第7話 トゥリスマク


お互いの自己紹介を終えたところで、ネイトは本を返そうと手を動かす。

が、その前に汚れてないかと表示と裏表紙をはたきながらタイトルを見ると、【スチームアーマーの歴史】と書かれていた。

その隣には4、という数字が入っていた。


「こっ、これ!どこで見つけたんだい!?僕、3巻目までしかもってないから……!」


ネイトの趣味の一つである読書。

暇を持て余しすぎてスチームアーマーに関係あろうがなかろうが論文までも読んでしまっているネイトとしては、好物であるスチームアーマーに関するものは喉から手が出るほど欲しい物である。

父アグラの書斎にはスチームアーマー関連の本はなかったが、当時の現場監督もとい仲良くしていた隊長から入学祝いに自宅に保管していた本をプレゼントしてくれたのである。

まあ、下心ありつつのプレゼントな訳だがネイトは純粋に喜んだ。

今でもその本は3巻分、寮の自室に置いてあるが続編である4巻が欲しいと思っていた所である。

さて、コータはそんなネイトの反応に不敵な笑みを浮かべる。


「おや?君も同志でありますか?」


同志、その意味は目の前にある本が遠回しに意味を表している。

ネイトはコータに本を手渡し、そしてその手を握る。


「我が友よ!」


突飛な事に驚くコータだが、すぐにそのノリに乗る。


「フッ……今日から自分達は友であります!」


この日、ようやくネイトは友人を手に入れた。




「あ、トゥリスマクのプレゼント……」




















トゥリスマクは大人が子供にプレゼントを上げる日である。

だが、それとは別に親しい者同士でプレゼントを送り合う日でもある。

そんなわけでローゼへのプレゼントを考えたいたのだが……


「どうしよう……女の子にプレゼントなんて経験ないぞ……」


メカオタクたる同志、コータと別れて数分後。

肌寒い風が吹く中、まだ太陽は頭上に上がっている。

前世から女子にプレゼントを上げる、貰うなんて事は一切ない。

まあ、大体の男子はそうだろ?と言われてしまえばそうなのだが。

そういうことだから、ネイトは何がいいかと悩んでいた。

女子が好きそうなもの……そこでネイトの思考は止まり、「分からない」で埋め尽くされる。


「うーん、どうしよう……」


王都は広い。

だから、商店街を歩き回っていれば何か良いものがあるのではと優秀な頭を使って平凡な答えを出して探していたのだが……


「あ」


路地裏に、ヒッソリと佇む魔法具店にネイトは直感を信じて入店した。



その店は良く言って神秘的、悪く言って趣味の悪い物ばかりが並ぶまさに魔法具屋と言える店だった。

別個体だろうがかつて殴り殺したのある、大猿の心臓があったり、ルビーの付いた腕輪があったり。

果てには魔獣の糞を詰めた瓶や、なにか飲むとヤバそうなエグい色をした薬品なんかもある。

だが、普通に市販でも売っていそうな物がある辺りプレゼントに良さそうな品があると思っていた。


「あら、こんな店に来るなんて珍しい」


少しハスキーだが、女性だと解る声にネイトは聞こえた方に振り返る。


「貴女が店長ですか?」


「ええ、そうよ。それにしても、私がブラックマンなのに驚かないの?」


そう、店長は前世で言う黒人である。

この世界ではブラックマンと呼び、男性はパワーに溢れ、女性は魔法の扱いが上手いことで有名である。

本来は南の砂漠やジャングル等の地域に住んでいる彼等だが……まあ、白人が多いファンタジーな異世界ではかなり異物感が凄まじい。

ネイトも初めて知った時は驚いたものである。

だが、同時にこの不気味な店なのも納得である。

ブラックマンの女性達は魔法を得意とするが、同時に魔法や物事に関する感性も違い……まあそういうことである。


「今日はトゥリスマク……つまりは、プレゼントの品を探しに来たのね……」


ウチはあんまりそういうの扱ってないけど、と呟きながら店の奥に行き、そしてカウンターに出してきたのはハンカチである。

一見、少し可愛く装飾されただけのハンカチ。

だが薄く魔力を感じる。

商品の詳細を店長はビジネススマイルで紹介し始める。


「私達ブラックマンに伝わるおまじないを込めたハンカチよ。安全祈願のおまじないだから、プレゼントには良いんじゃないかしら?」


「……お値段は?」


「千ゴラルよ」


「……買った!」


「毎度あり」


少々安直だろうが、しかしこれ以上何か良いものが浮かぶ気がせず、ネイトは店長に勧められたハンカチを買うのだった。

ちなみに時折この店に通うことになるのは別の話。



























そうして当日に何とかプレゼントを間に合わせたネイトは、そのハンカチをローゼにプレゼントした。


「その、もっと他に良いものがあったとは思うんだけど、僕にはこれくらいしか思い付かなかったから……」


そう言って渡していた場所は男子寮と女子寮の共有スペースである庭園。

休日の憩いの場になっている場所だが、そういうイベントにもよく使われる場所でもある。

ちなみに、女子寮と男子寮はしっかり区切られ、警備兵が深夜に歩き回るので警備体制は抜群である。

それはさておき、ローゼの反応とは言うと……


「ありがとうございます!嬉しい……!」


大喜びの彼女に、ネイトは良かったと安堵したのだった。


「では、私からも……」


そう言ってローゼは包装に包まれた重く、しかし両手で持てるサイズの箱型のプレゼント。

ネイトはローゼに確認を取り、包装を破り、開けた。


「これは……!」


その中にはスチームアーマーの本から、気になっていた小説の続きの本があった。

その日は大喜びでその本達を読破し、無事初の遅刻をやらかしかける事となった。















































「今日から臨時講師としてお前達を指導する、バサクだ。貴族だろうが庶民だろうがついてこれねぇ奴は減点だ」


トゥリスマク明け、学園のスチームアーマーの実習で臨時講師と言う目付きも態度も性格も悪そうな男が学園にやって来た。

バサクと言う男を本当に臨時とはいえ講師として見るにはとてもではないが、無理な男である。









【補足】

・ゴラル

この世界の通貨の単位。

石貨で1、銅貨で10、穴の空いた銅貨で100、穴の空いた銀貨で500、銀貨で1000、穴の空いた金貨で5000、金貨で1万の単位を現している。

白金貨も存在するが、こちらは1億を表すので基本的に大貴族でもあまり触れられない貨幣である。

色々と物価は変動するのでネイトは日本円感覚で使っているが、あながち外れでもない感覚。


・魔法具

魔法に関する物を扱う店を魔法具店等と言うが、魔法具単体であれば魔法の力を込めた一個体としての道具である。

スチームアーマーも属するが、属さないという曖昧な立ち位置。理由としてはスチームアーマーに利用されているパーツには魔法具が組み込まれている事もあり、魔法具が否かで論争が行われている。

錬金術や刻印魔法で特定の効果を発揮する魔法具を作る。



【後書き】

ようやく出せた………ようやくだ……( ´ー`)フゥー...

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