第9話 天邪鬼
「
「天邪鬼?」
宮前は初めて聞いたような顔をする。
「そう、よくひねくれた奴のことをさす言葉だけど本当は妖怪、怪異の一種の名前なんだよ。まぁ、僕は詳しく知らないんだ。もっとそれを専門的に調べてる奴はいるけれどね。まぁ、やっくんはその怪異、天邪鬼に出会い、取り憑かれた。そしてその天邪鬼は今だにやっくんの中にいるんだ。そして彼を僕らは愛称をこめて天野と呼ぶんだ」
僕は天野を横目で盗み見ると彼は興味がなさそうに窓の外を眺めていた。
「彼は天邪鬼だから嘘をつく。だから嘘をついたときは彼が天野と人格が入れ替わったと考える。やっくんがもし嘘をついたら、それは天野が出てきたということ。だからやっくんは嘘をついてはいなんだ」
「…………」
宮前は少し黙り、考えるような仕草をし口を開いた。
「その話を信じることができません。もし仮にその話が本当だとしても私には嘘をついているようにしか聞こえません」
「こんな話で信じてもらおうとは砂一ミリ分も考えちゃいないけどね。お嬢さんを信じさせるためにはその眼で見てもらわないとね」
「どういう意味です?」
「疑うのならその眼で見てもらったほうがいいってことさ」
宮前は露骨に胡散臭いと今にも口に出しそうな表情をしている。
「お嬢ちゃんは奴のことを疑っているらしいな」
天野はニヤニヤしながら彼女たちを見ていた。
「そりゃあ、そうだろうね。だって銀次は胡散臭いもん」
「ははぁ。相棒、お前も言うようになったな」
僕と天野は二人して笑った。考えてみれば天野は普通の人に見えないから、傍から見れば一人で笑っているように見えるんだろう。それは少し恥ずかしいな。
「やっくん」
銀次は僕を呼び、反応する。
「なんだ、銀次?」
「そこに天野はいるんだろう?」
「あぁ、いるさ」
僕と銀次の会話を聞いていて宮前は何を言っているんだという表情をしていた。
「けっ! 別に聞かなくても見えてるんだろうがよ」
天野は吐き捨てるように言うとしかめた面をした。
銀次は何も答えずただ笑っているだけ。
「まぁ、準備は整っているから彼女に天野の姿を見せることができるね」
「お嬢ちゃんがどういう風に見えるのかが楽しみだがな」
銀次はよっこらせとお前は老人かといわんばかりの台詞を口にしながら立つと、隣の部屋へと出ていった。そして数秒後、銀次は縦長に大きな鏡を押して出てきた。
「じゃあ、これを使おうか」
「何をするんですか?」
「キミに天野を見せるんだ」
銀次は鏡を僕の近くに持ってくる。
「お嬢さん、鏡ごしにやっくんを見るんだ。そうすれば彼の姿が見えるはずだよ」
銀次はこのとき、天野のことを固有名詞、愛称で呼ばなかったことに気がついた。
宮前は鏡の前に立ち、僕のほうに目線を移動させた。
同時に隣の天野が不適な笑み、まるで獲物を見つけた獣のように笑った。
宮前はいぶかしむ表情をしていたが、一変した。
変わりすぎだろと僕は思ったがそれは間違いだということに気がついたのは宮前の反応を見てからだった。
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