第36話 near

「…………」

僕が黙っていたのに気が付いた宮前はふとこちらをみて、言った。

「な、何、黙ってるのよ」

宮前は顔を少しだけ赤くして、僕の肩をたたく。

「痛っ……」

「本当に正直者なのかわからないわね」

そういって宮前はクスリと笑う。

彼女の笑う姿をみて、僕もつられて笑ってしまった。

「ちなみにそれは探偵をしているから、その推理なのかい?」

僕は何となく聞いてみた。

宮前は顎に人差し指をあて、考えると少したってから言った。

「教えてあげない」

彼女は顔をくしゃくしゃにして笑った。

僕はその顔を見て呆けてしまった。

彼女の顔をじっと、見続けてしまったのか、宮前はいつもの顔に戻りつつ、真っ赤にしながら、言った。

「ちょっと……、なんでそんなに見るかな……?」

怒り気味に言う。

「えーと、ごめん」

僕は顔を背けて、謝った。

彼女のそういう風に笑う顔を僕は予想外の表情だったから、見とれてしまった。

変なことは想像していない。

それは確かだが。

「結局のところ、可愛いとか思ったんだろ」

隣の天野が、面白おかしく、茶々を入れる。

僕は何も言わずに、天野をにらむ。

知ってか知らずか、彼はそれをみておおいに笑い転げていた。

「ねぇ、天野はなんで転がってるの?」

姿を見える宮前は不思議そうにいった。

「また僕の悪態みたいなものだよ」

宮前は僕の表情をみて、不思議そうに、顔を横にたおした。

「ふーん…………」

宮前はよくわからないという表情をし、黙った。

彼女に天野の声が聞こえなくてよかった。

「相棒。本当に、お前はチョロいな」

天野はまたさらに笑った。

僕は天野の顔をみることなく別の方向をむいた。

急な動きに宮前が質問してきた。

「どうしたの?」

「……喉乾いたから、何か飲みたいと思ったんだ」

「確かに私も、のどが渇いてた」

「あそこのコンビニで飲み物を買おうかと思うんだけど、行くかい?」

僕が近くで大きな看板を掲げるコンビニをゆびを指して問いかけると宮前はうなづいた。

「じゃあ、行こう」

僕と宮前はそちらに向かい歩き出した。

歩いてる最中は二人とも、無言で歩く。

何となく、黙っている感じもあったが、気まずい感じではなかった。

彼女は僕の横を歩く。

ふと思うが宮前は少しだけ僕よりも頭一つ分ほど、身長が低いことに気が付く。

なんだか変に、照れてしまう。

何を自分は期待をしてしまっているのか。

僕は自分を自制しようと、しながら宮前とは反対側で笑う天野の姿をみてイラついていた。

コンビニに到着し、中に入ろうと入り口に近づいたときだった。

入り口の自動ドアの扉があき、先客が出てきた。

僕は目の前の姿をみて動きを止めた。

宮前が僕の横で止まり、こちらを見ていたが、そんなことも気にしていられないほど僕は動けなった。

先客は僕に気が付き、こちらを向いた。

「あっ…………」

先客は僕を見て同じように固まった。

「えーと……、どうも……」

先客はこちらをみて、苦笑いをしながら会釈した。

僕も、釣られて会釈をする。

「久しぶりだね……」

「そ、そうだね……」

僕は先客の顔をみれずに、適当に挨拶をしてしまう。

「えーと、彼女さん……?」

先客は隣で、黙っている宮前をみていった。

「いや……、えーと」

僕は言葉に詰まっていると宮前が口を開いた。

「友達ですよ」

なんだか棘があるような言い方だが、気にしてはいられなかった。

「そうなんだ。 友達できたんだ」

先客は僕の方に視線を向けると言った。

その言葉はどこか空っぽのようなうわべだけの言葉に聞こえた。

「う、うん……」

「よかったね。また会えるといいね」

「こちらこそ……、元気そうで何よりだ」

「ありがとう。 じゃあ……」

そう言い、会釈をして先客は立ち去っていった。

僕は正直者だからそこで固まってしまっていた。

珍しく天野が黙っていた。

僕が黙っていると、宮前が口を開いた。

「中、入らないの?」

「…………、入るよ」

そういい僕と宮前はコンビニの中に入った。

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