第22話 チェンジ
金色の瞳がこちらを捉える。
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」
男は突然、笑いだし空を仰ぐ形で大きく両腕を広げた。
笑い声は不気味に当たりに響き、そして何かの咆哮にも聞こえた。
『何がしたいんだ、アイツは?』
「わからない。でも迂闊に近づいたら危険な気がする」
そう僕と天野が話している間だった。
男は急に上を向いていた顔をこちらに向ける。
僕が男の状態を捉えた次の瞬間には体が中に浮いていた。
「――――!」
胸部に重い衝撃が感じられた次には背中に衝撃、痛みが走った。
「ぐわっ!」
思わず声を上げてしまったがすぐに、何が起こったのかを必死で理解しようと確認する。
僕が立っていたところに男が立っていた。
どうやら僕は吹き飛ばされたらしく、男は僕に向かってタックルを食らわしてきたことがわかった。
しかし、それだけで終わらなかった。
男はいきなりジャンプをし、ゆうに三メートルは超えたであろう高さまで飛んだ。
「なっ!?」
そしてこちらへと飛んできた。
急いで地面を転がりながら移動し男が跳んでくるのをよけた。
ズドンという明らかに何か重量物、降ってきてはいけない物が落ちる音がした。
僕は急いで立ち上がり、その方向に顔を向け、見ると僕が飛ばされたところに男が大股を開いて立っていた。
『何やってんだよ。相棒』
「わ、わかってるよ。あの男、僕を踏みつけようとしていたのか?」
男はゆっくりと、緩慢な動きで僕の方へとむく。
「肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉」
まだ口元でつぶやき、口からはあぶくのような唾液が出ていた。
「ガァアアァアァアァアァ!」
男は獣じみた表情で僕に向かって吼えた。
すると男の皮膚の色が黄色に段々と変わり、腕のところが腐食したように爛れていった。
ボサボサの髪にかかった額からは先端が尖った角が左右両側から生えてきた。
顔は鬼のような表情になり、歯がありえないほどの長さになっていた。
そして体の大きさが変わり、横だけでなく縦も変わり、背丈は二メートルほど、体重は百キロ以上はあるとわかるほどになっていた。
『やっと本性を出したな』
「みたいだ……。これはまずいんじゃないのか」
男は完全に体をこちらに向け、仁王立ちになっていた。
彼は完全に人間の形を失い、餓鬼憑きから、完璧な餓鬼の姿になった。
もう人間ではなく本物の怪異、妖怪。
ふとあせる頭を冷静にさせ、あたりを見渡す。
葉恋橋の街側のところにこちらをうかがうように宮前が立っていたのを確認する。
無事を確認し、男に向き直る。
餓鬼は一歩一歩、こちらに向かい歩いてくる。
『相棒、どうする?』
「やるしかない」
僕は決意を固め、羽織っていた学生服のブレザーを脱いだ。
脱ぐときに腕のところが噛まれたせいでボロボロになり、その上地面を転げまわったから汚くなっていた。
このとき、親に怒られるなと思った。けど本当にこの予想が当たるなんて思いもしなかったが。
僕はネクタイを緩め、第一ボタンをはずし、ワイシャツの袖をまくった。
「春って意外と寒いんだな」
僕は少し震えた声で言った。
『終わったらあのお嬢チャンに暖めてもらえよ』
天野はふざけるように言った。
「それは悪くないかもしれない」
僕もふざけて言った。
餓鬼との距離は約十メートルと近くなった。
あと数歩で僕をつかめる距離だ。
一度、空を見る。
薄い雲に隠れた月が顔を出し、空にぼんやりとした明かりが広がっていた。
もう一度顔を餓鬼の方に向ける。
僕はおもいっきり腰を落とすように膝をまげ、上半身をかがめる。
そして餓鬼を睨むようにする。
息を大きく吸い込み、肺にたまった空気をすべて吐き出すように叫んだ。
「うあぁああああああああああああああああああああああああああああ!」
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