第22話 醜さと狂気と命と


恐怖に立ち向かい、勇気を振り絞ったネイトと、相手の強さに嫉妬し、挙げ句冷静さを欠いたバサク。

両者に気持ちにおいての差が勝敗を分けた、というには少々都合が良すぎる話とも言えるが、事実そうなのだから仕方がない。

バサクの敗走によって、帝国軍の士気が落ちなんとか押し返せた王国軍。

だが、ネイトに与えられるのは称賛でも罵倒でもなく、ただ友人からの労いの言葉。


「お疲れ様であります、ネイト君」


「ありがとう、コータ……」


疲労困憊、まさにそれに相応しい疲れ具合にコータは彼が寝てしまう前にと起きる力を与える情報を与える。


「ネイト君、今日の夕飯はシチューでありますよ!ほら、頑張って食堂まで走るんであります!」


「シチュー……」


半ばゾンビのようなネイトに、コータは苦笑しつつもフレイムのメンテナンスを始めるのだった。











一方でバサク。

彼は帝国の貴族達から大バッシングをくらっていた。


「何故下がった!貴様があそこで下がらなければ、士気は落ちることがなかったというのに!」


「サカタ司令!やはりソイツはクビにすべきです!いや、戦果を挙げれなかったソイツなど打ち首で良い!」


荒れに荒れる帝国の貴族達。

それを素知らぬ顔でルナの髪を三つ編みにしておさげにしているバサクは満足気にルナの髪から手を放す。

ルナは「おー」と嬉しいのか良くわからない声を上げたが、どうやら気に入ったようだ。

そんなマイペースな二人に貴族達は腰に付けた剣を抜こうとする。

しかし、サカタが大声で止めた。


「やめないか!!」


それだけで貴族達の喧騒は静まり、抜きかけた剣も鞘に戻る。


「バサク、言い分があるのなら聞こうではないか。内容次第で君の処分も変わるがな」


流石にサカタとてお人好しではない。

バサクの実力への懐疑心を抱きつつ、話すよう促す。

それにバサクはサカタを少しの間見てからようやく口を開く。


「ネイト・ヴェングリン。アイツの才能は戦うたびに成長していく。早々に潰そうとしたが、近接戦に特化したあのバルトメウに挑むのは無謀だったと今は反省している」


淡々と語るバサクに、サカタもヴェングリンの言葉に動揺が帝国貴族達の間に広まる。


「ヴェングリン、だと?」


「ああ。アイツの顔はよぉく見てた。気に食わねぇテンプレなイケメンだったしな」


「あのヴェングリン家の者か……」


バサクの完全に私情を乗せた言葉は無視しつつ、サカタはヴェングリンという言葉に警戒を強めることとなった。


「良くも悪くも、あの家の者達は奇異な者が多い……なら、彼が負けるのも致し方なし、か」


サカタはそう自己完結するが、実のところはコンプレックスとトラウマが刺激されて感情的になったバサクが悪い意味で適当になってしまったのが原因なのだが、まあそれも外れではないからこそ誰かがそれを知っていても指摘することはできないだろう。

だがしかし、懸念することが一つ彼にはあった。

それを部下達の前で言うわけにはいかないので黙っていたが、それでも記憶の端にチラつく一人の初老に入ったか入ってないかくらいの男を思い出す。

アイツは大罪を犯して祖国から追放されたヴェングリン家の者だったな、と。






















場所は変わり先の戦いで荒れに荒れ、スチームアーマーの残骸が残る戦場にて。

アンナは微かに感じる地響きがする方向から逃げるように峡谷に立ち込む霧から姿を現す。


「まさか……まさかあんなのが眠ってたなんて…ッ」


アンナは息を切らして走る。

アレには自分の持つ弓矢では歯が立たない。

いや、ダメージにもならない。

アンナは本来、戦場で死にかけた際に閃光弾等で撹乱、ネイトの戦闘の補助を行うつもりだった。

しかし、ネイトがピンチになることもなく戦闘が一時中断され、相手の士気の低下で相手が撤退していった戦場で感じた微かな地響き。

気になって調べてみれば、それはとても不味いものであった。

自分に気付いているだろう、闇の巫女もそろそろ気付くのではないだろうか。


「里の人達から聞いた話じゃ、竜人族で追い出されるように出たって言うけど……竜人族なら、アレの気配も感じ取ってくれるはず……!」


アンナには確信があった。

遥か昔から、竜人族は自然との親和性が高く、強大な魔獣や魔物の存在に敏感であるという噂話がエルフ、人間、獣人など種族を問わず広まっていた。

だからこそ、彼女ならと勝手に頼っているが実際に事実なので彼女の判断は正しいと言えよう。


「ちゃんとサコヴィタ条約を守ってくれる……わよね…?」


サコヴィタ条約を結んでいる以上、守るはずだとアンナは考えたが最近の帝国へのイメージ故に疑問形となっていたが。

さて、彼女が言う条約について説明すると、発見次第、両軍共にソレへの駆除のために戦闘中だろうが休戦する条約が各国で結ばれている。

遥か昔からの条約であるが、条約は国の信用を保証するとも言って良いステータスとなる。

それが【サコヴィタ条約】と呼ばれる、王国よりも西にある島国でスチームアーマーが生まれるよりも前に結ばれた条約。

内容は至って簡単だ。



・サコヴィタ条約を結ぶことで国家として認められる。

・強大なる魔獣及び魔物の出現を確認次第、即座に戦争を中断し、排除を優先すること。

・大規模スタンピードにおいても同様である。



これがある限り、国は国としての信用と保証を保ち続けるために条約通りの対応をするだろう。

無論、破れば各国から非難、場合によっては周囲から攻め滅ぼされる事も有り得る。

だからこそ、人類の脅威となる魔獣・魔物の出現は最優先事項である。

魔獣・魔物という明確な人類の敵がいては、人同士で争っている暇はないのだから。

だが、今回の魔獣騒動は後の世からも異例と言って良い、異常な状況である事などこの時のアンナも遠くでその気配を察知したルナも、ましてや両軍の兵士達が知るわけがないだろう。


































男は力を求めた。

身の丈に合わぬ世界の支配を、邪な考えを持ってしまった。

バーン・ヴェングリンという男は、魔法に夢を見ていた。

彼にとってスチームアーマーとは魔法という要素の邪魔でしかなかった。

バーンは純粋たる魔法にこそロマンがあると考えていたのだ。

だからか、スチームアーマー乗りとして評価が高くとも彼は魔法学にのめり込んだ。

魔法こそ至高、魔法に機械的要素は不必要でスチームアーマーなくともスチームアーマー並の魔法を人の身で扱う事に意味があるのだと信じて疑わなかった。

だがそんな思想を除けば彼は人格者であり、良き友人であった。

そんな彼を狂わしたのは実家の隠された倉庫に眠っていたバルトメウ・フレイムで近隣の街に被害を出していた魔獣を討伐する時の事だった。

それはたまたまか、それとも条件が揃ったのか。

フレイムは赤き炎から蒼き炎にその姿を変えたのだ。

ほんの少しの間だけとはいえ、その時の彼の衝撃とは一体どんなものだったのだろう。

それを知るのはバーン本人にしか分からないだろうが、少なくとも確かに言えるのはフレイムにはまだ隠された力があり、バーンはソレに何かを見出したということ。


「クククッ……私の研究の成果、お披露目だぁ…!」


その手に握る水晶体……いや黒い塊は一定間隔で震える。

まるで心臓のように。

だがそれとは別にバーンがいる洞窟の出入り口から見える何かの頭部が、濃霧を切り分けていた。


「オレはぁ!私の夢を果たすぞぉッ!!」


バーンの汚らしい雄叫びに呼応するように、その頭も数十世紀の時を経て永き眠りから覚醒した龍が雄叫びを上げる。


「GUUOOOOOOOOOO!!!!!」


人の争いに使われる自然より生み出された生命、それは果たして人に仇なすものであっても、個人の自由にして良いものだろうか。

その答えは、人が過ちを繰り返して学び知るしかないのだ。

命の重さと、自然の強大さを。

そして人の秘められた力を。












【後書き】

なんか五月病なのか分からないけどしっかりキャラを描けているのか不安を抱える日々。

もうちょっとキャラの絡みやらないと駄目ですかね……?

まあ聞いたところで殆どの人は見ないし無反応だから無意味だけど。

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