第30話 選択

―――宮前は口をつむぐと涙を浮かべていた。

その場にいた誰もが口を開こうとせず、沈黙が流れた。

その沈黙を切り裂くように船穂は口を開いた。

「それが 君のきっかけの一つなんだね。話してくれてありがとう」

船穂はポツリと言った。

宮前は反応することなく、口をつむいでいるだけ。

「宮前……」

僕は彼女にかける言葉が見当たらずその名前を呼ぶくらいしかできなかった。

「宮前さん。怪異や一部の妖怪は人の心に反応して現れるんだ。特に負の感情に対してね。それらを祓ったり、退ける場合には取り憑いたり、関係した人の負の感情になる根本から知らなくてはならないんだ」

船穂は淡々といい、続けた。

「ただ今回の場合は少し違う。順序が逆といってもいい。宮前さん。君のその過去の経験とヤクが川に落ちたのが被ったんだろう? だからヤクを助けに川に飛び込んだ。違うかい?」

船穂はただ無常にも言い続ける。

「それがトリガーとなって君のなかの怪異、妖怪の血が騒いだんだろう。そうとしか考えられないからね」

「……」

宮前は船穂が言っていることに対し、反応せずただ黙り、涙を流していた。

「僕の場合、君の過去の事に対して何も言うつもりもなければ僕はただ宮前さんの選択を聞かせて欲しい」

船穂は宮前の肩に手を置くといった。

「選択……?」

今まで顔を伏せていた宮前が顔を上げ船穂に聞き返した。

「そう。選択」

そういって船穂は笑った。


―――船穂が言う選択はこれから怪異とどう付き合っていくかだった。

そして宮前がした選択はこういうものだった。

宮前は人魚を抑えつつ、人間として生きていくというものだった。

水を被れば完全に人魚になってしまう体を自らが制御して操るという意味だった。

それを聞いたときは普通の人と感覚が少し違うんだなと思った。

そりゃあ、あんなへんてこな物は実際、気味悪いものでしかないからなとつくづく思う。

まぁ、それはそれとしてその日、彼女はそういう選択をした。

そして船穂からは提案が出され、内なる怪異の封印をし、バランスを取るために協力するということだった。

話を終え、結果はそんなこんなで迎えた。

終わったのにも関わらずただ宮前は浮かない顔をしていたのは印象に憶えているし、それから僕と宮前は一切、話をしなかった。

 まぁ、こんなざっとした感じで全てが終わった。

何も残らないまま、ただ不毛なままだった。

本当にわるいんだけれども僕が話せるのはここまでで、このあと彼女が船穂とどういうやり取りをしたのか知らないんだ。

宮前がこの後、何を考えて何をしたのかわからない。

だから僕には何も言えない。

本当に申し訳ないけれど、僕はこの後、どうなったのか話すことはできないんだ。

ただここまで話を聞いてくれてありがとう。

ちなみに話したことは全て事実なんだ。

嘘に聞こえるって? 

でも僕は基本、正直者だから安心してくれ。

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