絶滅した種族に転生したけど俺は人間に戻りたい

青葉

第1話

 世界各地にダンジョンと呼ばれるものがある。


 ダンジョンはどんな場所どんな環境下であっても突発的に出現し、そこが人が立ち入ることがない海底洞窟の底や農家が所有する畑のど真ん中に地面が隆起して地下ダンジョンが発生したりと様々だ。


 ダンジョン内には魔物と呼ばれる外の世界では見かけない凶悪な進化を遂げた動物たちが蔓延り、日夜生存競争をしている修羅の世界だ。

 それでも世界中に存在するダンジョンは基本的に人類にとって益となる物が多い。


 強力な魔物から取れる革は強靭で熱や寒さに強く優れた防具の素材として使われることも多いし、他にも高濃度の魔素によって成長を遂げた薬草は希少な霊薬の素材としても使われる。

 かつて勇者が使っていた伝説の剣を構成する素材となった鉱石の中にはダンジョンの内部でしか採掘出来ないものがあったりと、それらの優れたアイテムの数々がダンジョンの奥地から採取された。


 そして人類はその中でも特に優れた生産性を持つダンジョンを管理、共有し周辺に都市を築き長きにわたってその利益を享受してきた。

 都市を築く程の有益なダンジョンとなるとそう数は多くないが、それでも確かに存在し、それらのダンジョンは今では人類にとって必須の存在となっていた。


 そして話は戻るが、そんなダンジョンの中に世界三大迷宮と呼ばれる三つのダンジョンがある。


 初めてダンジョンが出現してから数千年、古来よりダンジョンへ挑戦し数多くのダンジョンを制覇してきた先人たちですら完全攻略が達成できなかった三つの大迷宮、今でも未確認の小さな未踏破ダンジョンが発生したりするものの、早ければ一日で突破される事を鑑みれば、数千年ものあいだ未だに完全攻略されていないこれらの大迷宮は人類最後の未開の地と呼ばれた。


 1つ目は世界地図で言う所の右上、カーディア大陸の北西に位置する大迷宮、『ボラッゾの永久凍土』ここはこの世界でも一番寒い場所に存在する超大型ダンジョンだと言われ、最大の難所は名前からも想像できる通りの極寒な世界、強烈なブリザードが常に吹き荒れており、そこで生活している魔物達はその過酷な環境に適応する為に強靭な肉体有しており、その体つきはどれも巨大で中には砦サイズの魔物もいると噂される巨大な魔物達が蔓延るダンジョンだ。


 2つ目は『オブの大森林』、ここは北陸のカーディア大陸から一気に南へ移動し、未だ人類が生存権を広げられずにいる大森林が長い年月をかけてダンジョン化した場所だ。


 ここはボラッゾの永久凍土に比べたら多く調査が行われている。


 オブの大森林では未発見の薬草が多く見つかり、ただただ氷の大地に覆われているボラッゾの永久凍土に比べて利益となる部分が大きいのが理由だ。他にも絶滅したと思われていた動物も大森林の中で生息していることが確認されたりと何かと話題に欠かさない

 ただこのオブの大森林も流石三大迷宮と呼ばれるだけあって、非常に危険な場所になっている。

 統計によればボラッゾの永久凍土よりも挑む冒険者が多い事からその分オブの大森林に飲み込まれる人間が後を絶たず。毎年優秀な冒険者達がオブの大森林に挑んではそのまま帰ってこなくなるといった事が起きているそうだ。


 そして最後の3つ目、ここは他二つと違い世界の中央に位置するカイネス大陸のさらに中心部にある巨大な穴、そこから螺旋階段のように層が連なる巨大な地下ダンジョンである『アビスの大穴』だ。


 アビスの大穴はその存在する位置もあり別名『世界のへそ』なんて呼ばれたりもするが、ここは先程の二つと違い人類に管理されている。

 直径十キロにも及ぶ巨大な穴の周りには建物が並び、都市を形成している。このダンジョンがある都市は独立した自治権を持っており世界各国の様々な種族の冒険者たちがこのダンジョンの周辺で生活している。


 世界に存在する冒険者の二割はこの都市に住んでるとさえ言われており、アビスの大穴から生み出される巨大な富の他にもこれら強力な冒険者達が強力な軍隊となって不可侵の場所となっていた。


 世界のへそ、アビスの大穴と呼ばれるこのダンジョンはその巨大な大穴の外側からまるで螺旋階段のように下っていく、1~5層までは空も見えるがそれ以降は完全な地下ダンジョンとなる。


 そして5層以降、例外はあるものの大体10層ごとにダンジョン内に生息する魔物の強さががらりと変わる。

 アビスの大穴では魔物の強さが大きく変わる階層ごとに制限をかけている。HR(ハンターランク)と呼ばれる独自の階級制度が存在し、冒険者ギルドへの貢献度合いによってこれらのランクは上昇する。


 HRの10の倍数分だけ階層を下ることが出来る。アビスの大穴の10階層までは冒険者じゃなくてもダンジョンへ侵入することは可能だが、11階層以降は許可が必要となってくる。

 もし冒険者じゃなかったり、HRが不十分だった場合は例えその階層で遭難したり問題が起きたとしても基本的にギルドは介入してくれない。


 救助クエストも発注できずただ自力で帰還する必要がある。そしてその冒険者が死亡していたとしてもHR以上の階層で死亡した場合は保険適用外になるので遺族に保険金は支払われない


 それでもHR以上の階層に挑む冒険者は後を絶たず今日もどこかで実力不相応な場所で絶望している事だろう。


 そして、このアビスの大穴では現在人類が進出している階層は79階層まで、最高ランクはHR8の冒険者がたった4人と言う寂しい状況だ。


その誰もが人の枠組みを超えた英雄と呼ばれる冒険者たちだが、ここ数年は進出した階層が更新されたという話は聞かない


 それでもアビスの大穴の未到達領域へ挑める高ランクの冒険者が数年存在しなかった時期も含めれば今の状況は良いのかもしれない


 アビスの大穴へ本格的な挑戦を人類が始めてから700年近くが建つようだが未だアビスの大穴は攻略されていない


 世界三大迷宮に数えられるだけあって、10階層までは一般的なダンジョンと大して変わらない強さのモンスターばかりなのだが、40階層付近ともなると、アビスの大穴やオブの大森林と言った場所でしか見かけないレベルの強大な魔物達が蔓延っており悲しい事に短命な種族の人間種ではこの40層付近が種の限界とされている。


 今現在アビスの大穴へ挑戦できるHR8の冒険者を含め、50階層以上の階層へ行けるHR5以上の冒険者は皆亜人種と呼ばれる者たちばかりだ。


 特に優れた冒険者が多い種族は長命で魔法適性の高いエルフが一番多い、次に古代獣人種だろうか、彼らは並外れた身体能力を持ち人並み以上には魔法適性に長けている種族だ。


 その為何かと人間は劣等種とされアビスの大穴が存在する都市『エルデア』では肩身の狭い存在だ。









「やべぇよ……ここって絶対未到達領域だよ」


 陽が差し込まない暗闇の世界、3メートルはある巨大な人型モンスターであるトロルが小さな子供と思えるほどの巨大な魔物達が跋扈する深淵の地


 俺は7階層で日銭を稼ぐ下っ端冒険者として、いつもの様にダンジョン探索をしていた。


 アビスの大穴の周辺に建てられたダンジョン都市『エルデア』に来て早三年、最初は最弱級モンスターのスライムですらまともに倒せなかったひよっこの俺ですらゴブリンを数体程度なら戦えるレベルまでに成長し、HRこそ未だ変わらずの1であるものの順調に降りる階層を増やしていたある日の事だった。


 7階層は古代遺跡が地殻変動で隆起し形成された階層になっており、今ですら俺の様な遺跡漁りの冒険者たちが毎日のように探索しても何かしらアイテムが見つかる程にはおいしい階層だ。


 今は滅びた高度な古代文明の遺物から単純にダンジョンで死亡した冒険者の遺品など、様々なアイテムがこの第七階層に集まる。

 中には売れば年中贅沢な暮らしが出来る程の高価なアイテムが出てきたりと、HRの制限がない10階層までの階層に置いて特に人気なスポットだ。


 モンスターも一番強くて装備を纏った酷豚オークが数匹現れるぐらいなので俺レベルだとすぐに逃走するが、下っ端冒険者でも狩れないレベルでは無いのがこの第七階層だ。

 最も注意すべきはこれらのモンスターではなく、この階層自体が古代遺跡となっているので今でも解明できない摩訶不思議なトラップが発動することにある。

 ただ弓矢が飛んできたり、装備をダメにする液体が噴出するだけならまだましな方で、中には凶悪な階層への転移魔法陣が展開されたり、50階層クラスの魔物が現れたりすることがある。


 そんなレベルの事故は年に数回あるか無いかだ。以前どっかの馬鹿が宝箱にかけられている罠の解除に失敗し、トラップが発動したせいで30階層クラスの魔物がこの第七階層に出現したことがある。

〈八脚鬼蜘蛛〉と呼ばれるその凶悪な魔物は漆黒の骨格に前脚部には赤黒い鎌を持っている。

 当時俺は幸いにも地上に居たので巻き込まれなかったのだが、当時その第七階層にいた冒険者の半分がこのモンスターに殺された。

 碌に蓄えもなく、レベルも低い冒険者となると高価で本人の身体の強さが必要な蘇生魔法に耐えられるはずもなく、近年まれにみる大事件として今も語り継がれている。

 三日間ほど第七階層は閉鎖され、上位の冒険者にギルドが依頼するという形でこの〈八脚鬼蜘蛛〉は討伐され、討伐された魔物の亡骸の一部はギルドの博物館に展示されている。


 そういう訳あって、HR1の冒険者は例え束になっても30階層クラスの〈八脚鬼蜘蛛〉どころか10階層クラスのモンスターですらまともに戦う事すら出来ない

 ギルドもそれは承知なので、HRを上げる際は幾重もの審査がなされHR突破試験も上位の冒険者が試験官となって行われる。

 ギルドの許可が下りてもHRが実際に上がることが出来る冒険者は実に3割程度だと言われておりその難しさが物語っている。


「冒険者カードもエラー吐いてるし、絶対生きて帰れないよこれ……」


 極度の緊張で満足に呼吸も出来ないこの状況下で、常に持ち歩いている自分の冒険者カードを見る。


 ミナト・ヤマダ、そう書かれた自分の名前の横には16歳と言う年齢とヤマト国と出身国が、そして先月やっとの思いで上がったレベル8と言う数字と一緒に今この命を繋いでいるレベルアップと一緒に発現したスキル〈光学迷彩〉カモフラージュを発動しているので暗闇に輝くようにスキルの欄が点滅している。


 スキル〈光学迷彩〉カモフラージュによって俺はどうにかこの人外魔境の地で隠れ潜んでいる状況だが、その常時発動しているスキルのせいで現在冒険者カードに表示される魔力量の数値は刻一刻と減っていっている。

 そして自分のステータスが詳しく書かれている冒険者カードの裏面には現在自分が居る階層の詳細が表示されている。


 昔、人類史に残る偉大な魔法使いがこの冒険者カードを生み出し、どんな場所でも自分が居る現在地を教えてくれる。もし迷子になったりケガをした場合はこの冒険者カードのを使って救助を要請できるようになっている。


 そんな英知の結晶である冒険者カードに書かれている俺が今いる現在地は【アビスの大穴 階層 --】と表示不可能となっており、HR以上の階層にいる場合は救助適応外の為、救助用の通報ボタンすら押すことが不可能だ。

 ドシン.....ドシン.......と巨大な魔物達が歩く大きな地響きが現在俺が隠れている岩壁を隔てたすぐ近くで聞こえてくる。この〈光学迷彩〉カモフラージュが発動している間はバレる心配は無いだろうが、元々魔法適性があまりなく魔力量も多くないので、タイムリミットは後一時間と言ったところか

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