第2話 ストーキング

宮前が向かった方向はまっすぐな道が続くため走れば追いつくし、すぐに見つけることができる。

 「何を急いでいるんだよ、相棒」

隣から笑い声が聞こえたけれど僕は気にせずそのまま、宮前の姿を追って走り続けた。

「そうかあの美味そうな女の後を追いかけているんだな。女の尻を追うなんて珍しいことだな、相棒」

「美味そうとかいうなよ、天野」

声の主の発言につい惹かれ、僕は言い返す。

しかし、僕が返したところには誰もおらず、誰にも届かずに消える。

そのことについて僕は驚かない。

「美味そうじゃないか。相棒、オマエはオレの好みを知っているだろう」

「だから何なんだ?」

「そう冷たいことを言うもんじゃないぜ、相棒」

天野はしょうがないなといわんばかりの雰囲気で言った。

「せっかくお前は俺なんだからさ」

僕は反応せずにそのまま走り続ける。

さっきから話かけている彼は天野。

彼こそが八ヶ月ほど前、平凡な僕を突拍子しで理解不能な事件への一歩となった原因であり、僕を半妖にした元凶。

天邪鬼。

嘘をつき、騙し、鬼であり、忘れ去られた神。

天野のという名前は僕が勝手につけた名前で、彼の愛称がなかった為、呼びにくいのを呼びやすくしただけ。

しかも、そのままだ天邪鬼だから天野という理由。

それに彼は他の人間には見えない。だからさっきから僕は一人で話しているように見えるだろう。当然だけど体をのっとられた僕は彼の姿が見える。

どんな風に見えるのか?

天邪鬼である天野が言うには人のようにも見えるだろうし、動物にも見えるらしい。

見方は人それぞれらしいけど、僕には彼の姿は鏡に映った自分の姿だ。

自分の姿が動いていてこういう声でこういう表情をするのだと知ると少しだけ自分の顔が嫌になる。なんだか恥ずかしく、悲しくもなる。

彼とは八ヶ月ほど、精神を共にしているため何がいいのか悪いのかわかるようになってきた。

それはいいとして天野が話しているのを無視しながら走っていると数百メートル先に宮前の姿が見えた。

走る足を止め、少し早歩きで彼女の姿を追いかける。

そして彼女を追いかけるように後ろには黒い違和感。宮前と話すためには黒い違和感を避けなければならない。

ただ幸いにも違和感と宮前の距離はかなりの差があるため、先回りすれば何とかなりそうだった。

僕は違和感と距離を取りつつ、彼女の姿も追う。

さてどうしたものかと考えていると、フランクに天野が話しかけてくる。

「さてどうしたものか?」

天野は僕の思考を呼んだのか、僕の声までそっくりにし、物まねをした。

「天野、馬鹿にしてないかい?」

「馬鹿にはしてないさ、ただ相棒が考えていそうなことを口にしたまでさ」

天野はシシシと笑う。

「相棒、ない頭で考えたって意味がないんじゃないか?」

「やっぱり、僕を馬鹿にしているだろ?」

「いやぁ、俺は真実を口にしたまでさ」

「それが馬鹿にしているっていうんじゃないのか」

「どうかねぇ」

「つまらないことを言うために出てきたんだった意味がないよ」

「じゃあ、今すぐに引っ込もうか?」

「それは困るな」

僕は宮前を追いかけつつ、小声で天野と話していた。

「で、相棒、お前はどうしたいんだ?」

「何を?」

「あの影のことだよ。あのお嬢ちゃんの後ろにヘドロ見たいにストーカーしてる黒い影のことさ」

「わからない。でもあの黒い違和感を避けなきゃいけない気がするんだ。だから、先回りするよ」

「それをしたら意味がないんじゃないか?」

天野はニヤニヤと笑っているが僕は無視をする。

僕はそのまま近くの曲がり角を右折し、裏道を使用する。

ここから数十メートル先には走ってきた一本道に続く曲がり角がある。

そこを左折すれば宮前に追いつく。

目的の場所まで走り、道を左に曲がる。

 曲がり角から勢いよく出る。

本来ならば宮前の姿を確認し、彼女に声をかけようとしていたはずだった。

そう本来ならば。

僕が元の一本道に戻るとそこには歩いているはずの宮前の姿はなく、そして黒い違和感さえも消えていた。

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