第37話 振り返るためには
もしあそこで天野がふざけたことを言っていても僕は固まってしまっていただろう。
僕はそんなことを考えながら、飲み物を手にした。
「宮前は何にする?」
僕は彼女に、問いかけた。
彼女は店内の冷蔵庫の方を真剣に見ていた。
「み、宮前……?」
「……。これにする」
彼女は無糖の紅茶飲料を手にした。
「じゃあ、行こうか」
宮前は僕の言葉に短くうなづくだけで口を開かなかった。
僕と宮前は支払いをすませ、店を後にした。
ふと気が付くと天野が横に立っており、いつもの茶化したような笑いではなく、不気味な笑いに見えた。
僕が黙っていると隣を歩く宮前が口を開いた。
「ねぇ……」
「な、なんだい……」
「さっきの女の人、誰?」
宮前は前を向きながら、表情を変えることなく言った。
「えーと……」
僕はどう言葉にしていいか戸惑っていると宮前は間髪いれずに言った。
「別に話したくなければいいけど」
宮前は何も気にしてないといいう風な表情をしているが、どこか雰囲気が変わったというかなんというか。
「私には関係のないことだろうから」
僕が固まったまま、口をパクパクさせていると続けていった。
「意外とアンタってやることやってるのね」
こちらをみずに言った。
いやなんかこわいよ。
僕はため息をつき、宮前のあとを追いかけ隣を歩く。
宮前はなぜかこちらをみずに、まっすぐと前だけ見ている。
僕にはわからなかったがとりあえず誤解だけは解かないと。
「あのー、宮前さん……?」
「何……?」
「怒ってます?」
僕が問いかけると彼女はまったく表情を変えずに口を開いた。
「怒ってない」
なんだか怒っているように見えるには気のせいだろうか。
「そっか……」
「本当にアンタって正直者なんだね」
宮前は顔の形を一切変えることなくいうから怖くて。
「あのー、宮前……、何か勘違いをしていないか」
「私が勘違い? 何を……?」
宮前は少し笑っていたが目が笑ってないから余計に怖く感じてしまった。
「うーんと……」
僕はこれは何か釈明しないとおもった。
後ろで静かに天野が笑っているのがわかる。
「宮前、もう少しだけ時間があるか?」
宮前は僕のほうに顔をむける。
「いいけど…、何?」
「少しだけ話をしたいんだ。いいかい?」
宮前はうなづき、口を閉じた。
僕と宮前は歩き川沿いの公園に足を運んだ。
近くのベンチに隣り合わせで僕と宮前は座った。
「…………」
「…………」
お互い無言になり、気まずい雰囲気を醸し出す。
そんなところに天野がちゃちゃを入れる。
「いいのか相棒。後悔すんなよ」
天野はけらけらと笑う。
僕は彼を無視して、口を開いた。
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