」


そんな彼らの会話を止めたのは壇上に立った一人の青年。

パイロットであることを示すバッジと刺繍が施された軍服を着込んだ彼は、少年少女達の視線が自分に向いたことを確認してから暑苦しい声で学徒兵達を激励する。


「君達は学徒兵である!それ故にまず我々は謝罪したい!申し訳ないッ!!」


深く腰を曲げて頭を下げる彼の姿に、学徒兵達は2つの反応を見せた。

一つは嘲笑。

それらは貴族の高慢なプライドを持った傲慢な子供達。

頭を下げる姿に溜飲を下げるかのようにニヤニヤと笑っていた。

そしてもう一つは怒り。

平民や商人の子。

死ぬかもしれない、いやほとんど死にに行くような戦場に行かされたことへの怒りが静かに彼のみならず、周囲の大人たちに向けられているような気が大人達は感じた。

ネイトはどちらかというと、少人数である哀れみ。

冷静に考えられる者なら、彼らとて被害者だと言えると考えられるだろう。

まあ、そう簡単に分かるはずがないのが子供なのだが。

数秒、否、十秒近く頭を下げ続けた彼は顔を上げ、激励を続ける。


「今、前線は常に緊迫の状態!我らノステラス王国軍はなんとか敵を抑えているが、苦しいのが現状だ!しかし!周辺国からの援軍という希望はまだ潰えてはいない!諸君!希望を持ってこの戦いを生き残って欲しいッ!」


そう言って話を終えた彼は壇から降りた。

ネイトとて、現実味がなくて今いる場所が戦場であるなんてことは自覚していて、できていない。

ただ、少なくともローゼは安全な王都かどこかの田舎で自分の帰りを待っているだろうとは理解していた。

だがしかし、だがしかしだ……


「こんなことになるなんてな……」


ネイトにとってこんな展開は想像できなかった。

だから愚痴も出てしまう。

ほんの少し前はまだ学生だったのに、いつの間にかこんなところに来ている感覚であるネイトとは対称的に、サスディウスは何やら苛ついた雰囲気を漂わせていた。

そんな彼もいてネイトは彼に近付く気は起きずソッと放置して離れ、ボソッと呟いたのだ。


「ネイト殿〜!」


「ん?この声は……」


そんな時だった。

聞き覚えのある声が、昼飯を取りに列を作る兵士達の壁から聞こえたのは。

少しして、その人の壁から出てきたのは予想通りというか、コータであった。


「コータ!来てたのか!」


「自分も整備兵の不足で呼ばれましたであります!なので、今後ともよろしく……でありますかな?」


「そう言わずに普通によろしくで良いじゃないか!僕としてもよろしくしたいんだから!」


変に気を遣う必要のない友人に会えた喜びに、思わずステップしながらコータに近付いたネイト。

そんな彼にコータもまた喜びつつ、友情の握手を交わすのだった。







ー三週間後ー









戦場は静かであった。

だが、スチームアーマーによる攻撃を防ぐ塹壕の中には王国軍の兵士達が弓やボウガン等、各々の武器を手に精神を鋭く尖らせていずれ来るだろう攻撃に備えていた。

勿論、その中には学徒兵もいた。

既に数回、敵の攻撃を受けてPTSDを患った学徒兵は何人だろうか。

帝国の新型量産機【ヒム・トゥオンフ】による弾幕形成とその火力によって、塹壕ごと吹き飛ばされたり、不用意に近付いたスチームアーマーを盾ごと破壊し、相手の攻撃が終わった後を狙ってもその護衛機【シスタリア】によって並のパイロット一人では倒せない。

そもそも王国軍の誰がこの死地に総指揮官として赴くのかの内輪揉めが原因で、エースパイロットも数も足りない状況である。

度重なる侵攻で前線が押し下げられ、既に背水の陣。

王国軍の背後には大きな河とちょっとした丘と林だけで、踏み固められた道を進めばあっという間に王都に辿り着く。

ここまで押された王国軍は、暫定指揮官の第二王国騎士団副団長ピステルキン・オッコネンの愚直に防衛と命令し、攻撃のチャンスをずっと逃していた為、士気も低くなっている。

ネイトとて、この状況を打開しようとフレイムによる上空からの強襲で敵を混乱させている間に味方機が詰めるという案を出したがピステルキンは子供が口を出すなと一蹴。

結果、敗北濃厚である。


「スチームアーマーに乗っていても何もできないんじゃあ、意味がないじゃないか…!」


人同士の戦いは初めてのネイトは、自ら首を絞める戦いでかなり憔悴しており不満も溜め込んでいた。

後ろには守るべきものがあるというのに、何もできない状況が腹立たしいとネイトはフレイムのコクピットで愚痴っていた。

ピステルキンによって殴られてつけられた頬の痣がまだ地味に痛く感じている所を擦って誤魔化しながら、コータと暇潰しに駄弁るネイト。

今すぐにでも飛び出したい気持ちを必死に抑える為にも、コータとのコミュニケーションはある種のメンタルケアであった。


「まあ、学徒兵には一兵卒程度の地位しか与えられないでありますからね。どうしようもないであります」


と言うコータも、連日の攻撃によって精神を擦り減らしており、目にクマができている。

このままでは負ける、そんな雰囲気が既に兵達の中で充満しているというのに、ピステルキンはただ守りに徹せよの一言。

あのハゲかけた頭を完全に刈り取ってやろうか、そう思った者達は少なくないだろう。


「全軍に通達!」


スチームアーマー用の塹壕でアサルトマシンガン片手に休憩を取っていた矢先、通信機を通してオペレーターの声が響く。


「ガイア・ガラゴニア大騎士団長から、作戦指示を受けた!各自はこれから送る作戦指示に従って行動するように!スチームアーマー隊各機、今から送る作戦データを確認されたし!歩兵隊は別途指示する!」


不思議と、その声は歓喜に満ちているように感じられる。

学徒兵も友人、知人が死んで憂鬱としてた者達がようやく状況が変わると喜ぶ。

ネイトもようやくだ、と作戦データを開示する。


「上空からの強襲……つまり陽動って事か!コータ!大盾あるか!?」


「持ってこさせるであります!」


慌ただしくも、ようやく希望の光が見えたのであった。






















【機体解説】

〈ヒム・トゥオンフ〉

エルンデル帝国軍の量産機。基本色は焦げ茶色。

徴収した平民の物量と背部に装備されたキャノン砲によると弾幕による火力に物を言わせた戦法を得意とし、脚部をキャタピラにすることで地上での圧倒的機動力と走破力を手に入れた。

武装は肩部キャノン砲二門、弾帯型ミニガトリングガン二丁、前側面部ガトリング砲二門、後側面部ミサイルコンテナ。

二脚型のスチームアーマーを旧式と言わしめる程の戦果を上げており、前回の戦争後期から生産されたこの機体は改修前の〈トゥオンフ改〉も含めて帝国の領土拡大に大きく貢献した。

欠点としては近接戦が護身用のバイアックスのみで近接戦自体が不得意な点と、弾切れが早く、長時間の補給を受けなければならないため、継戦能力を高めるためにキャタピラの上面装甲や背中側は薄くして弾薬を詰め込んでいる点である。

他にもキャノン砲自体の寿命がコストの削減で短かったりと、様々。

頭部の望遠バイザー付きとモノアイが特徴的。



〈シスタリア〉

エルンデル帝国軍の量産機。

ヒム・トゥオンフと違い、従来の二脚型であり、こちらはヒム・トゥオンフの足りない部分を補う為の機体。

基本武装はアサルトマシンガン、バイブレイド、バックラーシールドとシンプルで、戦地や個人の好みで武装を増やしたり変えることができる。

こちらは帝国軍の正規兵が主に搭乗し、ヒム・トゥオンフ隊の指揮や接近してきた敵の対処等を主な主任務としている。

基本色は緑で、頭部は三角錐型頭部の上半分がバイザーという特異な形をしている。




【補足】

・パイロットスーツ

現実に使われる宇宙服をもっとコンパクトかつ、スリムにしたもの。

簡単に例えるなら生地がめっちゃ厚いタイツ。

スチームアーマー黎明期から存在する祈願服で、現在でも少数生産されている。

恐らく本来の使い道から外れているが、現在では着ていれば生存率が上がる等と噂される一品であり、実際助けられたものもいる模様。



・スカルア・ラスパック

スチームアーマーの飛行を可能にする推進装置。

魔力壁ことAMBR(アンバー)の操作によって、機体を浮かせ、マント状にした炎で推進力を得る仕組みである。

一応、バルトメウシリーズ以外にもこの装備は装着できるが、低空飛行のみしかできず、戦闘は不可能。バルトメウシリーズの出力故の装備である。

尚、この装備にはもう一つ機能がある。




【後書き】

この話で結構時間が飛んでますが、一々細かく書いてると進まないので許して下さい……

お願いです!何でもしますから!()


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