第15話 専門

大体、五分ほどで説明は済み、船穂は驚く様子もなくため息をついた。

「でその男が一体、何なのか知りたいと……。唐突すぎてあの詐欺師も困るのが納得できるね」

「どうして?」

「情報量が少ないってことだよ。たとえば探偵に証拠が一つしかないのに事件を解決しろって言っているのと同じことだよ。まったく無茶振りもいいところだよ」

「そうか?」

思わず僕は宮前に聞いたのだが、宮前はつまらなそうに頷いた。

隣で天野が笑い転げていた。

「とにかくキミの言っていることはわかった。これはあくまで推測で確定した答えじゃないけれど男の正体の予測はついた」

「本当か?」

「あぁ。多分、男の正体は餓鬼だ――」

船穂は不敵な微笑を浮かべながら言った。

「ガキ?」

「そう餓鬼だ」

宮前と僕は顔を見合わせた。

「正確には餓鬼憑きだよ」

餓鬼憑きがきつき? 聞いたことが無い」

「今から説明するから待ってくれ」

本当にせっかちな奴だな、キミはと船穂はぼやいた。

「餓鬼という言葉は一度、聞いたことがあるだろう? 

子どもを蔑んだり、馬鹿にしたりするときに使うと思うんだけれど元は仏教上の言葉で、本来は死者を指す意味で使われていた。

仏教ではいろんな種類の餓鬼の名前があるけれどそれは面倒だし、関係ないから省こう。

民間信仰では餓鬼は餓えや行き倒れで死んだ人の亡霊を指す。

そしてその亡霊が人に取り憑いたことを餓鬼憑きという。

餓鬼憑きは山道を歩いているときに出会いやすいとされているんだ。

憑かれるとそこから身動きができなくて先へと進むことができないといわれている。地方にも餓鬼憑きの話があって対処法も舞台となる場所によって様々なんだ」

「意味はわかったけれど気になることが一つあるんだ。僕と宮前がその男に遭遇したとき怪異や妖怪、超常現象のたぐいの現象みたいなことは起きていなかった。もしその男が――」

「だからキミはせっかちな奴だと言ったんだ。いいかい。キミは彼女、宮前さんを最初に見かけたとき、彼女の後ろに何を見たんだい?」

「宮前を見たときに後ろには……、黒い違和感……、黒い影のようなものを見た」

「それが餓鬼憑きの目に見える現象だと僕は考えるよ。まぁ、あくまで可能性にしかすぎないけれどね」

船穂は息を短く吐き、宮前を見る。

「それと宮前さんに質問があるんだけどいいかな?」

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