△引き金

 銃声が闇夜に轟く。余韻が空間を揺らし、硝煙のにおいが立ち込める。しかし、一発のそれを銃声だと気づく人間はいない。やがては、そんなものは最初からなかったかのように平穏な喧騒が戻る。

 およそ百年前のサライェヴォのように、血塗られた事態へと発展する銃弾であったが、それが引き金だとされるのは、随分後になってからだ。歴史は、後になってから歴史となる。

 英雄か、悪党か。それは視点によって変わる。真実はひとつではない。が、事実は一つ。殺人が行われた。

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