第37話 事件の裏側

色々あったが竜を使役してしまったことで、アレフの王位簒奪事件は呆気なく終わった。

勿論混乱はあったが、国政に影響があるほどの混乱は少なくてすんだ。


「ローグ殿下、陛下がお呼びです」


執務室で従者がローグに言った。


「わかった。これを片付けたらすぐに行く」


ローグは書類にサインを書きながらそう言った。知らせにきた従者はそれを聞くとお辞儀して部屋から出て行く。

今は、起こった事件の後始末の真っ最中だ。


「やっと少し落ち着いたかな……」


書いていた書類をひとまとめにして、ローグは呟いた。本当に色々あった。

あの事件の後始末は煩雑な雑務だけが多くて本当に疲れた。

それもあって、一段落した今ホッとしたような本当に終わったのか、信じられない気持ちだ。


「正直、解決して城に戻れるなんて、そこまで想像してなかったからな……」


使役獣にされて王殺しの疑いまでかけられたのだ。解決するところまで想像すらできてなかった。

ローグは立ち上がると、ワンドの元に向かうために部屋を出た。

廊下にいた使用人達が、ローグの姿を見つけると大袈裟なくらい慌てて、廊下の端に寄り恭しく頭を下げる。

他にも廊下にいた官僚達も、何か話している途中にも関わらず、ローグが通ると分かると途端に話を止めて頭を下げた。


「戻ってきたが、以前と同じとはならなかったな……」


苦笑しながら、誰にも気付かれないように呟いた。

以前はローグがいると分かっても、王族という事で道は譲ってくれていたが、普通に通り過ぎるだけだった。

ローグとしてはそれでとくに文句は無かったのだが、戻ってきた途端こうなってしまったのだ。

ローグが戻ったことで、貴族の間では、多少混乱があった。

しかし、ワンドがアレフに殺されそうになったことと、ローグが騙されはめられたんだと釈明したおかげで、解決した。


「まあ、俺も状況を把握するのでやっとだったんだ。混乱して当たり前だよな……」



特に害はないからいいのだが、怯えるような態度をされることがあるので、何だか恐ろしい化け物にでもなった気分で複雑な気持ちになる。まあ、王を殺したと決めつけていたのだ、報復されるとでも思っているのか。

落ち着かないので、足早に王の執務室に向かう。


「陛下お呼びですか?」


部屋に入ってローグがそう言うと、書類に目を通していたワンドが顔を上げた。

あの事件の時、弟のアレフに殺されそうになり、さらには竜まで現れたりと大変な状況だったが、怪我もなかったのですぐに元に戻った。


「ああ、少し聞きたい事があってな。座れ」


そう言ってワンドは執務室にある椅子をすすめる。ローグは少し緊張しながら座った。

色々あって兄との関係は少し縮まったように思ったが、それでも兄の前に出ると少し身体が緊張する。

なにせ、ワンドはこの国の新たな王になったのだ。


「聞きたい事って?」

「そう緊張するな。そろそろ、忙しさも落ち着いた頃じゃないか?」


ワンドはローグのそんな態度に気が付いたのか、少し表情を柔らかくして言った。


「え、ええ。ついさっき一段落したところです」

「そうか、城に戻った途端色々仕事まで押し付けてすまなかったな」


そう言ったワンドの表情にも、疲れが滲んでいた。


「いえ、俺は大丈夫ですよ。兄上も戴冠式の準備でお忙しかったのに、あんな事件があったから休む時間も無く仕事されていたでしょう。少し休まれた方がいいのでは?」


責任も仕事もワンドの方が大きく膨大だ。それに比べればローグの怪我はすぐに治ったし、仕事自体は以前にやっていたことと変わりない。


「大丈夫だ。私ももう少しで落ち着く。そうすれば、以前のように戻って落ち着くだろう」

「そうであればいいのですが……兄上の代わりになる人間はいないのですくれぐれも、体調には気を付けて下さい」


ローグがそう言うとワンドは苦笑する。


「本当に大丈夫だ。それにミルが作ってくれた薬は、どれもよく効いている。おかげで体調は以前よりいいくらいだ。それに……」


ワンドはそう言って持っていたペンを置いて少し真面目な表情になり、さらに言った。


「もし私に何かあっても、お前がいるだろう。めったなことはそう起こらないだろうが、なにかあったら、お前が引き継いでもらう」


「え?いやでも俺の母は……」

「それでも、お前は王族の血を引いているし、それだけの能力がある」

「でも……」


ローグは戸惑いながらも言った。ここに王族として住まわせてもらっているのは、建前としてだけだと思っていた。


「そのために仕事を多く回していたんだ。森に妖魔討伐に兵を引き連れて行って貰ったのも将来的には軍を任せようと思っていたからだ」


ローグはその言葉に驚く。軍を任せるということは実施、この国の二番目の権力を持つということだ。

仕事が多かったのは、逆らうこともない体のいい労働力だからだと思っていた。


「でもそれなら、アレフにも同じようにしていなかったのですか?」


アレフには一応、仕事はあった。しかし、基本的に誰でもできるような簡単なものだ。それでも頻繁にアレフはサボっていたのだが、ワンドは注意も警告もせず放置していた。

まあ、アレフは王妃のお気に入りで何を言っても無駄だっただろうが。

そんなだったからアレフはほとんど仕事をしていなかった。それでも、アレフは前王と王妃の血を引いている。


(何かあれば次に王になるのは弟のアレフだろうと思っていたが……)


周りの者も当然そう考えていただろう。最悪、仕事は官僚達がする。

ローグは王の血を引いているし、一応継承権がワンドの次だ。しかし、本当にワンドが何かあったとしても、何か理由をつけてアレフが継ぐだろうと思っていた。

何より王妃が反対しただろう。


(別に王になりたいなどとは思っていなかったけどな……。いっそのこと息苦しい城を出て行きたいと思っていた)


その時、ワンドが衝撃的な事を口にする。


「……この話はいずれ明らかになることなんだが、元々アレフには王位継承は無かったんだ」

「は?……え?いったい何を仰って……」


ローグはあまりの事に言葉に詰まる。ワンドが冗談でも言っているのかとすら思った。


「アレフは父の……前王の血は引いてないんだ」

「……まさか……本当なんですか?」


あり得ない言葉に思わず疑うような言い方になってしまう。


「ああ、これは父がまだ病に伏せって、何も分からなくなる前に聞いた。アレフはお前が生まれた一年後に生まれたが、王はお前の母親が死んでから王妃には指一本触れていなかったらしい」

「それは……」


ワンドは自虐的に笑いながら言った。


「一体どんな魔法を使ったんだろうな。いたずらな妖精が窓から入ってきたのかもな」


この国では、子供にどうやって赤ん坊が生まれるのかと聞かれた時に、妖精が連れてくるというおとぎ話を話す。ワンドはそれを例にだして皮肉っている。

もちろん子供を連れてくる妖精なんていない。当然、種を提供した男がいたのだ。


「それじゃ……」

「当時、父は他の女性と関係していた事もあって後ろめたさもあって何も言わなかったそうだ。そうして、自分の子供と認知した」


当時、ローグは一歳だ。記憶にもない頃なので知る由もない。


「そんな事が……」

「一応、王妃にも遠いが王族の血は流れている。順当に行けば私が王位継承するからと、この問題は放置されたんだ」


ただでさえ、問題があったのに更にこんな問題がたちあがったら、ややこしいことになるだろう。王位継承者がきちんといるから、事を荒立てるよりいいと判断されたのは分かる気がする。


「じゃあ、俺とは全く血のつながりはないってことですか……」

「そうだな。この事は何か問題がおきたら公表していいと言われていた。……とは言え当時を知る父の側近達はみんな知っているだろうがな」


そう言ってワンドは疲れたように眉間を揉む。


「じゃあ、父を殺した犯人が分かったのはそれを知っていたから何ですか?……いや、それだけじゃアレフが関係しているとはわからないか……」

「いや、まさにそれが理由だ。実はアレフの本当の父親が誰かも分かっている。魔法省のフェイ局長だ」

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