第17話 策と依頼料

僕はすぐに気持ちを切り替えて船穂に聞いてみた。

「船穂。男を、餓鬼を誘い出す方法ってどうやってやるんだ?」

船穂は僕の声に反応し、顔を上げる。

「餓鬼に憑かれた男を誘い出す方法を伝える前に君に言い忘れたことがある」

「言い忘れたこと?」

「ああ。君はこの間の事件のとき僕に協力してくれと頼んだことは憶えているよね」

「………………あぁ、それがどうしたんだ?」

「それがどうしたじゃないよ。君はそのときの代償、依頼領を払っていない」

「でもあのときは何も言わなかったじゃないか! 今、そんなこと言われてもどうしようもできないよ。どうしろっていうんだ?」

「そうだね……。じゃあ…………。ヤク、ここまで来てくれないか」

船穂は僕を手招きし、ベンチから立ち上がった。

僕は何の疑問も抱かずに船穂が指示するところまで近づいた。

「この辺で止まってくれ。そう大体このあたりだ」

「ここか?」

「ああ、ここだ」

僕は止まる。

「おい、船穂なんだか距離が近くないか?」

「気のせいだよ。君は一歩も動いちゃダメだ。いいかい」

メイド服の船穂は笑いなが両手を伸ばし、両側頭部をガシッと音がしそうな勢いで掴む。

そして彼女は僕に顔を近づけ自分の唇を僕の唇に当てた。

いわゆるキス。日本語でいうなら接吻。

僕はこのときの心境を吐露すると一瞬、何が起こったのかよくわからないでいた。

「…………………っん」

「んー、んー、んー!」

僕は抗議の声を上げていたが船穂の両側頭部を掴む力は強く、簡単には引き剥がせない。

後に天野に聞いたことだが宮前は目を見開き、言葉を失っていたそうだ。

周りの見えない状況の僕が憶えているのは口の中でなにか生き物みたいにニュルニュルと生温かい舌が動き回っている感触。

数秒後、船穂は僕の唇から自分の唇を離し、唇についた唾液を右の指で拭う。 

「ぷはっ、あ…………」

「んっ…………。これで依頼領をもらったよ。どうだい、大人のキスは?」

船穂はクスクスと笑いながら言った。

このときの僕はまるで動かない人形のように、宮前に見えていたことだろう。

「ちょ、ちょと! アンタ達、何してんの!」

宮前はさっきまで黙っていたのに突然、声を上げていた。

そりゃ、目の前でそんなことされたらビックリするよ。

「何って、キスだよ」

別にそんなことなんとも思っていませんオーラを出しながら船穂はしれっと答えた。

「そんなの見ればわかるわよ!」

「なら聞かなくていいんじゃないかな?」

「私が聞きたいのはそんなことじゃなくて!」

宮前は顔を真っ赤にしながら怒鳴った。

「二人とも落ち着こうよ」

僕は二人を止めに入る。

「何でアンタはそんなに落ち着いてんのよ!」

「いや、それは……」

「まぁ、いいじゃないか。そんなことより君らはすることがあるんだろう?」

船穂は嬉しそうに笑みを浮かべ、言った。

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