第21話 昔の友達

「ふう……ただいま」


家に戻ってミルはホッとため息をついた。持って行った薬は全部売れてしまって帰りは身軽だったが、一日色々あったせいでどっと疲れが出た。


「あ、そうだ。ロマを人間に戻さないと」


ローグが上手くいったのか知りたかった。

まあ、元々二人の取り決めで、家に帰ってきたら人間に戻って結果を話す予定ではあった。

ミルは早速作り置きしておいた薬を取ってきて、ローグに振りかけた。


「ローグ様。お疲れさまでした。第一王子とは会えたんでしょうか?」


煙の中からローグが現れ、ミルがそう言った。

わざわざ中庭まで来た事を考えると、ローグと会えて何か聞いたのではないかとは思っていた。

ローグも少し疲れたのか、なんだか浮かない顔をしていた。でも戻った自分を見て少しホッとした表情にもなった。


「ミルもご苦労だったな」

「いえ。私はほとんど座っていただけだったので、苦労はほどんどなかったですよ」


ミルは首を振ってそう言った。疲れはしたが城に忍び込んで第一王子に会ったり、今までの事を説明する方が大仕事だ。きっと大変だっただろう。


「こっちは、なんとか上手くいった。ミルの所に兄上が来たのは兄上にミルの事を伝えたからだろう」

「あ、やっぱりそうだったんですね」

「まあ、俺もあんな風に直接会いに行くとは思わなかったがな」

「でも、捕まったり信じてもらえなかったりはしなかったんですね。よかった……」


ミルはホッとしたように言った。


「最初は勿論疑われたが、冷静に話を聞いてくれたので、なんとか信じてもらえた」

「う……やっぱり、疑われはしたんですね。まあ、逆の立場だったら警戒するでしょうし、しょうがないですね」


ミルは苦笑しつつ言った。


「ただ。少し、厄介なことを言われた」


ローグが眉を顰め言った。


「何ですか?」

「俺を猫にして王を殺した者を見つけて欲しいと言われた」


ミルは驚いて目を丸くする。


「え?見つけるって……どうやって?」

「それは、兄上があとで教えると……もしかしたら中庭に来たのも、それの一環かもしれない」

「それじゃあ、殿下から何かお達しがあるまで待つ感じなのでしょうか?」

「そうなるだろうな。兄上の事だから、そんなに時間はかからないだろう。それまではゆっくり待っているしかないな」


ローグは腕を組んで言った。


「分かりました。まあ、商人さんが商品がすごく売れたから、また仕入れたいって言ってくれていたから。やることは沢山あるので私は大丈夫ですよ」


今回は本当によく売れたようで、追加でまた注文したいと言われている。できれば今回よりも種類も量も増やして欲しいと言われていた。


「目的は果たしたからあまり無理はしないでいいぞ」

「あ、そう言えばそうでしたね。でも、こんなに評価されるなんて今までなかったから、出来れば出来るところまで頑張りたいです」


ミルはいままで、こんなに作った物を喜んで買って貰った事がなかった。それに今まで村でお願いして置いてもらっていただけだったから、直接買ってくれた人の顔を見たのも初めてだった。

それは想像以上に嬉しかったし、多少無理してもまた頑張りたいと思うくらいうれしかった。


「そうか、それならいいんだ。それに、いきなり止めるのも不自然だしな。その方がいいかもな」

「よかった。ローグ様には迷惑かけないようにしますので」

「ああ、それは気にしなくていいぞ。むしろ俺も手伝うよ。迷惑かけていたしな」

「いえいえ、そんな。この間素材を取りに行くのも手伝っていただいたことも申し訳なかったのに……」


そう言った途端、ミルのお腹が鳴った。ミルは真っ赤になり、ローグは思わず笑う。


「お腹がすいたな。そう言えば俺も朝から何も食べてなかった」


朝も実は緊張もあってあまり食べていなかった。しかし、なんとか終わってホッとしたのか猛烈にお腹が空いてきたのだ。


「帰りに王都で色々買ってきたのでそれを食べましょう」


久しぶりの王都だし、商品がかなり売れて懐が潤ったので、奮発して色々買ってきたのだ。


「後の話は食事をしながらにしようか」

「そうですね。すぐに準備しますね」


二人はクスクス笑いながらそう言って、食事の準備に取り掛かった。

食事の準備と言ってももう出来上がっていたのを、温めたり焼くだけの物ばかりだったので準備はすぐに終わった。

お皿に肉汁たっぷりのステーキとカリカリに焼きなおしたパンを並べ、それ以外にも細々と買ってきた物も並べる。

食事が始まるとローグは城に侵入した時の事を話す。


「……結構ギリギリだったんですね」


話を聞いたミルは冷や汗をかきながら言った。最初に話を聞いた時は軽い感じで言っていたが、実際は本当にギリギリの攻防があったようだ。


「まあ、確かにそうだな。でも、今回の事で兄上とは少し距離が縮まった気がするし結果的にはよかったと思っているよ」


ローグはそういいながら、少し複雑な表情をして頭を触った。


「ローグ様は殿下と距離があったんですか?……あ!す、すいません。立ち入った事を聞いてしまって……」


王家の噂は色々、市民にも流れている。勿論、真偽のほどは分からないし嘘も多いだろう。

だからうっかり聞いてしまったが、本人に直接聞くなんて失礼にもほどがある。


「噂は色々聞いているだろう。まあ、あまり話すような事もないのだが、色々複雑なんだ」

「い、色々ですか……」

「それと……出来れば口外しないでくれるとありがたい」

「も、勿論です。誰かに言ったりなんかしません」


ミルは昼に商人に聞いた話を思い出した。あの噂が本当なのかどうかは分からないが、一般市民には預かり知れないこともあるだろう。


「悪いな……」

「い、いえ……えっとそれで。第一王子が信じてくれてそれで、どうされたんですか?」

「ああ、そうだ。そこから何があったか詳しく話した。それから、王を殺した犯人を見つけて欲しいと言われたんだ」

「なるほど……」

「で、その後細々とした事を話していたら、猫に戻ったのでミルのところに戻ることになったんだ……」


ローグはそう言ったあと、少し複雑な表情をして自分の頭を触った。


「?どうかされたんですか?」


ミルがそう聞くとローグはハッと我に帰る。ローグの表情は何だか照れているようにも見えて、顔を傾げる。


「い、いや。何でもない。それで、その後の事はミルも知っている通りだ」

「なるほど、それで第一王子が店に来られたんですね」

「まさか、兄上が直接来るとは思わなかった。まあ、俺が来たと誰かに話す訳にもいかないから、直接自分の目で確かめたのかもしれないな」

「そうかもしれないですね。でも、驚きました。それにくわえてロストとまた会えるなんて思わなかった」

「そういえば、ミルに話しかけてきていた男がいたな。学校が一緒だって言ってたか?」


ローグは思い出したように言った。


「そうなんです。ロストはとても優秀な人で、落ちこぼれだった私を助けてくれたんです」

「へえ、優秀なのか。俺は魔法省の事はあまり関知していなかったが……兄上の側につかえてたなら将来的にも見込まれているのかもしれないな」

「ああ、やっぱりそうなんですね。学校でも有史以来の優秀な生徒だなんて言われていたんですよ。きっと魔法省のトップにだってなれると思います」

「ふうん……」

「人柄もよくて学校でも人気者だったんですよ。容姿も整っているし、私なんかとも仲良くしてくれるし、これまでにあんなに完璧に何でもこなす人間は初めてですよ……あれ?ローグ様どうかされました?」


ミルが嬉しそうに話していると、何故かローグの表情が何故か不満気に曇っていた。


「いや……別に……」

「そう……ですか?」


よく分からなかったが、そう言われてしまったらミルはなにも言えず首を傾げるしかなかった。

何だかよく分からない沈黙が流れる。


「えっと……それで、今後の予定なんですけど……」

「今日はもう遅いし、ミルも疲れただろう。明日は無理せずゆっくりしたらどうだ?」

「でも薬を作らないと」

「それにしても、今日の準備で色々あったし。ここで無理をして体を壊したら元も子もないだろう」

「た、確かに」


ミルは頷く。

確かに、今日は色々あってまだ体は興奮状態で眠れそうにない。しかし、疲れてはいるのだ。


「食事が終わったら、寝よう。俺も疲れたから」

「はい」



そうして、二人は眠りについた。

それから数日後、いつも通り過ごしていたら来客があった。


「はい?どちら様?……あ!ロスト!」

「やあ、約束通り来たよ」


来客は、ついこの間城で再会したロストだった。


「本当に来てくれたの?驚いた」

「会いたいとは思っていたのは本当なんだけど、実は仕事で来たんだ」

「え?仕事?」

「そう、第一王子から頼まれた仕事だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る