第28話 狼少女リリア



「私の名、リリア。杭打ち、探して、旅してた」


国境にある街【ギルボ】の傭兵ギルドの酒場にて、3人は夕食のシチューを待つ間、リリアと名乗る狼少女。

ネイトはその美貌に見惚れつつ、改めてその姿を見る。

雪の精霊だと言われても信じてしまうくらいの肌と髪の白さ、ピクピクと時折動く獣耳。

恐らく念入りに手入れしているのだろう、ツヤツヤで触り心地の良さそうな白銀の尻尾。

どれをとっても美しいとしか形容しがたい容姿に、改めてネイトは感嘆する。


「これが美少女……すげぇ……」


そんな彼の発言を気に入らなかったのか、アンナはネイトの足の爪先を強く踏む。

痛みに悶えるネイトを脇に、アンナはリリアに先の質問の意味を問う。


「それで、杭打ちというとバサクの事かしら?」


単刀直入にバッサリと本題に切り込む彼女に、ネイトはあたふたと慌てながら姿勢を正す。

色々することが遅いネイトを外野に、リリアはそれに答えを返す。


「うん。バサク、用、ある」


野生味の強いガルルル……とうめく彼女は確かにバサクにただならぬ感情を持っているようである。

そんな彼女にネイトは一つの単語が頭に思い浮かぶ。


「もしかして復讐…!?」


そう言う彼に、リリアは一転して複雑そうに首肯する。

何か訳ありなのだろうが、話さないということは話したくないという事。

アンナはそれを聞くことはなかったがネイトはそうはいかなかった。

ボッチを少しばかり拗れさせた彼は距離感というものがちょっとばかし測るのが苦手になっていた。

まあ男だから空気を読めない、などと言われてしまえばネイトの場合は少し当てはまるので否定できない。


「アンタ、には、関係、なし」


「あっ、うん、そうだけどさ……」


落ち込むネイトにアンナは耳打ちして彼を叱る。


「ねぇ、そんなに私を虐めたいの?ねぇ!?」


「はい、大変申し訳ありませんでした…」


二度、落ち込む彼だが完全に彼の落ち度である。

アンナはアンナでこの駄目勇者に若干呆れつつあった。

とはいえ、第三者から見れば完全にお姉さんをしていて(実際年齢的にもそうなのだが)似合いの姉弟とも言えた。


「まあとりあえず、今回はコイツの奢りで無事に依頼を終えたことを祝いましょ!」


丁度、運ばれてきた酒と夕飯にアンナは満面の笑顔で言い放つ。

ネイトはうげぇ、と奢らされる事になり涙目であるが。


「ぬ、乾杯」


「カンパーイ!」


「かんぱい……」


三者三様ながら、3人は飲み会を始めるのだった。








































翌日、スチームアーマーの専用格納庫の一角、【第三格納庫】にて二日酔いを引き起こしたアンナと寝違えて首が痛いネイトが、軽くなった財布を懐にスス汚れた【フレイム】と市場で安売りされていた旧式が進んだ【ドラドーラ】の装甲をブラシで強めに磨いていた。

ドラドーラはアースラン国の旧式量産機で上半身にドラム缶を着ている様な姿であり、本来は背部に装着されているサブアームを円筒状の肩に取り付けることで武装ラックだけではなく機械の手とも言えるマニピュレータを増やせる利点を備えたスチームアーマーである。

デメリットとして図体がデカイ割に装甲が硬い訳ではなく、パイロットに求められる技量も高くその上で癖のある機体なので現場からは不評であり、一部のエースしか使わない機体となっていた。

結果的に上位量産機という、地位になったが現在では予備パーツも生産されない中古である。


「うぷっ……ちょっと飲み過ぎたわね…」


「飲み過ぎたも何も無理矢理飲まされた僕の身も案じてくれよ」


ネイトの前世からの観点から酒ではなくジュースを頼んでいたネイトだったのだが、酔ったアンナに飲まされネイトも酔ってしまった為、帰り道は二人共お互いを支えて千鳥足で宿に戻り、そのままもみくちゃのままベットの上で眠りこけた為、首を寝違えたネイトは恨めしそうに呟く。

そんな彼をコータは叱咤する。


「はいそこ!喋ってる暇あるならとっとと汚れを落とすのであります!」


「うひー…」


「いつっ……ちくしょー」


一応、中世くらいの異世界らしく現代日本では酒は二十歳なのがこちらでは十六歳からである。

この世界の法律的には問題ないとはいえ、それでもネイトは飲酒は二十歳まで控えようとしていたがどうやらアンナと付き合う内はどうにもならないようだ。

まあ、そんなことは関係ないとコータは二機のスチームアーマーを倉庫で一人整備し、アンナとネイトに放り出された資金のやりくりに対する鬱憤を晴らすかのように仕切る。


「怠けたら飯は抜くであります!」


「「へい!頑張ります!」」


完全に二人のオカンになっているコータ。

飯抜きでは腹が空いて動けんと寝ぼけた眼を見開いて掃除し始める二人は、必死こいて自分の機体の掃除を行うのだった。


















「………変な、人達」


それを遠目に見ているリリアはそう感想を呟いて、握り飯を頬張るのだった。



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【草案】魔動駆人スチームアーマーズ  モノアイの駄戦士 @monoai

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