▼ 不眠症のゾウ
バイクに跨り、信号で止まっていると、視界にラブホテルが映った。なんてことはない、どこにでもあるようなラブホテルだ。
そのラブホテルから、二人の男が出て来た。それにも、特別不思議なところはない。痩せ細った気の弱そうな男が、ぐったりした小太りの中年男を抱えていた。
どう見ても、二人が合意のもとでラブホテルに入ったのではない。大抵の場合、二人の立場は逆だが。異質だったのは、痩せた男が、別の男が運転するバンの後部座席に、中年男を放り込んだことだ。そのまま、バンは逃げるように走り去っていく。
背中でクラクションが鳴った。信号は青に変わっていた。
ゾウはバイクを走らせ、目にしたばかりの光景について考えた。
浮かんできたのは百合餡の言葉だ。愛を囁き合う言葉ではない。ゾウは、パズルがピッタリとはまるような感覚を味わった。そうか。あれは、そういう意味だったのか。
フルフェイスの下の口元が、自然と緩む。
どうやら、試合は佳境に入ったようだ。
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