第21話 レクトパイルVSフレイム


ヒナマ山岳の戦闘は三週間の期間の後、再び始まろうとしていた。


「アサルトマシンガンは大丈夫だよな、コータ?」


「ええ、整備はバッチしでありますよ!」


ドラム型マガジンをアサルトマシンガンにセットするフレイム。

計器にも異常はなく、フレイムの戦闘準備は終わっていた。

他の機体、ヴェラトプしかり、アスタパイヤしかり、それぞれの機体も膝立ちの状態から立ち上がる。


「各機、戦闘準備は完了しました」


「うむ。全機、持ち場に付け!」


偵察部隊の派遣で戦力の割り振りを把握した王国軍は、右翼からの総攻撃に戦力の多くを割り当てていた。

勿論、そこにはネイトのフレイムを割り当てられている。


「いつっ……」


立ち上がった反動で蹴られて痣となった腹に痛みが走る。

一昨日、たまたま酒に酔った兵士が自制できず、陰湿な虐めから暴力的なものになった際、一人の兵士が蹴りを彼の腹に叩き込んだのだ。

顔も一発殴られ、治癒魔法で顔は多少痣が残るだけで済んだが腹はそうもいかずまだ痛みがある。

軍医曰く「魔力切れ」らしいが、疑わしいものである。


「今回の作戦は敵の主力である血濡れの杭打を叩き潰すのが目的である!各自、目標の発見と共に迅速に連絡されたし!こちらも切り札はいるからな!」


通信機から語られる作戦はまだ新米も良いところのネイトのフレイムを頼りにした、戦闘に疎いだろう民間人でも結末が予想できそうな内容であった。


「いや、ここで挫けたら努力してきた意味がない……!」


後ろ向きに考えては駄目だ、そう意識を変えて事に挑む。

そんな彼とは別にアンナは戦闘服に着替えており、弓を背負っていた。


「サポートはちゃんとしないとね……」


その目は普段の姿とは程遠い、冷徹なハンターであった。






















戦闘は右翼方面からの攻撃から始まった。

そちらの峡谷は通路の中央に大きな平地があり、合戦には持ってこいの地形であり、同時にヒム・トゥオンフとシスタリアの運用の切り替えもしやすい場所でもあった。


「シスタリア隊、後退!ヒム・トゥオンフ隊は砲撃を開始!時間を稼げ!」


サカタ司令の指揮の元、帝国側は有利に着々と進んでいた。


「同じ事は二度ある等とあるが、我々は違うだろう!?これで終わりにするのだ!」


『おおぉぉぉーー!』


前回の戦闘と変わらず戦意、士気の高い帝国軍。

そして王国側もまた負けじと果敢に帝国軍に詰め寄っていく。

旧式のヴェラトプを砲撃戦用に改装してまで、この戦に上層部は力を入れていた。

王国としては、時間をかければかけるほどまた平野方面から敵が大軍を率いて攻めてくる。

ソレに対策して戦力をそちらに割けば、放置されたヒナマ山岳からの敵が後ろから刺される事になる。

逆に帝国は押し通れば良し、通れなくとも時間を稼げれば良しという戦局的に有利なポジションである。

王国軍は負けられない故に自然と士気は上がる。


「詰め寄れ!詰め寄ればこっちのものだ!」


ベテラン兵が小隊長が率いる学徒兵で構成された四機の小隊が、シールドでヒム・トゥオンフの攻撃を防ぎながら前進し続ける。

学徒兵が何もせずただ身を固めるよりも、こうして突撃する方がマシに思えてしまうのは先の戦いが原因であると断言できる。

こうして敵が撃つ中を突撃する方が怖いはずなのに、あまり怖くないというのも彼らの精神が図太くなったいうべきなのだろうか。

耐えれてしまった、克服してしまった彼らにとってそれは喜ばれるべき事はともかく、戦場において怯えず果敢に戦える兵士はいくらいても困らないのだ。


「敵の中に潜り込めればこっちのもんよ!」


「隊長!本当にできるんですか!?」


「やらなきゃ死ぬだけだ!デイヴ!」


学徒兵の三人の中で怖がりのデイヴが思わず悲鳴を漏らすが、一人が諭す。


「相手の時間稼ぎに付き合う必要はない!突撃するだけだ!」


そう言ってベテランのアスタパイヤは弾幕の中を駆ける。


「隊長に続け!負けたら家族が死ぬかもしれないんだ!」


「うおぉぉぉぉ!」


「う、うわあぁぁぁぁっ!」


雄叫びを上げて学徒兵のアスタパイヤも走り出す。

デイヴと呼ばれた少年は恐怖心を抑えつけて操縦桿を前に倒す。

だが、ベテランの兵士と違い敵の攻撃を見切れるほど熟達している訳でもない。

いやベテランとて放たれた砲弾を避ける事は難しい。

しかし運というのは奇妙なもので、デイヴより前にいた二人の学徒兵の乗ったアスタパイヤは砲弾が直撃した。


「あ、ああぁぁぁぁ!?」


デイヴは震えた。

さっきまで生きていて、動いていたアスタパイヤが跡形もなく吹き飛んで中にいた命を消し飛ばした現実に、デイヴは過呼吸に陥る。


「チィッ!戦えんのなら下がれ!」


デイヴの隊より後ろから来た部隊の隊長がそう言うが当の本人は完全に心を挫かれていて、言葉は届いていなかった。







そんな戦場の地獄の洗礼を受けている峡谷の戦いの一幕とは別の場所では、お互い死ぬ気の戦いが行われていた。


「低空とホバーの戦いに洒落込むかぁ!」


「死ぬか死ぬか死ぬかぁぁ!?」


撃ち合いなど必要ないとばかりに、レクトパイルに持たされた片刃のバスターソードと、フレイムのバイブレイドがかち合う。

激しい火花が接地面から発生し、お互いの目をフラッシュで軽く焼かれる。

が、それがどうしたとばかりにレクトパイルはもう一度振り上げる。


「シェェアァッ!!」


「グッ…!」


振り下ろされるバスターソードをバイブレイドでガードするが、重みに耐えきれずスカルア・ラスによるバックブーストで攻撃範囲から逃れる。

受け止める相手がいなくなったバスターソードはそのまま地面に落ち地面を割る。


「振動ブレード同士のかち合いは剣の寿命を削るって習った……折れる前にあのデカブツを振り回す敵をどうやって攻略するか……!」


短いようで長い授業の記憶。

リーチと経験で負けているネイトには、先人からの知識とスチームアーマーの扱いに長ける才能で補わなければならない。

目の前のレクトパイルと違い、フレイムは飛行を可能としている。

そのアドバンテージをどうにかして活かせないかと、ネイトは必死に考えていた。

だがその間にもバイブレーション加工された刃がぶつかり合い、火花と共に剣の寿命を削っていく。


「チッ、力任せじゃ普通に捌かれるか」


ネイトがどう切り抜けるか必死に思考している中、バサクは気分の高揚によってあまり見てて気持ちの良くない笑みを浮かべていた。

だが彼が振るう剣は素早く重い攻撃しかできないことに内心、軽く苦笑するのと同時に剣の扱いを覚えられるネイトに嫉妬を抱く。

嫉妬ばかりのバサクだが、そうなるだけの境遇は受けているとだけ記しておこう。


「チッ、嫌な記憶を思い出しちまったじゃねぇか……!」


苛つきが現れているからか、元々見掛け倒しの荒い剣の振り方が更に荒くなり、機体側のアシストが刃の方向を正す前に振られてしまい、剣の腹でフレイムの頭部を掠る。


「ッ!」


あからさまな隙に集中しているネイトが逃すわけがなく、バイブレイドがレクトパイルのマントを切り裂き、装甲も軽く削る。

大したダメージを与えられなかったことにネイトは悔やみつつ、ブーストで上空へ切り抜ける。


「クソが!」


罵倒しつつ、バサクは切り裂かれたマントをバスターソードを持っていない左手でマントを脱ぎ捨てる。

遂に顕になったレクトパイルの真の姿に、ネイトは全体的な特徴に既視感を覚える。


「フレイム……違う、同型機なら似てて当たり前だッ」


バサクはイライラを解消するように強く頭をかくが、すぐにハッとなりやめる。


「……まあ良いかぁ。どのみちマントなんて柄じゃねぇ」


所詮は攻撃の挙動を格上に見切られないように手元を隠す為だけのマントである。


「マントでデッドウェイト気味だったんだ、ここからは俺も機体も本気でいかせてもらうぜ……!」


そう言いつつ、バスターソードを構え直す姿はフレイムと真逆に黒と深緑の色で構成されているがために、反転した存在のようにも見えた。

そんな存在の翠に輝くツインアイがフレイムを見据える。


「怖い……怖いな……」


長いようで短かったノス平野での三週間で、戦場に出るたびに感じていた恐怖。

そんな恐怖の中でも一番怖いと抱いたのは目の前の敵だ。

ホラー映画やそういったアトラクションでの恐怖など、比べるのがおこがましいくらいだ。

バサク、ダサく感じる名前の一つだけでも今目の前に立つ存在は恐怖が麻痺する戦場でさえ、恐ろしいと思わせる敵だと、勝てる気がしないと思わせる敵である。

だが……


「でも、負けられない。死ねないッ」


彼の背中に守るべきものがあるから。

ネイトは前世の知識で得た敗戦国の歴史を知っている。

学校で習った範囲であっても、敗戦国が酷い目に会うのは何度も教科書という紙を束ねた本で見たのだ。

だから挫けられないと、ネイトは勇気を振り絞る。


「倒す!!」


フレイムにバイブレイドを構えさせる。

どこから来ても対応できるよう、中段にバイブレイドを置き、相手の動きを待つ。

その様子に、バサクは表情を歪める。


「カウンター狙いなんざ……」


嫉妬心と憎悪を丸出しでバサクは叫ぶ。


「物語の主人公でも気取ってんのか、貴様はぁぁぁぁ!!」


激情のままに振り上げられたバスターソードは、フレイムのバイブレイドと衝突。

それと同時にリンクブーストを発動させたフレイムは、魂の雄叫びと共に白き鉄の身体を赤く照らす。


「気取ってなんかいない!俺は、皆を守れるヒーローになるだけだッ!」


「それが気取ってるんだよ!」


激しくかち合う剣は、次第にフレイムにレクトパイルは押されていく。

ギィンッ、ギィンッという音が敗北への足音のように聞こえて来たバサクは幼子のように喚く。


「ざけんな…!新米ごときが、俺をぉっ!?」


「うおぉぉぉぉ!」


フレイムの魔砲、ファイアボルトがレクトパイルの左肩に直撃し装甲が焼け爛れる。

よろけた所に、ネイトはバイブレイドを上に振り上げる。


「これで……ッ」


バサクはモニターに映し出される光景に、操縦桿を握る手に力が入る。

ミシッ、と音が微かに聞こえるがそれは関係ない。

ただ目の前の才能の男に負ける、殺されることに怒りが湧いていた。


「そうかよ……また俺に牙を剥くかよッ!」


だがその殺意の視線は目の前ではなく、どこかの何かに向けられていた。

バイブレイドの攻撃を防ぐ事もできないレクトパイルはそのまま攻撃を胴体に受ける。

しかし、ギリギリ回避に成功し傷は浅く済んだ。


「なにッ!?」


避けられたことに驚くネイトだが、そんなことは我知らずとレクトパイルは下がっていく。


「余裕かますと途端にこれかよ……ふざけんじゃねぇ」


彼のみっともない呪詛は、誰にも聞こえないコクピットの中でしばらく続くのだった。

そしてそれを見ていたネイトは、強者であったバサクを退ける事に成功したことに、集中が切れたことも会って安堵と共に半ば気絶するかのように眠るのだった。

















「ふひ、ショータァイム……」





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