第19話 出現

れから僕と宮前はうだうだと話をして、餓鬼憑きの男を待っていた。

三十分近くたった頃。

「それにしてもあの変な男、出てこないわね」

「そうだね。もうそろそろ一時間たちそうだし」

時刻は午後十時三十分を過ぎたところだったと思う。

僕らはそろそろ待つのに限界が来ていた。

早いかと思うけれど春とは言えまだ、寒い。一時間もいると凍えてくる。

「あの女、でたらめ言ったんじゃないの?」

宮前は眉間に皴を寄せ言った。

「船穂は確かに変わっているけどデタラメを言うような奴じゃないよ」

「そうかしら…」

僕らがそろそろ諦めかけていたときだった。

隣の天野が何かに気がつき話かけてきた。

「相棒、オマエさんの言うとおりだぜ。どうやらお出ましのようだぜ」

天野はニヤニヤと獲物を見つけた捕食者の顔をして笑っていた。

僕は天野が見ている方向へと向いた。

視線の先には数時間前に記憶した格好が立っていた。

暗がりをぼんやりと照らす街灯の下、餓鬼憑きの男がフードを被り立っていた。

男の格好は暗闇から出てきたかのように黒く、そして何よりも怪しいその井出たちは劇でクライマックスで出てくる悪役のようにも見えた。

フードを被っているせいか、男の顔は隠れ、表情が見えない。

けれど、声だけは聞こえた。

あたりの静けさに紛れ、不気味につぶやく声。

「肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉、肉」

声を聞いて背筋に寒気が走った。

宮前は口がふさがらず、ただ唖然としていた。

「本当に気色悪い奴だな」

天野はあきれたように言うと首を回し、すでに臨戦態勢の状態になっていた。

天野は僕の姿を形作り、自分と瓜二つに見えていたのが形が歪み、霧がかかったように不確かに見えた。

あたりに外気温の冷たさとは違う冷たさが感じられ、緊張が走る。

僕は心を冷静に保とうとしつつ、船穂に言われたことを脳の大脳辺縁にある海馬から必死に映像と音声を引き出していた。

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