第16話 質問

「いいですけど?」

宮前は警戒を解いていない表情で言った。

「それは助かるよ。じゃあ、まず最初の質問だ。いきなりだけど君の『宮前』という苗字はご両親、どちらの姓かな?」

「それは関係あるんですか?」

「さぁ、どうだろう。関係ないかもしれないし関係あるかもね」

船穂はおどけたように言った。しかし、宮前は表情が硬く何か言いたそうな顔をしていたが一度、口を真一文字に結び、もう一度、口を開いた。

「母の方の姓です」

宮前は不服そうな顔をして答えた。

「では次の質問だ。君の父の性は?」

「それって答えなきゃいけないんですか?」

我慢の限界に達したのか、宮前は声に少し怒気が混じっていた。

「立ち入ったことを聞いた僕が悪かった。答えたくなければ答えなくてもいい。そうした場合は別の質問に移るから」

船穂は悪びれた様子もなくしれっと言った。

「…………」

「どうやらその無言が答えたくないの合図みたいだね。まぁ、いいよ。次の質問に移るとしよう」

船穂は微笑を浮かべ、宮前に向き直る。

「では次の質問だ。君は中学生の時、何の部活をしていた?」

「水泳部です」

「泳ぎは速いほうだった?」

「どちらかといわれれば速かったほうです」

「大会で優勝したことは?」

「忘れました」

「好きなこと、もしくは物は?」

「歌を歌うことです」

「よく聞く曲は?」

「答えたくありません」

宮前は質問中、何度かちらちらと僕の顔を見てきて僕が宮前をまっすぐ見ようとするとすぐに顔を背ける。

「あのお嬢ちゃん、なんだか分けありって感じだな」

僕が宮前と船穂の会話を見ていると天野が言った。

「どうしてそう思うんだ?」

「彼女のあれは外面だ。中身は違う。まったく別物だ」

「確かに僕もうすうすそう思っていたよ。なんだか強がっているというか」

「そういうことじゃない」

天野は僕の意見を否定し、にやりと笑った。

「これは面白いことになるかもしれないな」

僕はこのとき天野が言ったことの意味がわからなかった。

わけがわからないと思いつつ天野から宮前たちに視線を戻した。

天野が言ったこと、船穂が何故

「君は恋をしているかい、もしくは好きな人はいるかい?」

「…………。好きな人はいません」

「過去に後悔していることはある?」

「…あります」

「それはどんなこと?」

船穂がその質問をしたとき、宮前の表情が一瞬で変わった。

なんだか、一番痛い所の手前の部分に触った感じ。

「…………。本当にこの質問は意味あるの?」

宮前は納得しない顔で言った。

僕は完全にでるタイミングを失い宮前と船穂だけの会話になる。

「あるさ。さっきのヤクが言っていた男を呼び出せる方法を見つけることができるかもしれないからね」

「でもだからって何で私のプライベートのことを話さなくちゃならないの? 関係ないでしょ、私のことは!」

宮前は公園内、あたりに響くくらいの大声で言った。

眉間に皴を寄せ、明らかに怒りの表情。

それに対し、船穂は飄飄とした態度で表情を変えずにいた。

「さっきも言ったろう。答えたくなければ答えなくていいと。君は何をそんなに怯えているんだい?」

船穂は宮前を挑発するように意地悪くいった。

「私の何処が怯えてるのよ!」

「僕の質問にだ。君は何か後悔している。いや、後悔というよりも自責を感じているね。自分のせいで何かをできなかったそういう顔をしているよ。だから人に聞かれるのが怖い。それを知られたら今の自分が自分でなくなってしまうからだろう? それが君の一番恐れていることだから、質問されるのが怖いんだろう?」

「そ、そんなこと……。私には」

宮前は言葉を失い、黙った。目を閉じ何かに怯えたように震えていた。

「ヤク!」

船穂は黙って見ていた僕の名前を呼び、振り向いた。

「まぁ、こんなところで論議をしていても時間の無駄だろう。君はどう考える?」

「い、いや、もし男…、餓鬼がまだ宮前を狙っているなら、男を止めたいんだが…。どういう風に男を捜せばいいのかわからない」

「それなら大丈夫だよ」

「なんで?」

船穂は宮前を見ると不適に微笑をうかべた。

「彼女がいるからね」

このとき僕は船穂がなんで宮前がいるといったのかは理解できなかったが彼女に提案、考えがあると思い、気に留めなかった。

「もちろんヤク、君にも協力してもらう必要もある。それに天野にもね」

隣の天野は心底、嫌そうな表情をしていた。まぁ、僕の顔なんだけれど。

「質問に答えてくれてありがとう。宮前此方さん。これですべてわかったよ」

船穂は不敵な微笑を二倍にしたような怪しい笑顔を浮かべ、そのまま黙りこんだ。

「大丈夫か? 宮前」

僕は宮前に声をかけた。

「……。べ、別になんともないわよ…」

「でも…」

「大丈夫って言ってるでしょ! 私は大丈夫…、もう大丈夫」

「わ、わかったよ」

「とにかく彼女にあの男をさそい出す為の方法聞くのが一番でしょ。私は大丈夫だから船穂さんに聞いて」

宮前はどうしようもないくらい青ざめた顔で言っていた。そして彼女は下唇を噛み、黙ってしまった。

彼女が何でこんな表情をするのか、頭の足りない僕は想像がつかなかった。

隣の天野はさっきから、ニタニタと何かに気がついたかのように笑っていた。

僕はどうしたらいいのかわからず、黙るしかなかった。

本当に情けないったらありゃしないよね。

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