第32話 続く

 五月は小さい頃からなんとなく、やる気が出ない季節だ。

夏が近づく空を見上げて遠くに思いを馳せようとしてもただ虚しさが募るだけ。

なんとも諸行無常。

「それはただ単に面倒くさいんだろう」

僕の横に立つ奴はそういうと口元を歪ませ、笑った。

別に面倒だなんて思ってもいない。

「嘘つけよ。ただ逃げ出したいだけなんだろ」

誰がいつ逃げ出したいなんて言った?

「だから嘘をつくなよ。オマエの嘘はすぐにばれる。まぁ、俺だったら上手く付くけどな」

自身過剰じゃないか?

「自信過剰かよ? いまさら何を言ってやがる、オレの本分は嘘が主体だぜ」

横に立つ彼は歯をむき出しにして笑った。

「そうだったな。忘れてたよ」

「やっぱり嘘だな。オマエは本当に分かりやすい」

そういってもう一度、彼は笑う。

僕は空を見上げてもう一度、ため息をつく。

 宮前此方との事件から一週間ほど経過した、日曜日。

彼女と日常でちゃんと話せるようになり、友人としての距離も少し縮まった気がし、何とか僕の心も平常心が取り戻せた。

今の日常に問題はない。

ただなんとなく虚しいというか、心のどこかで空虚さを感じてしまう。

自分の心のむらなのだが、季節、時候のせいにしたくなる。

正直、今の僕には底まで熱中できるものがない。

学生なのだから勉強しろと言われたらそこまでなのだが学生くらい学業のほかに打ち込めるものがあってもいいと思うのだ。

けれど、部活や自分の好きなことに関して打ち込んでいる同級生を見るとなんだか羨ましくなってしまうのは否めない。

どうしたら打ち込める事柄を見つけられるのだろうかと思った。

そんなことを考えているうちに逆にまた虚しくなってしまうのだ。

そうなると横から野次を飛ばすかのように僕の分身である天邪鬼の天野は言う。

「だからそれは逃げ出したいだけなんだろ」

 天野は僕の心を見透かすように痛いところを突いてくる。

といっても天野は僕自身でもあるのだけれど。

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