第38話 語るには


「えーと、どこから話そうかな……」

僕が口を開くと、宮前はこちらを向くがすぐに視線をまえに向けた。

「別に嫌なら話す必要はないよ……」

宮前はただ淡々と言った。

まるで船穂みたいな言い方だ。

僕は頭を掻き。ため息をついた。

これはきっと話しておかなきゃいけないことだとなんとなく感じたからだ。

「さっき会った女の子は同級生で同じ中学だった橋本ナギサさん」

僕は軽く息を吸い込み言った。

「えっ……」

宮前は顔を挙げてこちらをみる。

「僕は正直者だからどう話そうか悩んでいたよ。『銀次』から聞いてると思うけど僕は中学生の時に怪異に出会った」

「天野のこと……?」

僕はただまっすぐ前をみて口を開く。

「うん。 そうだよ。 そのときの僕はいろいろと迷っていた。高校生になってからどうしようとか、それに……」

「…………?」

僕は息を吸い込んだ。

自分の過去を喋ることに恥ずかしさがあった。

けれどやっぱり正直な僕はそれを話さないという選択肢がなかった。

「僕はそのとき、橋本ナギサに恋をしていた」

「……そうだったんだ」

「ただ彼女に告白しようとかいろいろ考えていた。そして天野に出会う要因になった人がいる」

「要因になった人?」

宮前が僕の言葉を反復する。

それと同時に、天野がニヤリと笑みを浮かべる。

わかっている。

なんで天野の姿が僕自身なのか。

僕はそれらを頭の片隅に置いて、口を開いた。

「朧(おぼろ)月(つき)ユマという人だ」

「朧月ユマ……」

「彼女は橋本ナギサの友達だった。 そして僕はその朧月ユマと友人になる前の関係にいた」

「………………」

宮前はただ黙って視線をこちらに向けていた。

「朧月ユマは放課後によく話をするような仲でみんな考えるような仲でもなかった」

そう彼女は知り合いだっただった。

それに……。

「そんな彼女にお願いをしていた。橋本ナギサと合わせてほしいと。でもそれが天野と出会うきっかけになった」 

「なんでそれが天野と出会うきっかけになったの? 私には話が見えないんだけど」

宮前は真剣な顔をして口を開いた。

僕は彼女の質問に、ほほを掻き、どう話そうか悩んでしまう。

けれど話そうと決めたのだから。

僕は乾いた口を再度、開く。

「おかしいかもしれないが、朧月は僕のことを好きでいてくれたんだ」

「その朧月ユマって子がアンタを好きだったってこと?」

「そういうことだよ。それは後でわかったことだけど、僕は何かを勘違いしていたし、わかっていなかった。 そのせいで僕は天野に出会った」

「…………」

「バカだった。そのせいでいろいろと迷惑をかけた」

「じゃあ、そこで、『浜之上銀次』と船穂にあったの?」

宮前は一口、飲み物を口にすると口を開いた。

「そうなるね。 まぁ、結果オーライまでにはならなかったけど」

「どういうこと?」

宮前は首を傾げ僕のことをまっすぐに見る。

僕は彼女の顔を見ることができなかった。

「さっきの……、橋本ナギサを巻き込んだだけでなく、僕が怪異になった。それだけじゃない……。朧月も……怪異になった。その事件を通して天野に出会っただけでなく、自身が先祖返りの妖怪だと知った。事件はあの二人のおかげで、納めることができた」

僕は川の水面を見ながら言った。

天野はまだ笑っていた。

けれどそれに対して僕は気にかけない。

「そうだったんだ……。でもその……、朧月……、ユマさん……? その人はさっきの橋本さんと友達なんでしょ?  今は、どうしているの……?」

宮前はゆっくりと僕に問いかけた。

「……………」

僕はただ手元の飲み物を握りしめた。

「彼女は…………」

僕が言いかけたそのときだった。

「彼女はこの世の者ではなくなった」

「えっ…………!?」

宮前が驚くと共に僕も驚き、後ろをふり向いた。

そこには船穂が立っていた。

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