第29話 宮前はこうして

このことを話すのは多分、僕自身について話すよりもためらいを生じてしまう。

けれどここまで来たのだから全部語っておこう。

彼女が自分の口から発した過去の物語を。

そう、これは過去の話。


 ――「約五年前、私は小学生だった。特に何かを知っているわけでもなく、得意なものなんてものも無かった頃。

私はこんな性格だから友達とも自然と疎遠になっていた。

そんなときに私に話しかけてきてくれた子がいたの。

彼女は小学生なのに大人びていて、頭もよくってすごくいい子だったの。

そんな彼女に最初、素直になれなくて少し、邪険に扱ってたの。

でもその子はそんな私に対して悪態をついたり、対抗しようとするんじゃなくて話を聞いてくれた。

いつの間にか彼女と触れ合うたびに仲良くなって打ち解けていった。

それから彼女と何処に行くのにも一緒だった。

いろんな話をしたし、いろんなところにも出かけた。

それが続けばいいと思ってたし、彼女もそう言っていたわ。

でもそれは続かなかったんだ。

あの日、私と彼女は海に遊びに出かけ、もちろん保護者もいて、彼女の両親が一緒に来ていた。

楽しい思い出になるはずだったのにあんなことになるとは思わなかった。

私と彼女は一緒になって泳いだ。

その頃の私は泳ぎが得意じゃなかったんだけどそれに比べて彼女は泳ぎがとても上手かった。

でも何の偶然か、彼女は溺れた。

私の目の前で……。

私は彼女を助けようと必死に泳いだ。

彼女の腕をつかむと彼女は暴れ、私の手を強く握りもがいた。

私は苦し紛れで必死に砂浜のほうに叫んだ。

異変に気がついた彼女のお父さんがこちらに向かってくるのが見えた。

それから私と彼女は助け出され……。

もう言わなくてもわかるでしょ。

彼女がどうなったのか。

あの時、私は激しく自分を責めた。

そうしなければ自分を許せなかった。

何もできずにただ震えていた自分を……。

私は彼女を助けることができなかったことは真実。

もしあの時、自分に彼女を助ける力があればって思った。

だから誰を助けられるようにって探偵じみた人助けをしてる。

それが馬鹿な行為とわかってる。

でも……。

あのときみたいに私は…。

私はただ無力に泣きたくない」


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